Column

名門・天理はなぜ投票制、効率化を重視しながらも全国の舞台へ行けるのか【前編】

2021.01.05

 秋の近畿を制したのは強打の智辯学園西村 王雅小畠 一心前川 右京といった経験者をはじめとした戦力で頂点まで勝ち上がったが、公式戦で唯一白星を挙げたのがライバル・天理だ。

 中村 奨吾太田 椋といったプロ野球選手も輩出する全国屈指の名門校である天理。現役時代は主将として全国制覇を経験した同校のOBにして元プロ野球選手の中村良二監督の下、今年のチームはいかにして近畿大会8強までの結果を残したのか。

少ない時間を効率的に過ごす

名門・天理はなぜ投票制、効率化を重視しながらも全国の舞台へ行けるのか【前編】 | 高校野球ドットコム
アップをする天理の選手たち

 取材日、天理高校のグランドに足を運ぶと、入念なストレッチやアップ。そしてキャッチボールにも時間を割き、ケガを防止する姿勢がすぐに分かった。またこの日は守備の基本を徹底的に覚えこむべく、基礎練習を中心にメニューを消化。オフシーズンらしいメニューではあるが、見ていて気づくのは本数が少ないことだ。

 冬場になると、素振り1日1000本といったようなノルマを決めるチームも多い。しかして「ウチの場合は平日300回、土日祝日は500回を練習時間のノルマにしています」と中村監督は説明。毎年、強打のチームの印象が強い天理からすると、意外な数字である。

 しかも、その数字はロングティーやティーバッティングの本数もカウントするとのことで、素振りをひたすらやるような感じではないというのだ。しかし、そこには名将・中村監督なりの考えがあってのことだ。

 「時間の制限があることもですが、たくさんやるにしても惰性でやることは意味がないです。でしたら、短い時間で少ない回数でも効率よくやろうということですね」

 しかし、選手たちからすると、やはり物足りないと感じることが多いようで、旧チームから選手たち自ら朝練で素振りをし始めるなど、選手たち自ら進んで練習量を増やす動きも出てきた。この傾向を中村監督は最も大事にしていることなのだ。

 「短い練習時間に無理やり1000回振らせるよりも、練習では300回やって、寮に戻ってから700回振ってもいいわけですよね。けど得られる効果は同じ1000回でも全然違います。自分たちで考えて取り組む練習の方が力はつくので、寮での自由時間を大事にしてほしいと思っています」

 だからこそ中村監督は「自主練習の時に何をするのか。それも見ています」とどんなメニューをするのかにも目を光らせる。そこで取り組メニューが違うと思えば声をかけることもするという。選手に任せる自主性があるとはいえ、正すべきところは正すようにしているのだ。

[page_break:天理が投票制を採用するわけ]

天理が投票制を採用するわけ

名門・天理はなぜ投票制、効率化を重視しながらも全国の舞台へ行けるのか【前編】 | 高校野球ドットコム
礎練習に打ち込む天理の選手たち

 今出てきた自主性という言葉は、全国の多くのチームが直面する課題。これまでチームに取材してきたなかで何度も耳にしたキーワードだが、天理でも自主性を重んじるスタイルがある。これは中村監督の現役時代の恩師の教えを継承しているところがきっかけだが、その取り組みが驚きである。

 なんと、ベンチ入りメンバーを投票制で決めるのだ。これは就任した2015年の秋から採用していることで、甲子園や近畿大会、神宮大会といった大舞台の際は指導者間で話し合うが、県大会のメンバーは選手たちに決定権を委ねるのだ。

 この取り組みをまず選手たちはどのように感じているのか。

 「自分たちで決める以上、結果だけではなくて日々の頑張りや寮生活なども見るので、『この選手なら背番号を託せる』と思って決めています」(杉下 海生

 「やる気のある選手、頑張っている選手がベンチに入れば勇気が出ますし、こっちもやる気になるので、雰囲気は良くなります」(瀬 千皓

 これを採用した中村監督は「逃げていると思われるかもしれません」と前置きをしながらも、投票制を取り入れる理由を語りだした。

 「プレーをするのは選手たちですし、我々が見えていない部分も沢山もあります。やはりまだ高校生なので自分に甘いところがあります。しかしベンチに入って活躍をしたいのならば、それ相応の練習をしてほしいとは伝えています。
手を抜いていては試合に出られませんし、仮に決まった20人が手を抜いているメンバーなら勝てないし、甲子園もいけない。甲子園で優勝することを考えるのであれば、自分たちで練習をするようになりますが、それでも結果が残らなければ『これだ大丈夫なのか』と問いかけはしています」

 主将の内山 陽斗も「自分勝手な行動をすると、信頼はされないので、良い取り組みだと思います」と日ごろから高い意識をもって取り組めていると実感。ベンチ入りのメンバーを決める権利を与える代わりに、練習や日々の生活に責任感を与える。これが自主性という言葉をはき違えないために天理が取り組むシステムである。

 前編はここまで。次回は今年のチームの秋季大会までの歩みを見ていきます。次回もお楽しみに!

名門・天理はなぜ投票制、効率化を重視しながらも全国の舞台へ行けるのか【前編】 | 高校野球ドットコム後編はこちらから!
「今年は不思議なチーム」天理の近畿8強への道のりと今後の課題【後編】

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.07

【鹿児島】神村学園は昨秋4強の鶴丸と初戦で対戦<NHK旗組み合わせ>

2024.05.07

【山陰】益田東と米子松蔭、鳥取城北が石見智翠館と対戦<春季大会組み合わせ>

2024.05.07

【北海道】函館大有斗、武修館などが初戦を突破<春季全道大会支部予選>

2024.05.07

【熊本】九州学院が文徳を破って22年ぶり3回目の優勝<RKK旗>

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.06

【2024年夏 全国地方大会シード校一覧】現在27地区が決定!

2024.05.02

春の神奈川準決勝・東海大相模vs.横浜の黄金カード実現! 戦力徹底分析、試合展開大胆予想!

2024.05.02

【茨城】常総学院、鹿島学園、水戸一、つくば秀英が4強入り<春季県大会>

2024.05.02

激戦必至の春季千葉準決勝!関東大会出場をかけた2試合の見所を徹底紹介!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>