Interview

史上7人目の3年連続20本塁打の佐藤輝明を開花させた近畿大の4年間

2023.09.14


14日、18年ぶり6度目のリーグ優勝を果たした阪神。この日は佐藤 輝明内野手(仁川学院出身)が本塁打を放ち、新人としては3年連続20本塁打を放った。これは史上7人目の快挙だという。

今、阪神ファン期待の星となっている佐藤だが、活躍の土台は近畿大4年間にある。佐藤はどんな4年間を歩んだのか。佐藤の強みや歩みを振り返ったインタビューを再掲したい。

<掲載 2020年10月08日>

規格外の打撃を支えるフィジカル さらに守備、走塁もレベルアップし、評価急上昇

グラウンドに立った佐藤を見たとき、最近では村上 宗隆九州学院出身)、石川 昂弥東邦出身)に近い衝撃を受けた。それほどスケールの大きい選手であった。

なぜこの佐藤が多大な注目度を浴びているのか。それはほかの人にはないポテンシャルの高さを持ったスラッガーである。

仁川学院時代は全くの無名だったが、田中秀昌監督に魅入られ、1年生からリーグ戦に出場。ここまでリーグ戦12本塁打。その1つ1つが豪快な本塁打を見せ、スカウトを魅了してきた。さらに大学2年生には大学日本代表を経験し、大学2年秋の明治神宮大会では本塁打を放ち、注目を浴び、スカウトの間ではドラフト上位候補の選手として注目を浴びてきた。

そして佐藤はただ打つだけの選手ではない。

「あんなに肩が強くて、動ける大型選手は日本人ではなかなかいませんよ」

と評するのが田中監督だ。

高校時代、知り合いの指導者を通じて、佐藤は近畿大の練習に参加した。そこで大きな衝撃を受けたという。

「高校時代、彼は捕手だったんですけど、スローイングタイムを試しに測ってみたら、18秒台を計測しており、そして打撃を見てみたら、モノが違いましたね…。すぐにうちで受験してくれとお話しました」

こうして近畿大入学が決まった佐藤。近畿大入学後、全くの無名で、同級生で佐藤について知っている人物はほとんどいない。主将・谷本もその1人だった。

「とにかく体がでかいのが第一印象で、打撃練習をしたら、ものすごく飛ばしていたので、すごい選手が入ってきたなというのは覚えています」

田中監督、チームメイトも驚くパフォーマンスを生んでいるのは、規格外のフィジカルだ。ベンチプレスは130キロ、握力は左右ともに75キロ、さらに50メートル6秒フラット。近畿大の首脳陣によると、常にジムでトレーニングをしており、パワーだけではなく、俊敏性の数値も大きく高まっており、さらに「肩が強くて走れて大型スラッガー」として進化を果たしたのだった。

さらに三塁守備にも捕球技術を高めることに磨きをかけ、光元一洋コーチによるとだいぶ守れるレベルになってきたという。

驚異的な長打力だけではなく、守備・走塁にも磨きがかかれば、NPBのスカウトが近畿大の生駒グラウンドに日参するのも当然。さらに人気球団の巨人・阪神が1位候補に挙げたことで、マスコミからの注目度が上がった。

この1年の課題は確率を高めること

そんな佐藤のストロングポイントである「打撃」。大学3年春は打率.333、2本塁打、12打点と結果を残したものの、3年秋は打率.188、2本塁打、9打点に終わった。佐藤はこの1年のテーマとして確率を高めることにこだわった。

自身の打撃フォーム、あるいはプロ野球選手の動画を見ながら、確実性を高めるにはどんな打撃フォームがいいのか、微調整を繰り返していった。田中監督はこの探究心の高さこそが佐藤の長所と語る。

「今、情報が氾濫しているので、youtubeなどを見て、打撃、そしてトレーニングをストイックにやっていると思います」

練習ではコンタクト力を高めるために置きティーを欠かさず行い、ティー打撃でもミートポイントを確認し、日々のフリー打撃ではテーマを持ちながら、強烈な打球を飛ばしていく。

久々のリーグ戦では本塁打を放ち、らしい打撃を見せている。ドラフトも近づいてきているが、佐藤は「あくまでリーグ戦に集中しています」と連日、注目度が高まる中でもチームの優勝のために日々、集中して行っている。

「リーグ戦で勝つことにこだわれば、自身の結果もついていくると思っています」

ただ、プロ志望を出した佐藤。打者の研究をするためにプロ野球の動画をよく見る佐藤は映像からでもプロの投手のレベルの違いを痛感してきた。自身の結果だけではなく、先を見据えて、この1年の課題として「確率」を高めることに決めてきた。

現在、6試合に出場して、打率.286、1本塁打、5打点と本人からすれば、満足いくパフォーマンスではない。10日、11日は強豪・立命館大。そして17日、18日は関西大と対戦する。この2大学は、関西学生野球連盟の中でもトップレベルの投手力を誇るだけに佐藤の真価が問われる試合となる。

佐藤のことを過去の教え子の中でも打撃面ではトップクラス。そして身体能力の高さも加えて、これまでいないタイプと評する田中監督だが、さらに付け加えて人間性について話してくれた。

「取材をしてみていただけたら分かると思うんですけど、これまでプロにいった選手のようなガツガツさがあるタイプでもない選手ですね。今までは絶対にプロのスカウトにアピールしてやるぞ!という泥臭いものを持った選手が多かったのですが、彼はたとえプロのスカウトがきたとしても、いつでもマイペースに練習に取り組みます。珍しい選手ですね」

一見、話を聞くと物足りなさを感じるかもしれない。ただ上達のために常日頃、研究とテーマ性を持って練習をしている選手であり、いい意味でマイペースさを持った選手なのだろう。

それは多大な注目をされ、結果が求められるプロの世界で、佐藤の性格はプラスとして働くか。

もしそれが実現した時、今のようにスカウト、一部マスコミだけではなく、日本中のファンが熱狂するようなスラッガーになる。そんな素質を持った逸材であることは間違いない。

(取材=河嶋 宗一

 

 

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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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