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四肢への打撲と気をつけたいケガ

2020.07.31

四肢への打撲と気をつけたいケガ | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 今年は全国大会に代わる各都道府県での独自大会が開かれ、選手の皆さんは野球のできる日常を実感していることと思います。梅雨が長引き、蒸し暑い日々が続きますが、ウイルス感染予防に加えて熱中症対策を万全にして試合に臨んでくださいね。さて今回はスポーツ現場で頻度の多い四肢(腕と足)への打撲と気をつけたいケガについてお話をしたいと思います。

四肢への打撲は日常的によく見られるケガ

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デッドボールや自打球など打撲は起こりやすいケガの一つ

 野球に限らずスポーツ全般において、何か物や人にぶつかったり、当たったりしたことによって起こる打撲はよく起こるケガの一つです。打撲といっても内容は軽度のものから注意を要する重症度の高いものまでさまざまです。野球であればデッドボールが代表的なものですが、まれに人と交錯してぶつかったり、フェンスに体をぶつけてしまったりといったこともあります。頭頸部や胸部、腹部などへの打撲は一度プレーを中断し、状況を把握した上で必要に応じて医療機関を受診するようにしましょう。

 腕や足といった四肢への打撲については、まず応急処置の基本であるRICE処置を行いましょう(R…患部の安静、I…アイシング、C…患部の圧迫、E…できる範囲で患部を心臓よりも高い位置に保持する)。痛みや腫れ、熱感(触ると熱く感じる)などの炎症症状は血流量を抑えることで軽減され、その後の経過にも大きな影響を及ぼします。また明らかな出血(外出血)がなくても、皮下や筋肉内などで出血(内出血)が起こることがあります。内出血は皮膚の明らかな変色を伴うものもありますが、見た目にはわからない状態のものもあります。このような内出血をそのままにしておくと、正常な細胞まで影響が及び組織の修復に時間がかかってしまうため、RICE処置によって影響を受ける範囲を最小限にとどめる必要があります。打撲をした当日や翌日は患部を温めるとかえって悪化することがありますので、長時間の入浴はなるべく控えておきましょう。

早期の競技復帰は慎重に

 打撲によるケガは比較的軽度のものが多く、そのままプレーを続けたり、短い休養期間で競技復帰するケースも少なくありません。ただし打撲が広範囲にわたるときや、痛みなどが残った状態でプレーを続けていると組織の修復が遅れ、結果的にケガを長引かせることにもつながります。特に太ももの前側や後ろ側への打撲によって、血腫(けっしゅ:内出血などによって血液が組織内にたまった状態)ができてしまうと、そこからカルシウムが沈着することで骨化性(こっかせい)筋炎となってしまうことがあります。打撲によって血腫ができないようにするためにも、初期段階として内出血を最小限に抑えるためのRICE処置を行い、しばらく激しい運動を控えることが早期復帰につながります。運動開始の時期などについては医療機関を受診した際に、医師と相談するようにしましょう。

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コンパートメント症候群とは?

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ふくらはぎの区画は小さく、打撲によって内圧が高まりやすい

 打撲の中で特に気をつけたいケガの一つにコンパートメント症候群と呼ばれるものがあります。複数の筋肉がある部位では骨や筋膜などによって囲まれた区画(小部屋のようなもの)が存在しますが、その区画のことをコンパートメントといいます。打撲によってある一部のコンパートメント内で腫れや内出血が起こると、区画の一つ一つは狭いために腫れや血液を受け止めるだけのスペースがなく、血管や神経などを圧迫してしまうことがあります。太ももや前腕部などでも起こることがありますが、特にふくらはぎは区画が4つにわかれており、区画そのものが小さいため、特に注意が必要です。

 急性コンパートメント症候群の場合、血管や神経などが圧迫されることによって激しいな痛みやしびれ感などを訴えることが多いといわれています。患部がパンパンに腫れているといった組織の内圧が高まっている状態が長引くと、細胞を壊死させてしまうこともあるため、早急に医療機関を受診して適切な処置を受ける必要があります(場合によっては筋膜を切開して、内圧を下げる)。コンパートメント症候群は打撲によるものだけではなく、繰り返し行うジャンプ動作やランニングなどの継続的な外力によっても起こることがあります(慢性コンパートメント症候群)。

 スポーツ現場での基本的な対応としてはRICE処置になりますが、急激な痛みや腫れ、しびれ、変形などが見られる場合は、骨折やコンパートメント症候群を疑って早急に医療機関を受診する必要があることを覚えておきましょう。

参考ページ)コンパートメント症候群(SPORTS MEDICINE LIBRALY/ザムスト)

https://www.zamst.jp/tetsujin/thigh_calf_shin/compartment-syndrome/

【四肢への打撲と気をつけたいケガ】
●打撲への基本的な対応はRICE処置
●打撲当日や翌日は患部を温めるようなことをなるべく控える
●筋肉内に血腫が残った状態で激しい運動をすると骨化性筋炎を引き起こすことがある
●コンパートメント症候群は打撲などによって組織の内圧が高まり、痛みを伴う
●打撲時にはまずRICE処置を。急激な痛みやしびれを伴う場合はすぐに医療機関を受診しよう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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