数年前にどん底からの再スタートの都立板橋、今こそ新たな活力で次のステップへ
「さあ、これから」というところだった
都立板橋の選手たち ※2019年春季大会で撮影
昨夏初戦で、同じ都立ながら甲子園出場の実績もある強豪の都立城東に挑んで勝利し、快挙と言われた都立板橋。さらに、2回戦も伝統の墨田工に競り勝ち、3回戦で好投手を擁していた都立高島に0対1と惜敗した。勝っても負けても1点差という戦いぶりは、緻密なチーム作りの成果でもあった。指揮を執った柴﨑正太監督は、チームの成長に感慨深いものを感じていたという。
というのも、赴任して部長(責任教師)として着任した当初は部内不祥事で高野連処分を受けている最中だった。そんなこともあって、父母会も崩壊していた。さらに活動再開へ向けての逆風は吹いていて、学校全体の改築改修工事がスタートしグラウンドも使えないという状態の、どん底からスタートすることとなった。そこから、紆余曲折を経ての昨夏の殊勲だった。
そして今春、着任6年目となり、「さあ、これから」というところだったが、新型コロナ騒動で全国的な練習自粛ということになってしまった。しかし、意識は負けていなかった。
「逆境を力にしてきて乗り越えてきた我が校だからこそ、世の中に伝えられるものがあると思う」
そんな思いで、「逆境こそ力に、そして誇りに」、「勝負心を持とう」という信念で、今回のコロナ禍に立ち向かった。
自粛が始まった当初の3月は、「各自が自宅でやれることをやっていこう」ということで、2週間くらいはほとんどノータッチにしていたという。それは、選手たちの自主性が育って来たということもあった。3月には、改修工事が続いていたグラウンドもやっと完成して、いつでも練習できる状況にはなった。
しかし、4月には全国的に緊急事態宣言が拡大。想定以上に休校期間が長引いてしまった。そこで、4月頭に選手たちと会う機会があった時に、体力が落ちてきている選手もいるなど、選手たちのコンディションもまちまちなので、保護者も巻き込んだ形でもLINEなどで情報共有していくシステムを構築した。
こうして、4月5月にはネットなどの環境整備を続けていき、選手たちにも「戦っていく意識が折れないように」という意識を維持し続けることにも尽力した。その一つとして、毎日20時30分からZOOMで部のオンラインミーティングを行うということをルーティン化した。
「日々の生活に規則性を作ることによって、生活リズムもよくなる。全体の意識を持たせるためには、臨場感を持つ意味でも時間を決めてのミーティングは意味がある」
柴﨑監督はそう考えている。オンラインの画面を通してではあるが、そこから見えた選手たちの表情に関しては「凹んでいたり落胆の様子はほとんどなく、自分たちで話し合いながら進めているという様子がよくわかる」という。それは、ミーティングの中で話し合われている内容からも推察できるという。
5月の連休明けからは、ほぼ毎日のようにオンラインミーティングが開催されている。個々のコミュニケーションとしては、学校でのミーティングよりもむしろ濃いのではないかと思えるくらいだという。
「彼らの意識は、本気だなと言うことは実感している。1日を振り返っての発言などにも、しっかりとした責任や重みが感じられるし、成長したなと言うことは感じさせてくれる」
柴﨑監督は、選手たちとはなかなか会えてはいないものの、オンラインを通じてではあるが、確実に選手個々がまた一つ、成長していっていることを確信している様子だ。
「力はまだまだですがどんな状況でもどんな子どもたちも無限の可能性があり、結果がついて来くるようになってきました」
昨夏の殊勲が大きな自信になったことも確かであろう。
昨年からの残る3年生8人と2年生14人に、3月の説明会を経て新入生も11人が入部してくることにもなっている。
「ウチは、どこにでもあるような、普通の都立高校かもしれません。だけど、そんな自分たちからも、こんな状況で発信できることはあるはずだと思っています」
まだ30代前半の柴﨑監督。その思いは、現役球児たちに勝るとも劣らない熱さである
(記事=手束 仁)
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