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運動連鎖とエクササイズの種類

2019.10.15

運動連鎖とエクササイズの種類 | 高校野球ドットコム

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 野球が上手くなるためには技術練習を行うことはもちろんですが、それを支えるだけの体力レベルの向上も必要となってきます。フィジカルトレーニングは体の「土台づくり」であり、同時に野球が上手くなるためにより近道となるエクササイズを選択して行っていくことが大切です。今回はスポーツをする上で理解しておきたい運動連鎖とエクササイズの種類についてお話をしたいと思います。

運動連鎖(キネティックチェーン)とは

運動連鎖とエクササイズの種類 | 高校野球ドットコム
投球時における運動連鎖の模式図

 スポーツを行うとき、ある一部分だけを動かすというよりも、さまざまな筋肉や関節などを動かしながら複雑な動作を行うことが圧倒的に多いと思います。野球は足を地面につけて動作を始めることが多く、投球動作であれば地面を使って得られた力を「足→体幹→腕→指」へと伝達し、最終的にボールに力を加えながらリリースすることでより速いボールを投げることができます。バッティング動作も同じく「足→体幹→腕→手首→バット」へと力を伝え、最後にボールとバットをアジャストさせることでボールを前に飛ばします。このようにさまざまな筋肉や関節などが連動して働くことを「運動連鎖(キネティックチェーン)」と呼びます。

 【運動連鎖に基づく2種類の運動】

 運動連鎖に基づく運動は大きく2種類に分けられます。それぞれの運動形態を理解しておくと、より良いエクササイズの選択につながります。

《OKC=open kinetic chain(オープンキネティックチェーン)》
 OKCとは「オープンキネティックチェーン:open kinetic chain」を略したものです。エクササイズを行うとき、手先や足先など体からより離れた遠位部にある関節が固定されず、自由に動かせる状態にあるもので、日本語では「開放的運動連鎖」とも呼ばれます。簡単にいえば体の末端にある足や手が固定されないもので、マシンを使ったトレーニングの多くはOKCです。体幹部を固定し、手は自由に動かせるベンチプレスやアームカールなどもOKCに分類されます。

 《CKC=closed kinetic chain(クローズドキネティックチェーン)》
 一方、CKCは「クローズドキネティックチェーン:closed kinetic chain」と呼ばれ、手先や足先などが固定された状態で行う運動のことを指します。OKCの「開放的運動連鎖」に対し、CKCは「閉鎖運動連鎖」と呼ばれます。CKCエクササイズは体の末端にある足や手が床などに固定された状態で行うもので、フリーウエイトを使ったものの多くがCKCに分類されます。スクワットやランジは足が固定されており、プッシュアップ(腕立て伏せ)は手が地面に固定されているため、いずれもCKCエクササイズとなります。

[page_break:それぞれのメリット・デメリット]

それぞれのメリット・デメリット

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CKCエクササイズであるスクワットは体幹部なども同時に鍛えることができる

 【OKCのメリット・デメリット】
《メリット》
 ・使っている筋肉以外の部分が固定されるため、ピンポイントで鍛えることができる
 ・体重がかからないので、自重よりも軽い負荷で行うことができる
 ・ケガをした後のリハビリエクササイズなどに適している
 (例えば腰が痛いときにスクワットはできなくても、体幹を固定したレッグプレスは行うことができる等)

《デメリット》
 ・固定されている部分は鍛えることができないため、他のエクササイズを行う必要がある
 ・スポーツ動作などの複雑な動き、力の伝達効率の向上などには関与しづらい

【CKCのメリット・デメリット】
《メリット》
 ・複数の関節や筋肉を動員させるため、よりスポーツの動作に近づけることができる
 ・一度に多くの筋肉を刺激するため、より高重量のウエイトを扱うことができる
 ・全身を鍛えることができるため、トレーニング時間の短縮が見込める
 ・姿勢を維持することで体幹部も同時に鍛えることができる

《デメリット》
 ・エクササイズ動作そのものがむずかしく、スキルが必要となる(専門家の指導を受けることが望ましい)
 ・正しいフォームで行わないと代償運動(目的とは違った筋肉をつかう)などを引き起こすことがある
 ・ケガをした選手のリハビリエクササイズには適していない場合が多い(患部にも負荷がかかるため)

 エクササイズの選択を行うときは、OKCとCKCそれぞれの特徴を理解した上で実践すると、より良いトレーニングプログラムとなります。同じ部位を鍛える場合、OKCではよりピンポイントで強化することができ、CKCではより多くの筋肉や関節を動員して、よりスポーツの動作に近い動きづくりに役立ちます。運動連鎖の概念とともにエクササイズの特徴をぜひ普段のトレーニングに活かしてくださいね。

【運動連鎖とエクササイズの種類】
・体の中にある複数の筋肉や関節などが連動して働くことを運動連鎖という
・体の末端が固定されていないものをOKC、固定されているものをCKCと呼ぶ
・OKCは目的とする筋肉を重点的に鍛えやすく、リハビリエクササイズにも適している
・CKCは全身を使いながら複雑な動きを可能にし、体幹部なども強化することができる
・それぞれのメリット・デメリットを理解した上でエクササイズを選択しよう

(文=西村 典子

次回コラム公開は10月31日を予定しております。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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