強靭な握力から生まれた伝家の宝刀・ツーシーム 攻めのピッチングで聖地へ 飯島一徹【後編】
ツーシームを投げるポイントを徹底解説!
現在は2つの握りで投げ分けている
飯島の代名詞といっていいツーシーム。その変化はまるで山崎康晃(横浜DeNA)のツーシームである。では、そのツーシームを飯島に教えた人物は北部地区の強豪・本庄第一で監督を務めた須永三郎氏からだった。
「僕はこれまで須永さんからよく指導していただいておりまして、昨年9月くらいに須永さんから握りや投げ方を教わったんです」
気になる握りを見てみると、挟んで投げるスプリットのようである。さらに飯島は指の掛け具合で軌道の変化をつけている。
「スプリットみたいに握って、リリースの時に引っ掛ける感じです。ただ、中指と人差し指のどちらかにかかると、シュートになったりスライダーになったり、日によってバラバラです。ただ握りの深さを調整して、カウントを稼ぐ時と三振を取る時を使い分けています」
飯島は習得し始めた9月から2ヶ月ほどでマスターに成功。この変化球は指力の強さ、握力の強さが問われるが、それは日頃から弛まぬキャッチボールと握力強化があって実現したものだ。
「野球を始めた時からキャッチボールを大事にしているのですが、高校に入ってから指先を大事にしようと思って最初に変化球を投げるようにしているんです。それで指先の感覚を確認しつつ、新しい変化球を試すんです。そこで良ければブルペンで投げます。
硬式になって爪先が剥がれやすくなったのもあって、トレーニングを始めました。最初は家でゴムボールを握ったり常にボールを持ったりして鍛えました。あと、高校2年生からダンベルを使った握力強化を始めました。それで握力は右64キロ、左58キロになりました」
花咲徳栄に勝った時は思わず涙が出た
今春の県大会・大宮東戦での飯島一徹
こうして代名詞・ツーシームを駆使して秋の埼玉県大会は準優勝。見事関東大会への道を切り開いた。しかし、初戦の佐野日大では9回に1点リードの場面で登板するも勝ち越しを許し、1回戦で姿を消した。
「あの場面でマウンドに上がるということは期待されているはずなのに、それに応えることができなかった。エースとしてチームを引っ張らないといけないのに、情けない姿を見せてしまいました」
そしてオフシーズンは徹底的に走り込み。グラウンド近くの土手やマラソンコースと呼ばれる1周10キロのランニングコースを走るなどして下半身を強化。体が強くなったことで、体のバランスも変わり、踏み出す際、6歩半だと合わなかったため7歩にしたことで、さらに球威が増した。
座右の銘『頑固一徹』を貫き、夏に活躍して見せる!
迎えた春、初戦の大宮東戦で完封勝利を挙げると、準々決勝で花咲徳栄と対戦する。試合前、飯島は「小さいころから知っているチームなので光栄だと思いました。あと高校野球3年間で戦えることは少ないので、いい経験だと思い本来の力を出せればと思いました」
全国クラスの打線相手に、「インコースに球威のあるストレートで詰まらせて、アウトコースにはツーシームで空振りを獲ろうと思いました。とにかく攻める投球でいこう」と考えた。
さらに当日はスライダーも抜群だったため、それも混ぜながら強力打線を強気なピッチングで抑え込み、7対5で勝利。夏のBシード以上が確定。そして2季連続の関東大会出場も同時に決めた。
「徳栄さんを倒すことは目標だったので、勝ったときは嬉し涙が出てしまいました」
取材日に計測した最速142.2キロとその時の回転数
しかし春季関東大会では、「秋に不甲斐ない姿を見せたので、『今回こそは』と思ったら力んでしまった」ことで思うような投球ができず、桐光学園に敗れた。
最後の夏に向けて調整を続ける飯島。最後に夏への意気込みを伺った。
「7回勝たないと甲子園には行けないので、疲れている時こそ基本に立ち返って、低めを意識してどんどん攻めていく姿を貫けたらと思います」
取材日はブルペンでピッチングを行った飯島投手。ミズノ社の計測アプリ「MA-Q」で計測すると、45球計測して平均139.5キロ(最速は142キロ)。そして回転数は2154(最大は2276)だった。東農大三は夏の大会に向けてトレーニングで体を追い込んでいる。万全な状態ではないとはいえ、これだけの数字を叩き出す飯島投手のポテンシャルはさすがの一言だ。
勝てる投手になることを理想に掲げる飯島投手。悲願の甲子園へ、飯島一徹はエースとして貪欲にチームの勝利のために右腕を振る。
文=編集部