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野球は格上に勝てるスポーツ だからこそ組織力と思考力が重要  大産大附【後編】

2019.06.18

 2018年2月、大産大附は新体制がスタートした。元ソフトバンクの強打の捕手として活躍したOBの田上秀則監督が就任した。田上監督は現役時代の2009年には26本塁打を記録し、ベストナインを獲得。かつてプロの第一線で活躍した田上監督が就任したのは、大きなニュースとなった。母校に就任して1年半。田上監督はいかにしてチームを強化してきたのか。後編では冬の練習や春の大阪府大会の履正社戦を振り返ってもらった。

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プロの世界を知っているからこそ日々の生活と明確な方針にこだわる 大産大附(大阪)

レギュラー、控え選手もチャンスは平等。甘さが見られるプレーは許さない

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スクワットをする大産大附の選手たち

 ここまで学校生活を重視することで、選手の取り組みは大きく変わったことを紹介したが、選手に対する評価法も変わってきたということ。

 吉見主将は「田上監督が就任するまでのチームは、あまり選手の入れ替えがなくてずっと試合に出れない人が居たのですが、田上監督はいつも試合に出てる人でもエラーしたらどんどんサブの選手を出していくのでそういう面ではいろんな選手にチャンスが与えられていいなと思いました。いつでもチャンスが巡ってくると思って頑張れていると思います」

 取材日の練習でもそういう風景が見られた。実戦練習で、サードのレギュラー選手が体で止めることができず、ゴロを後逸したシーンがあった。しっかりと捕球する準備ができれば後ろに逸らすことはない打球だった。田上監督はそれを逃さず、サードの選手を外し、控えの選手を呼び、サードを守らせた。失敗することが悪いわけではない。最低限の準備ができない選手には守らせない。その方針が徹底としている。

 また全体練習後の自主練習も選手任せ。
「自主練習をしたから偉いという評価は僕にはないです。体調がすぐれない、しっかりと休んで自主練習をしないというのは自分の体調のことを考えて練習に取り組めているわけですからOKですし、全体練習を行う中で、自分の課題が全体練習で解消しきれない場合は自主練習に取り組む。その考えもOKです。1つだけ忘れてほしくないのは、彼らは学校があっての野球があること。学校生活に支障をきたすような自主練習をする必要はありません」

 田上監督はメリハリをつけた練習スケジュールを行っている。冬場は必ず週1、週2回の休みを設けた。
「僕の場合、やるときはやる。休む時は休む。週2回の休みを設けましたが、練習はきつかったと思いますよ。僕がメニュー作りましたから(笑)。でもしっかりと休みは作ってあげました」

 主将の吉見は冬の練習内容をこう振り返る。
「グラウンドにコーンを置いて行います。4チームに分かれてリレーを約30分やって最下位のチームはペナルティがあります。死ぬ思いで走りました。下半身強化のためのスクワットもしっかりと行ったと思います」

 その効果はしっかりと現れており、田上監督は「今年はスラッガーもいませんし、守備や総合力で勝負するチームではありますが、以前よりもオーバー・フェンスの打球が増えてきています」と手応えを感じている。

[page_break:野球は組織力をつけて、どう格上に対抗する実力、考えを身に付けていくことができるか]

野球は組織力をつけて、どう格上に対抗する実力、考えを身に付けていくことができるか

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昨秋から4番に座った谷村泰司

 こうして迎えた春の大阪府大会では4回戦で履正社と対戦し、0対6で敗れたが、秋の大会から府内で圧倒的な戦力で勝ち上がった履正社に対してはこの戦いは前進と受け取れる試合内容だった。田上監督は履正社戦についてこう振り返る。

 「結果で見たら6対0と負けていますし、その結果に満足かと言われたら満足ではないです。野球は勝負事で必ず勝ち負けがつきますから。ただ、能力の差以上の勝負は出来たんじゃないかと思います。だから負けはしましたが、この夏に繋がる負けだったんではないかと思いますね。もしかしたらもう一息、もう少し何か僕達にあれば、履正社さんや大阪桐蔭さんの足元をすくえるかもしれません。自信は出てきたと思います」

 この試合で登板した吉見主将は
「実は昨年、履正社と練習試合したことがあり、2対16という点差で負けてしまいました。そこから、どうしたら点差が縮まるかを考えて練習を取り組んできました。0対6で敗れましたが、投手陣が頑張ってくれたと思います」

 また昨秋から4番に座った谷村泰司は、練習中から走者を返すことを意識した打撃と、集中力を高めるためにイチローが打席に入る前に行うルーティンを取り入れ、履正社のエース左腕・清水大成から二塁打を放つなど、選手自身が試行錯誤した取り組みが少しずつ結果となって現れている。

 夏へ向けて、田上監督は組織力を高めていく考えに変わりない。
「野球の面白さは力のあるチームに対しても組織力が高ければ対抗ができて、勝つこともできること。僕は元プロなので、よく使っている表現ですが、年俸500万円の選手が年俸5億円の投手からホームランを打てる可能性もあること。高校野球でいえば、大阪桐蔭履正社と100回やって1回勝つ可能性もある。その1回を夏に当てはめるには、駆け引き、戦術、考え方を学んでいきながら、チーム力を身に着けて行く必要がありますよね」

 確かにこう考えていけば、日々の練習の取り組みは変えることはできるし、楽しく取り組める。
 選手たちはそれを理解しているようで、田上監督は「変わってきていると感じます。夏へ向けて、その中で、各々の力を夏までにもう1段階、もう2段階レベルアップしよう、と。その中でチーム力が生まれたら今よりもさらに上がるんじゃないかなと思います」

 田上監督が取り組む野球はオーソドックスに見える。だが、元プロだからこそ基礎にこだわる姿勢、理論は明快で、一夜漬けではなく、日々の積み重ねを大事にする考えは第一線でやってきた方らしい考えだ。
 1人の人間をしっかりと成長させる仕組みが伝統となれば、大産大附は大阪に新たな風を吹かせてくれるはずだ。

(取材・河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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