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プロの世界を知っているからこそ日々の生活と明確な方針にこだわる 大産大附(大阪)【前編】

2019.06.13

 2018年2月、大産大附は新体制がスタートした。元ソフトバンクの強打の捕手として活躍したOBの田上秀則監督が就任した。田上監督は現役時代の2009年には26本塁打を記録し、ベストナインを獲得。かつてプロの第一線で活躍した田上監督が就任したのは、大きなニュースとなった。母校に就任して1年半。田上監督はいかにしてチームを強化してきたのか。その改革の中身に迫った。

技術よりも、野球よりも学校生活が大事な理由

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プロの世界で強打の捕手として活躍した田上 秀則監督

 元プロの指導者となると、技術的な指導が優れているとイメージしたくなるが、田上監督が重視するのは取り組む姿勢と学校生活だ。

 「練習に取り組む姿勢や学校での私生活という所を大事にさせています。野球だけが上手くなればいいという事ではありません。高校野球というのは、学校があってこそですからね。あくまで学校生活第一で、それをクリア出来てから部活をやりましょう、という事です。給料をもらうプロではないですし、学生ですから学校を第一に大切にして、そして野球をどのように取り組むのか、取り組む中でどのような意識をするのか。やるだけでは意味はないので」

 昔の高校野球といえば、野球第一な考え方があった。学校生活が大事といわれても、どこか甘さはあったかもしれない。田上監督は練習で頑張っても学校の先生たちに評価されるわけではないと話をしている。

 「よくうちの生徒には言うのですが、グラウンドでどんなに練習を頑張っても、学校の先生がグラウンドまで観に来てくれる訳ではないので、誰も評価してくれないよ、お前らは学校生活の姿を見られて評価されるんだぞ、と。
 だから、学校生活がちゃんとしていなければ、『野球部はちゃんとしていない』となるし、どんなにグラウンドで頑張っていても『野球部はあかんな』という印象になるとは言っています」

 その立場、場所によって評価されるポイント、評価する人も変わってくる。学校であれば、授業を真面目に聞く、寝ないこと。赤字を出さず、成績を残す。そして先生、一般生徒たちには横柄な態度にならず、丁寧に接する。その積み重ねが野球部への信頼とつながっていくのだ。

 実際に大産大附は私学であるが、練習開始は16時、もしくは17時と遅い方で、一部の強豪校にありがちな、昼から練習ができるカリキュラムがあるわけではない。しかもグラウンドは校外にあり、学校の先生が気軽に見られる環境ではない。学校生活を大事にしないといけないのは日々の生活スケジュール、環境からでも感じ取ることができる。

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ガッツポーズをする吉見 良磨主将

 吉見良磨主将は「野球する以前に学校生活があっての野球部なのでそこは口うるさく言われてます。そのおかげで、選手の練習での意識も変わってきて赤点があった人も減ってきています」

 吉見主将の話通り、田上監督も選手の意識面の成長が見られていると感じている。

 「変わってきました。意識の部分では変わってきたんではないかなと思いますね。野球に取り組む姿勢も変わりましたし。例えば当たり前の事なんですけど、授業を寝ないで聞くとか、先生の話を聞く、ノートを取るなどの当たり前の事を出来るようになってきたのかなと思います。完璧ではないですけどね(笑)でもやっぱり、そこが変わるだけでグラウンドで野球に取り組む姿勢も変わりますね」

 ここに狙いがあった。就任当初、大産大附の選手と接してみて、意識的に物足りなさを感じた田上監督。学校生活の取り組みを改善させていくと、1日1日の練習の取り組みも変わっていたのだ。

 現在のチームについて、「チーム力は大きく上がったと思います。特に練習中、選手たちの声かけの内容が実戦を即した内容になってきました。秋、スタートした時、試合に出ている選手が少なく、不安ばかりのスタートでしたから。それは私生活、学校生活の取り組みが変わってきたからだと思います」

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我々の方針と意図を理解してもらうために1から10まで説明する

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グランドに挨拶する大産大附の選手たち

 田上監督と話をしていて、気づいたことがある。それはとても理詰めで物事を説明してくれることだ。チームの方針、なぜ私生活を大事にしなければならないのか、なぜ感謝の気持ちを持ってプレーをしなければならないのか。それを事細かくに説明してくれた。

 田上監督に「普段から選手たちにもこのように細かく説明しているのでしょうか?」と質問してみた。すると田上監督は、「そうですね。端折ることはしないです」と説明する。

 その意図を詳しく聞いてみると、
「我々、指導者は指示をしたり、何か方針を説明する時に、端折ることをしがちなのですが、高校生の場合、1から10まで言わないと理解ができないんです。私から何度も説明し続けて、理解をして、自然と行動できるまでにします。もちろん高校生はまだ子供ですから完璧にはできないので、大学に進んで、行動できる力を着けてもらえばと思います」

 この方針は選手たちにも好評だ。吉見主将は「理論だったり、なんでこうしなきゃいけないとかしっかり教えてくれます。そうやって、熱心に教えてくださるので夏期待に応えたいなと思っています」

 そして1人1人に対して、それぞれに合った指導を心がけている。
「野球は正解がある訳ではないですからね、逆にやってはいけないことはありますが。感覚は野球の中で大事だと思うんです。打っている感覚、投げている感覚が大事ですけど、その感覚を教えるは難しいですよね。あくまでそれは僕の感覚であって、教える選手がその感覚を分かるかと言われれば難しいです。なので、指導の中で感覚は教えないようにしていますね。その感覚を自分で掴みなさいと。その感覚を掴む為のサポートを僕達がしてあげるという事です」

 たとえば主将の吉見に対しては、「左脇が開いてると指摘され、もっと右手を返せと言われて直したらスイングが良くなって練習で柵越えを打てるようになりました。プロを経験されている方なのでわかりやすいですし、僕だけではなく、多くの選手がアドバイス1つで打球が鋭くなっていたりして凄いです」と語る。

 ただ田上監督は「教えてもらったことを理解することは、理解力があってこそできるもので、それができるにはやはり学校生活をしっかりして、取り組む姿勢を変えていく事が大事です」と学校生活の重要性を説いていた。

 今回はここまで!次回は選手たちに取材をしながら、大産大附をさらに深堀していきます。次回もお楽しみに!

(取材・河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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