背番号を総選挙で決めるその真意 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.1
九州文化学園の野球部、全国の高校野球ファンはどれだけ知っている名前だろうか?九州文化学園は、2006年に男女共学になった。野球部は元プロ野球選手の古賀 豪紀(こが・ひでとし)監督の下、メキメキと力を付けていきている。2014年には21世紀枠に推薦され、県内でも上位に入るようになってきた。
ただ今回の連載コラムでは、九州文化学園の野球技術ではなく「高校野球へのアプローチ」を取り上げたい。数々の常識を打ち破ろうとする九州文化学園のユニークな取り組みに、新しい高校野球の可能性を感じてほしい。
指示待ちはいらない!自分で考えてやる
古賀豪紀監督(九州文化学園)
「監督が言ってやらすような指示待ち人間にはなって欲しくないんですよ。大人とコミュニケーションを取って欲しいんです。 何も考えないで、声だけ「はい!はい!」とう返事はいらない。普通の「はい」でいいから、コミュニケーションを取ってほしい。喋れる人間を育てたいと思っています」
この言葉はインタビューの一番始めに古賀監督から出てきた言葉である。実際に、九州文化学園野球部には監督が怒鳴り、選手が声を張り上げるような雰囲気はグランドにはない。選手やマネージャーも会話のキャッチボールが出来るのである。
では、古賀監督はそんな独特の空気感が漂う九州文化学園野球部員に何を求めているのだろうか?
「大人になった時、相手と会話が出来る、『コミュニケーションの能力』をつけてほしい。将来みんな働くわけですから、指示待ち人間はいらない。『自分で考えてやる』そういう人間を育てたいと思っています」
そう『コミュニケーション能力をつける』 『自分で考えてやる』この2つが古賀監督の根底にある考えなのである。
ではこの2つの言葉を常に頭に置きながら、次の話に勧めたい。
背番号は総選挙で決める!
九州文化学園野球部
夏のベンチ入りメンバーは、選手の投票で決まる。選手はまず自分が希望する番号に立候補する。複数の立候補があると、投票が行われる。投票は、選手がそれぞれ1票を持ち、自分が投じたい立候補者に1票を入れるのである。一番票を集めた立候補者が背番号を手にする。監督には投票権はなく、あくまでも純粋な投票によってベンチ入りメンバーが決まるのである。
この総選挙の真意はどこになるのだろう?
そのヒントとなるのが2分間スピーチにある。立候補した選手は皆の前で自分をアピールをする。アピールする対象は監督でなく生徒である。つまり他の選手と過ごすであろうすべての時間がアピールの対象である。野球だけでなく授業態度、寮生活などすべての取り組みの上で、夏まで何をやってきたのかが大事になる。
通常監督がベンチ入りメンバーを決めるのなら、監督と接する短時間だけ、監督にアピールすれば良い。ただし、総選挙はそうはいかない。他の生徒と接しているすべての時間が、総選挙のアピールに繋がる。言い換えれば、どんな時も、目的を持ちしっかりとした生活態度でいる必要がある。まさに、『常に自分で考えて行動する』をやり続けないといけないのである。
「監督が決める20人って簡単じゃないですか。勝ちたければ、授業態度悪かろうが、何しようが上手いやつを使えばいいんです。でも、それじゃだめだと僕は本当に思っています」
この言葉から、古賀監督の真意が見えてくる。勝利だけを目指すだけなら、監督が上手い選手を選べばよいが、勝利より選手が卒業しても必要な力を付けるために行っているのである。高校野球の[stadium]甲子園[/stadium]優勝がゴールではなく、それぞれ選手の人生の勝者になるための方法を野球を通して伝えようとしているのだ。
また野球や授業態度などすべての面でしっかりとした行動をすれば良いわけではない。自身が決めて行ってきた行動を2分間でアピールしないといけない。そうなると、相手に2分間で真意を伝えるコミュニケーション能力を必要としている。
まさに、この総選挙には『コミュニケーション能力をつける』 『自分で考えてやる』 が詰まっているのである。
「僕が決める20人だったら、監督にゴマをする。みんな、「監督を胴上げしたい」とか「監督を日本一にしたい」とか。監督が決めるんでみんな監督におべんちゃらを使うしかないですよ。でも僕が決めない20人だったら「監督を男にしたい」とかは誰も一切言わない。それは寂しいかもしれないけど、僕は別にいいと思います。それに、僕ら(指導者)が甲子園に行きたいわけではないんですよ。指導者は、この子らが成長する環境を与えてあげるのが大事だと思ってるです」
この言葉に古賀監督のすべての思いが詰まっている。
文=田中 実