スイング動作と手首のケガ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
いよいよ野球シーズン到来となりました。早いところではもうすぐ春の公式戦が始まるところもあるでしょう。今まで積み重ねてきた練習やトレーニングの成果が発揮されるよう、選手の皆さんにはベストを尽くして臨んでもらいたいと思います。さて今回はバッティングのスイング動作によって起こりやすいケガについてお話をしたいと思います。
ケガは突発的に起こる「スポーツ外傷」と、繰り返しの動作によってジワジワと痛みなどが現れる「スポーツ障害」に分けられますが、バッティングではこのどちらも起こることがあります。比較的よく見られる有鉤骨(ゆうこうこつ)の骨折は、一度の外力で傷める場合もありますし、繰り返しのスイング動作によっていつの間にか骨折してしまっていたということもあります。この他にも手首の腱鞘(けんしょう)炎や軟骨部位の損傷(TFCC損傷)などがスイング動作によるケガとして挙げられます。
有鉤骨骨折とは?
スイング動作によって手の骨や腱、軟骨などを傷めることがある
バッティングの際にかかる衝撃で大きな外力が手のひらにかかり、手根骨(しゅこんこつ)の一つである有鉤骨を骨折してしまうものです。バットを構えたときに前方に位置する手(右打者であれば左手、左打者であれば右手)にみられ、グリップの先が手のひらに当たって骨折することがあります。一度の外力だけではなく、前側の手に頼った打ち方(後側の押し込む力が弱く、前側の手が強い)をしていても起こることがあります。有鉤骨の特徴として、この骨はフック型=鉤(かぎ)状の構造をしているので、フックの先の部分が大きな外力によって容易に骨折しやすいという構造を持っています。野球だけではなく、ゴルフやテニスのスイング動作などにもよく見られ、痛みとともにしびれ感などを伴うこともあります。
手のひら、もしくは手の甲の小指・薬指付近に痛みがある場合は、病院で検査を受けるようにしましょう。鉤状の部分が骨折している場合、安静・固定といった保存療法で経過をみても、手は体の末端部分であり血流が乏しいため、骨折部位が治癒しづらいと言われています。有鉤骨骨折であれば手術によってその骨折部分を取り除くことが多く、その後のリハビリテーションなどを経ておよそ6〜12週間程度で競技復帰が可能であるといわれています。
手首の腱鞘炎
手首の痛みが続く場合は早めに医療機関を受診するようにしよう
腱は骨と筋肉をつなげてさまざまな動きをサポートする線維性の組織です。腕から指先にかけて複数の腱が束状に通っているのですが、繰り返す動きによって起こる摩擦を和らげるために、腱鞘(けんしょう)という袋のような組織によって守られています。腱鞘炎とは手首をつかった動作や指の複雑な動きを繰り返しているうちに、腱鞘に炎症を生じるようになったものです。炎症症状を抑えるためにはRICE処置を行いますが、バッティングで手首を返す動きに頼っていないか、練習量は適切かどうか、自分の体力レベルにあった重さのバットを使っているかどうかといったことも確認する必要があります。腱鞘部分の動きをある程度制御する手首のテーピングなどでも対応することができます。
TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷
バッティングの時に手首をひねったり、スライディングの時に手をついたりして、手関節に大きな衝撃が加わると痛みを伴うことがあります。特に小指側に手を曲げた時(尺屈)に痛みがひどくなるようであれば、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷を疑う必要があります。TFCCは小指側の手関節部分に位置する軟骨状の組織ですが、TFCCを含む手関節部分は血流が乏しく、一度傷めてしまうとなかなか痛みが軽減しにくい、治癒に時間がかかりやすいといった特徴が挙げられます。
TFCC損傷の場合、しばらく固定をして痛みが軽減するのを待ちますが、骨の構造上の問題(小指側に位置する尺骨が、親指側に位置する橈骨(とうこつ)に比べて長い場合等)によっては、手術によって治療を行う場合もあります。軽度の場合はプレーを継続することも可能ですが、この場合についてもテーピングなどで関節を保護し、尺屈制限を行った方が、痛みや炎症のコントロールがうまくいく傾向にあります。またプレーの後に痛みがある場合はアイシングなどを行って、炎症が拡大しないようにすることが大切です。
オーバーユース(使いすぎ)によるスポーツ傷害の多い野球ですが、特にバッティングの時には、一度の衝撃でケガをしてしまうこともあります。手首周辺のケガをした場合はまずRICE処置を行い、様子がおかしいなと感じたら早めに医療機関を受診するようにしましょう。
【バッティングと手首のケガ】
●スイング動作で手に大きな衝撃を受けるとスポーツ外傷を伴う場合がある
●有鉤骨(ゆうこうこつ)骨折:鉤状の部分が衝撃によって骨折してしまう
●手首の使いすぎによって腱鞘(けんしょう)炎を起こすことがある
●TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷:手を捻った動作などで手関節の小指側にある組織を痛める
●急激な痛み・腫れ等を伴う場合はまずRICE処置を行う
●痛みが継続する場合は早めに医療機関を受診する
(文=西村 典子)
次回コラム公開は3月31日を予定しております。