Interview

高次元なピッチングは理解力の高さから生まれる!奥川恭伸(星稜)【後編】

2018.12.21

 2019年の高校生をリードする投手として注目される奥川恭伸星稜)。前編では昨年1年を振り返っていきながら、奥川のピッチングについて迫った。今度は皆さんが気になる投球フォームの意図について迫っていく。

 世代ナンバーワンピッチャー・奥川恭伸(星稜)は野球頭も一流だった【前編】

ステップ幅が狭いフォームはしっかりとしたメリットがあって行っている

高次元なピッチングは理解力の高さから生まれる!奥川恭伸(星稜)【後編】 | 高校野球ドットコム
札幌大谷戦での奥川恭伸(星稜)

 ここまで話を聞くと、奥川はストレートの握り、投げ方、試合でのプランを自分の言葉で話すことができる野球IQの高さがうかがえる。

 今回、星稜高校まで来て、奥川に最も聞いてみたかったことは投球フォームについてである。奥川の投球フォームはステップ幅が狭いフォームなのが特徴的。しかしこの投げ方について、ステップ幅が狭く、上半身主導で硬い投げ方だという指摘が多く見られる。ただ奥川のピッチングを見ると、今の投球フォームはそこまでマイナスになっていないのでは?と考えた。実際にその疑問をぶつけると明快に自分の投球フォームの意図について答えてくれた。

―― 奥川投手は他の選手に比べてステップの幅が小さいと思うんですが、中学校の時からずっとああいうフォームなのでしょうか?

奥川 そうです。中学校から今のフォームです。

―― 奥川投手のようなメカニズムで投げる投手は筆者の経験上、胸が上手く張れないで突っ込んで投げる感じになっています。したがって、球離れも早く、リリースも安定しない投手が多いです。
 しかし奥川投手の場合は体が突っ込まず、身体の回転が鋭く、さらに球持ちも優れた印象を受けます。どこを意識しているのでしょうか?

 

奥川 体の回転がうまくできているのは自分の持ち味だと思っていて、それは幼稚園の時にやっていたバトミントンが影響しているのかなと思います。僕自身、上半身の使い方には自信があって、そこがスピードを出す一つの要因だと思っています。
 「上体が高い」「手投げだ」と周りにはけっこう言われるんですが、自分が凄く大事にしてるのは、左足の付け根のところにしっかり体重を乗せることなんです。重心の高さは、今のレベルではあまり考えていないです。

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札幌大谷戦での奥川恭伸(星稜)

―― 左足の付け根ですか。奥川投手自身、膝を曲げたい、重心を低くしたい思いはかつてあったのでしょうか。

奥川 中学生までは重心を低くしたい思いもありました。他のピッチャーと比べて“立ち投げ”だったので、重心を低く膝を折ってという考え方だったんですが、高校に入って荒山善宣コーチ(星稜出身 1982年夏、1983年選抜に投手として出場)と出会った時に「実はそうじゃないんだよ」という話をされて、自分でも少しずつ理解できました。
 今のフォームのメリットとして、角度をつけるボールとかもできると思うので、重心の高さというのは考えずに、しっかりと左足の付け根に重心が乗っかることを考えています。

―― 取材日も、キャッチボールを見ていて思ったんですが、いろんな種類というか、ステップを変えたり、横で投げたり、いろいろやってるなという印象を受けて、あれはどういう意図を持ってやっているんでしょうか?

奥川 あれは『ハンドリング』と言って、どういう球でも、どういう投げ方をした時でも、しっかり相手の胸に放るという意識で、変化球も遠くに投げる時にコントロールしづらい、その中でもしっかり胸に投げる意識でやっていけば、距離が近づいた時にはもちろん。変化球を投げる時に、どこを目印にして投げたら相手の胸に行くのかなと、そういうのを掴むためにいろいろ投げています。

―― それによってフォームのチェックをしているのですか?

奥川 コーチの方ともいろいろ話し合って、フォームを見て、という形をしています。画像を撮ってというのはあまりしたことが無いです。

―― 普段行っているキャッチボールは自分の感覚を整える感じなのでしょうか?

奥川 高校生の間はフォームがどんどん変わっていくというか、プロ野球選手はみんなフォームを固めてやっていると思うんですが、高校の間はいろいろ変わる部分が多いと思うので、そこを変えるようにしています。

[page_break:理解力を深めたからこそ自分は成長出来た]

理解力を深めたからこそ自分は成長出来た

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奥川恭伸(星稜)

―― いろいろ話を聞いていて、奥川投手の成長を手掛けた荒山善宣コーチはすごいコーチだなと感じました。

奥川 僕は荒山コーチと出会って、自分は変われたと思います。ピッチングの考え方が、今までとは大きく変わりました。ピッチングの本質がすごく理解できるようになりました。
 中学の時は膝を折って重心を低くしようとしていたんですが、良いボールを投げるために何がいいのかと考えたら、一番は膝を折って重心を低くすることではなく、体重を乗せて投げることだと。それが僕にとっては左足の付け根に乗せて投げることで、ピッチングの本質的な部分をすごく理解できたので、いい人と出会ったと思っています。

 

―― ただ高度な教えを理解できる奥川投手の理解力があったからこそ、成長があったと思います。入学からそういうふうにアドバイスをもらったんですか?

奥川 入学した当初は荒山さんの言うことを理解できなかったり、何を意図して言っているのか今一つ理解できていなかったんですが、ずっとやっていくにつれて、少しずつ意味が分かるようになったので、良かったと思います。解らないままやっててもダメなので。

―― つまりピッチングの理解度とか、変化球でどういうふうに勝負しようとか、そういうのが解っていく感じなのでしょうか?

奥川 少しずつ掴めてきています。今までは同じ球を続けることが怖かったり、例えばツーワンからでも、(相手は変化球を待ってるんじゃないか)と思って、裏をかいてストレートを投げたいと思ったりしていたんですが、そこはもっとシンプルに考えて、しっかりスライダーを良いコースに投げられれば空振りが取れるので、自分のムダな欲を捨てて、冷静に投げることを考えました。
 最近バッターボックスに立つことも多くなってきて、打者心理というのも少しずつではありますが、理解できましたので、打者心理というのも考えて配球を組み立てています。

 荒山コーチは8年前からコーチに就任。練習に顔を出すのは週末の2日間だけ。同時期に監督に就任した星稜の林監督は「技術屋ですね。投手の指導については全幅の信頼を置いています」と語るほど。これまで奥川以外にも数多くの好投手を輩出した星稜だが、荒山コーチの指導があったからこそだろう。また野手の指導も優れており、山瀬主将からも「参考になりますし、昨年の選抜でも打てたのは荒山さんのおかげ」だという。
 ただそれを聞き入れる素直さと理解力がなければ前へ進むことはできない。小学校からバッテリーを組む山瀬はこういう。
 「頭の使い方、野球観は特別なものを持っています。自分も他のピッチャーの時は精神的に自分がコントロールするように意識していて、ちょっと苦労する時もあるんですが、奥川に関しては自覚してできる投手なので、あいつに任せています」

[page_break:自分は自分。やるべきことをやって甲子園優勝と日本代表を実現したい]

自分は自分。やるべきことをやって甲子園優勝と日本代表を実現したい

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奥川恭伸(星稜)

 続いては自身の課題や今後の展望を聞いてみた。

―― 1年間通してのピッチングをみると、調整の仕方が自分の中で進化したということはありますか。

奥川 調整の仕方はあまり上手くない方です。日本代表で行ってた時も、先輩の皆さんは自分の身体のことをよく解っていて、試合前にしっかりとした調整方法があってやっていたんですが、自分はそこが曖昧というか、準備不足の試合もあったり、逆に投げすぎて疲れてしまう試合もあったり、そこの調整の仕方というのがまだまだ下手くそだと思います。
 調整法は一つ課題としているので、もう少し走る量を増やしたり、練習試合からいろいろやってみて、どれが一番合うのかということを掴んでいかないといけないと思います。

―― 神宮大会の好投というのは、どういうところが良かったのでしょうか。

奥川 実はそれもあまり分かっていないというか、本当は理解していないといけないと思うんですが、自分はまだまだそのレベルじゃないということです。“投げてみて”という形になってしまっているので。計算して良いい形で入れるようにしたいです。

―― 奥川投手をはじめとしたこの世代は好投手が多いですが、やはり意識はありますか?

奥川 情報は入りますので多少の意識はありますが、周りと競うことよりも、自分のやるべきことをしっかりやることが大事だと思っています。
 周りを見てどうこう言っていてもしょうがないことだと思うので、自分のできることをしっかりして、それで結果、代表などには選ばれなければ自分はまだその実力だったということです。
 結果とか周りのことを気にせずにしっかり自分のやるべきことをやって、その後に結果がついてくるものだと思っているので、周りはあまり気にせずにやっていきたいと思っています。

―― そして最上級生になるわけですが、去年はアジア大会も経験しましたが、世界大会に出たいという思いはありますか

奥川 もう一回戻りたいと思っています。昨年は選出していただいたんですが、チームの戦力になれずに寂しい大会でした。自分が1年生でベンチに入ってるだけの頃をすごく思い出して、自分が情けないなという気持ちでいたので、来年もう一回選ばれるように頑張って、選ばれたらそこではしっかり戦力になりたいという気持ちでいます。

―― 2019年、どんな一年にしたいですか

奥川 まず春のセンバツで、チームとしては優勝を目指して、自分としても秋の投球よりも良い投球というのを目指しています。夏の甲子園に出た時も優勝を目標にして、自分の力を発揮して、U-18にしっかり選ばれて活躍して、プロ野球に入れるように頑張っていきたいと思っています。

 ドラフト候補やプロにいく選手を取材していただき、選手たちの練習を見させていただく機会がある。そこではいろいろな風景が見える。打者なら打球そのものがすごかったり、投手ならピッチング練習から別格だったり。ドラフト上位候補の選手になると、いろいろな動きを加えながら練習をしている。さらにレベルアップするために漠然と練習するのではなく、いろいろなことを試す姿勢が感じられるのだ。星稜の室内練習場で見た奥川はキャッチボールから1球1球試しながら投げている様子がうかがえた。
 林監督、山瀬捕手がともに「自覚が高い」というように、あの姿を見て、今年1年は高校野球ファンを沸かせる活躍が期待できると確信させてくれた。

文=河嶋宗一

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