下関国際(山口)「守備が上手い選手の定義を考える」【前編】
去る中国大会でのことだ。4試合合計32得点の猛打で準優勝を果たし、初のセンバツ出場を決めた下関国際。当然、試合後の囲み取材では率いる坂原秀尚監督に対して打撃に関する質問が多く飛び交った。しかしながら、その度に「ウチは守りで勝つチーム」と繰り返し語る姿が印象に残っている。
今回はその下関国際の「守り」、「試合に活きるノック」を中心にお話しを伺った。
坂原監督が考える「守備が上手い選手」とは?
選手を集め、連携プレーについて確認する坂原監督
「そもそも『守備が上手い』ってどういうことだと思います?」
取材の開始直後に「守備の上手くなる選手の特徴」、「共通して持っている意識」について伺った際に坂原監督が発した言葉だ。普段何気なく使う「守備が上手い」というフレーズ。捕球の際のグラブの出し方が正確、送球への移行がスムーズ、暴投が少ない…。何をもって「上手い」とするか。筆者自身の中で非常に定義が曖昧であることに気付かされた。
では、坂原監督が思う「守備の上手さ」とは何のか。
「僕が重視するのは状況判断。例えば一死一三塁の場面で自分に内野ゴロが来たとする。そのときに打球の勢いや自分が取ったポジショニングで『これでは併殺は無理だ。ホームへ投げよう』や『十分併殺に間に合う。二塁で殺そう』だったりを的確に判断して、実行できる選手。こういう選手、『状況判断に優れた選手』を僕は『守備が上手い』選手と考えています」
では、この「優れた状況判断能力を持つ選手」をどのように育て上げるのか。
目的別にノックを「使い分ける」のが下関国際流
実践形式での練習を行う下関国際
「状況判断を磨くためには試合で想定されるパターンを数多く経験すること。そのために走者をつけた試合形式のノックを重点的に行っています」
この日の練習のメインは「ハーフ実戦」。各選手が守備位置に付き、順々に打球を処理する通常のシートノックは行わず、走者を置いた試合形式のノックに多くの時間を割いていた。しかもノッカーが打球を放つのではなく、打撃投手がボールを投げ、実際に打者が打つ、シートバッティングに近い形式。
右打者役は今夏の甲子園でも4番を務めた鶴田克樹、左打者役は同じく3番を担う吉村英也と中軸が放つ「超実戦的」な打球を相手に状況判断を磨く選手達。通常のノックとは違い、いつ自分に打球が来るのかわからないため、一球への高い集中力も本番さながらに研ぎ澄まされていく。不用意に走者を先の塁に進めたり、カットプレー時のラインが乱れた場合はすかさずプレーを止め、選手に判断の意図、生まれたミスの原因を問う坂原監督。
こうして自身のプレーを振り返り、自らの言葉で説明することで「根拠のあるプレー」を実現させるための経験値を蓄えていく。この積み重ねが「優れた状況判断」に繋がっていくのだ。
「実戦形式の時は捕球、送球等の基本動作のミスには言及しません。『さっきのグラブの出し方はダメだ』等をこの場面で指摘してしまうと意識がそこばかりに向いてしまう。この時はとにかく状況判断の向上に意識を集中させます」
もちろん基本的な捕球や送球を疎かにしているわけではない。
「捕球、送球ともにドリル形式で鍛えています」と語る坂原監督。
打撃練習時にファールグラウンド部分等で選手が一か所に集まり、順々に打球を受け、ノッカー横の選手に送球を繰り返す「サイドノック」や打撃練習時の打球処理等で捕球、送球に繋がる動作を反復し、ベースとなる守備力を磨いている。また、練習を見ているとキャッチボールの段階から漫然と取り組む選手は皆無で、半身の体勢でカットプレーを想定した捕球を行ったり、握り替えのスピード感を意識したりと各々が「試合で使える」動作を意識しながら取り組んでいることが覗えた。こうした積み重ねが守備力の底上げに繋がっている。
高い意識で基本動作を磨き、実戦ノックで優れた状況判断能力を培っていく。このように目的に合わせてノックを使い分け、技術と判断力を兼ね揃えた選手を育てていくのが下関国際流だ。
状況判断力に続いて、中国大会でも際立っていた「球際の強さ」の秘訣に迫った。
[page_break:「右脚を軸とした『前後』の対応力」が球際の強さを生む]「右脚を軸とした『前後』の対応力」が球際の強さを生む
(右)バウンドを合わせるために「引く」のもOK。この時も右脚が支点となっているのがわかる
(左)右脚を軸にして前方の打球を処理する様子
「右脚を決める」。下関国際の内野守備の肝となるフレーズだ。この意味を説明するために2本の白線を引いた坂原監督。自身を中心とすると、前後に1mずつ、計2m程の幅となる。この「幅」が球際の強さへと繋がる大きな意味を持つ。
「中学生の試合を観ると、『左脚で捕りにいく』選手が多いんです。でも守備は『右脚』を決めないとダメなんです」
先程、坂原監督が引いた白線。この2mの幅の真ん中で右脚を支点に前後へ左脚を動かす。そうすることで「前」でバウンドを合わせることもできるし、「後」でバウンドを合わすことも出来る。
「打球の上がり際、落ち際で捕球をする。それは正解なんですが、実際の試合では多様なバウンドで打球が来る。その時にこの2mの幅の中で合わせようと考えられると捌ける範囲がグッと広がるんです」
実際に白線内に身を置くと2mの数字以上に広さ、奥行きが感じられる。「一か所でバウンドを合わせないといけない」と考えると難しく感じるが、「この幅の中で捕りやすいバウンドで捕球すればOK」と考えるとかなり自由度が上がるようにも思えた。右脚を軸に半身で打球に対するので身体が硬直せず、イレギュラーへの対応も向上する。
更に興味深いのが「後ろで捕ってもOK」という考え方だ。
「ウチの場合はこの幅の中であれば、引いて捕球してもOKとしています。『前に出ろ!』『正面に入れ!』は良く聞く言葉ですが、それでバウンドを合わせ損ねたら意味がない。守備で大切なのはアウトにすることなので」
このように意図を説明する坂原監督。右脚を支点とした「前後の幅」によって生まれるバウンドへの高い対応力、これを言い換えると「球際の強さ」となるのだ。今夏の甲子園を経験し、秋からは主将を務める濵松晴天も「この幅を意識することで捕れる打球の範囲が広がりました」と効果を口にする。
後編では続いて実戦形式の練習の中でも特に細かく指示を送っていた連携プレーについて話を伺った。
(取材・文=井上 幸太)