夏に向けてのコンディショニング「センスアップで、持っている力を引き出そう!」【Vol.3】
「心と体のコンディショニング 心身一如」
鹿児島県内を中心に、個人でスポーツトレーナーを営む高司譲さんの名詞にはこんなフレーズが銘打ってある。野球に限らず、スポーツ選手が持っている能力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスができるためには、心(メンタル)と体(フィジカル)、両面のコンディショニングが欠かせない。高司さんは、仏教用語でいう「心身一如」な状態をいかに作り上げるかをテーマにトレーナー活動を行っている。県内の野球部では公立高校を中心に10数チームを定期的に指導している。
6月、夏の初戦を1週間前に控えた錦江湾で高司さんの指導があった。「夏の大会に向けてのコンディショニング」と題した講話は高司さんがこれまで20年近く高校野球の現場を見てきて、本番で力を発揮するために何をすればいいかをまとめたもので、あらゆる球児に参考になる話に思えた。以下、高司さんと錦江湾野球部の許可を得て、講話の内容を要約し、具体的なセンスアップトレーニングの方法をいくつか動画で紹介する。
第3回では、試合までの心構えや、大会中の過ごし方について解説します。
■夏に向けてのコンディショニング「センスアップで、持っている力を引き出そう!」【Vol.1】から読む
■夏に向けてのコンディショニング「センスアップで、持っている力を引き出そう!」【Vol.2】から読む
自分の周りの変化に流されないこと
携帯やスマホは、首や肩が疲れて硬くなりやすい
勝ち進むと、家族や同級生、親戚など周囲の人たちが喜んで、いろんな声を掛けてきます。それらを受け止めすぎずに、受け流す部分を持つことも大切です。短く感謝の意を伝え、必要以上に長く話さないように心掛け、気持ちが浮かないようにすることが重要です。
夏の大会は新聞、テレビ、ネットの扱いが大きいので、取り上げられたことで浮かれたり調子に乗らないようにしましょう。心が変わってしまえば、プレーの質も変わってしまいます。最後の決勝が終わるまで、余計なことは思わず、気持ち落ち着けた生活を過ごす強烈な意識が必要です。当たり前のように平常心で過ごすことを心掛けましょう。
携帯電話やスマートフォンはプラスにもマイナスにも働くことを自覚しましょう。友人や彼女、知り合いからの激励、応援のメール、ライン、SNSなど様々なメッセージが届くことが十分考えられます。それらに全て答えようとすると時間をとられ、かえって試合に向けての集中を阻害してしまうことにもなりかねません。
携帯やスマホを触っている時間は、指と眼を使うので首や肩が疲れて硬くなりやすいです。コンディションを崩し、緊張を生みやすい身体になることも知っておきましょう。使う時間を決めて、それ以外は電源を切るようにしましょう。集中を阻害する可能性のあるものは徹底して排除しましょう。
勝ち進むにあたって大会の時間の過ごし方
雨の様子を見ながら身体が冷えないようにしよう
夏の大会では梅雨の時期に重なり、8月も地域によって雨が多い時期があります。雨が降ることによって試合開始の遅れ、中断、順延は十分に考えられます。
雨で試合開始が遅れる場合は、雨の様子を見ながら身体が冷えないようにする。じっとせずに軽く身体を動かしていくことが重要です。センスアップ、ストレッチ、スイング、イメージ、ミーティング、栄養・水分補給などを行い、いつ始まってもいいように準備します。気持ちは少し落ち着けて、盛り上がりすぎないように気をつける。身体が濡れていたら着替えましょう。
途中で中断した場合は、まず着替え、栄養・水分を補給しましょう。状況の整理、これまでのイニングで感じたことや気づいたことのチームでの共有、再開したらどう戦うかまでミーティングして整理する。疲れていたら呼吸法やペアストレッチで整える。淡々と準備に集中して、集中を落としすぎないようにしましょう。
これまでの大会でも足下がぬかるみ、水たまりができていても試合が続いたことが実際にあります。ひどい雨の中でも試合が続行されることは普通にあると思っておきましょう。
足下が滑る、ボールが見えにくい、重くなるなど環境は変わりますが、そのことにイライラしたり気持ちが萎えるのではなく、その環境に対応しようと思うことが大事です。足下が緩ければよりグランディングの感覚を感じることや、スタートをゆっくりめに動き出す、慌てずにそこでできるプレー、するべきことに意識を向けるなど、対応しましょう。「今の状況で自分に何ができるか?」という考え方を持ちましょう。今、ここに集中!です。
順延になった場合は、気持ちをさっと切り替え、あすの試合に向けての準備をすぐに始める。自分のコンディショニングをして、分かっていることでも再度確認のミーティングをするなど、スキのない行動を心掛けましょう。状況や天候はコントロールできませんが、自分たちの心と行動はコントロールできるということです。
優勝するまでは試合の繰り返しです。1試合終われば次の試合への準備を淡々と進める。勝ったことで一喜一憂してはいけません。終わった試合のうまくいかなかったことに気持ちを左右されてもいけません。ただし反省して修正は必要です。試合が終わった直後はすぐ次の試合へと気持ちを切り替える。栄養・水分補給、ストレッチ、メンタルクリーニングを淡々と繰り返して時間を過ごしましょう。できるだけ選手たちだけで行動し、周りの声が入らない状況を作りましょう。
勝ちたいと思いすぎることは、試合中の「今」への集中を阻害します。勝つという結果はコントロールできません。集中の積み重ねの結果が、最終的に相手を上回ることにつながる。それが勝つということです。
勝ちたければ結果に至るまでの過程の時間を大事にすることが重要です。途中経過、過程における行動はコントロール可能です。途中経過、過程に集中することで、プレーへの集中力が高まります。プレーに至るまでの時間を淡々と、冷静に準備し続けることが勝利につながります。前後裁断、今、ここに集中、コントロール可能なことをコントロールすることが最も大切なことです。
監督、選手の感想
高司 譲さん
錦江湾・山田和久監督
錦江湾では私が監督に就任した3年前から、高司先生の指導を定期的に受けています。3年生は入学してからこれまでやってきた成果が試されることになります。やはり試合の中でもうまい選手ほど、感じる力、自分で修正できる力が高いように感じます。
日常生活からの姿勢が何より大切で、力をつけることを意識すると同時に、力を発揮することにより意識を向けるように取り組んでいます。自分で自分をコントロールする力は、野球だけに限らず、学業やその後の進路など、社会に出てからも役立つことだと考えて取り入れています。
同・古城佑朔主将
2年生までは試合に出ていても自分が打てなければ、そのことを引きずって周りが見えていませんでした。今は自分が打てなくても、過去のことにとらわれず、切り替えてチームの勝利のことを第一に考えられるようになりました。
夏の初戦まであと1週間。やるのは自分たちなので、これまで3年間やってきたことが間違いではなかったことを証明するためにも、これからの1週間、できる限りの準備をして試合に臨みたいと思います。
今回の高司さんの講話は、大会前から試合直前、試合中、試合後、大会期間中にやるべき必要なことがほぼ網羅されているといっても過言ではないだろう。フィジカル、メンタルの両面で、実際のプレーからその準備、休養や水分・栄養の取り方、家や学校での過ごし方まで事細かに指摘しているが、どれも特別難しいことではない。だが、あらためて指摘されてみるとこういったことの積み重ねが何より大事なことに気づかされる。
私もこの話を聞いてから、朝起きたら水を1杯飲むことや、朝やるストレッチにグランディングのエクササイズを取り入れたり、座る姿勢や立つ姿勢を正すことを意識するようになった。山田監督も言うように、野球を離れた日常生活、社会人になってからも応用可能なヒントが多く隠れている。
(文・写真:政 純一郎)