【西東京展望】近年にまれにみる激戦の西東京大会を制するのは?
秋季都大会では、西東京勢の4強はなく、佼成学園が8強に残っただけ。春季都大会では、東海大菅生が4強に残ったものの、8強は八王子を含めた2校だけ。その一方で、怪物・清宮 幸太郎(関連記事)を擁する早稲田実は秋、春ともに2回戦敗退で、夏はノーシードで戦うことになった。
現在、夏の大会の組み合わせで決まっているのは、東海大菅生と八王子は決勝戦まで当たらず、東海大菅生は日大三、創価、聖パウロ、都立東大和、都立日野といったシード校とも準決勝まで当たらないということだけだ。
可能性としては1回戦から早稲田実、日大鶴ヶ丘、国士舘、佼成学園、早大学院などが対戦することがあるし、シード校が登場する3回戦以降は、いきなり早稲田実が日大三や東海大菅生と対戦することも、可能性としてはないわけではない。
そのため多くの監督は、春季都大会の目標を、夏のシード校になる4回戦進出(ベスト16)に定めているが、今回はノーシード校にあまりに強豪が多いため、シード校になっても、「あまり意味がないですね」という声をよく聞く。
春季都大会4強の東海大菅生がややリードしているものの、絶対的本命がなく、全ての学校とはいかないまでも、20、30校にはチャンスがあるのでは、という声もあり、近年まれにみる混戦模様だ。6月18日の組み合わせ抽選が、今年は例年以上に注目される。
春に成長をみせた東海大菅生と八王子
伊藤 壮汰(東海大菅生)
そうした混戦の中でも東海大菅生は、ひと冬越して、明らかに強くなっている。エースの伊藤 壮汰は、秋まではまだ内野手出身という感じが色濃く出ていたが、春は球威も増して、投球の組み立てなども進歩し、投手らしくなってきた。秋は伊藤がエースで4番だったが、春は深澤 祐太が4番に定着。準々決勝の帝京戦では決勝2ランを放つなど、攻撃も厚くなった。
秋は1次予選で敗れた八王子は、2年生投手の早乙女 大輝が成長。球威はさほどないものの、変化球の制球の良さが光る。打撃は4回戦の聖パウロ戦で、代打を含めた下位3人の連続安打で逆転サヨナラ勝ちしたように、上位下位関係なく得点できるのが強みだ。
清宮の後を誰が打つのか
清宮 幸太郎(早稲田実業)
評価が難しいのが、日大三と早稲田実だ。この10数年西東京は、この伝統校を中心に展開してきた。選手個々の質も高い。しかし今回は、秋は二松学舎大付、春は関東一が相手だったとはいえ、日大三は秋、春ともにベスト16止まり。早稲田実はノーシードで夏を迎える。
日大三は坂倉 将吾、山本 幸次郎と続く中軸は破壊力十分。主将でリードオフマンで枚方ボーイズ出身の宮木 紳道が、どこまで本来の力を発揮できるかと、スライダーのキレが鋭いものの、春は不振であったエースの小谷野 楽夕が、どこまで立ち直るかがカギとなる。
早稲田実の清宮は、一段とグレードアップし、強振しなくても柵越えするパワーと、技術を身につけている。5月29日の松商学園との招待試合では高校通算47号まで伸ばしており、ますます手が付けられない。清宮とともに昨夏の甲子園の4強メンバーである金子 銀佑も、打撃にうまさがある。タイプ的には、金子が1番か3番というのが理想だろう。
しかしそうなると、清宮の後を打つ打者問題となる。現在有力視されているのが、大阪福島シニア出身の1年生・野村 大樹の起用だ。既に招待試合などで実績を残している。古くは王 貞治、そして荒木 大輔、それに昨年の清宮をはじめとして、早稲田実は1年生を抜擢し、歴史を作ってきた。早稲田実はどういうメンバー構成で夏に臨むのか注目される。
都立の星の戦いぶりに注目
錦戸 敦義(都立東大和)
創価、聖パウロ、都立東大和は2年連続でシード校になった。1年生の夏からエース格である創価の谷井 怜央は球威が増し、打ってもチームの中心。春は先発することが多かった上村 知輝らが、谷井の負担をどこまで軽減できるかがカギとなる。
聖パウロは、昨年の春にサイクル安打を記録して一躍注目を集めた菅野 岳史が、主将としてチームをまとめる。エース格である松尾 奎吾とのバッテリーが投打に引っ張る。
元祖都立の星である都立東大和は、春季都大会で帝京に敗れはしたが、9対10の大熱戦(試合レポート)を演じた。制球のいいエースの藤原 涼を、4番の錦戸 敦義や5番で主将の大野 直輝らが支える全員野球で夏に臨む。
都立日野は高橋 宙夢が春季都大会で二松学舎大付を4安打に抑える好投。(試合レポート)背番号1の内藤 啓太との2枚エースが軸になる。今の選手は、3年前の準優勝を見て入ってきた。それだけに選手の意識は高い。
右の柴田(早大学院)左の長谷川(聖徳学園)
柴田 迅(早大学院)
早稲田実以外のノーシード校で評価が高いのが、日大鶴ヶ丘だ。主将で4番の羽根 龍二は、二松学舎大付の大江 竜聖(関連記事)から二塁打を2本放っている。萩生田 博美監督は、ここ数年「投手探し」と言っていたが、エースの山﨑 章雄をはじめ、複数の投手が育ってきた。
投手では早大学院の柴田 迅が注目だ。この春は本調子ではなかったものの、力感のあるフォームから繰り出す速球は、143キロという球速以上に伸びがある。
また秋、春とも1次予選で敗れたものの、聖徳学園の左腕・長谷川 宙輝のスライダーのキレは素晴らしい。秋は都立東大和から14個の三振を奪っている。明大明治の柳澤 憲人は、球威はさほどないものの、制球の良さで勝負する。秋8強の佼成学園は、春は初戦で聖パウロに完敗した。3番速水 誠生、4番中嶋 瞭、5番関口 恵太など、打者は経験豊富。梅田 大樹を中心とした投手陣が、どこまで健闘するかが焦点だ。
国士舘もエースの安陪 蕙、捕手の松澤 龍樹など、昨夏の8強経験者が多く残っている。ただ秋、春ともに不本意な試合をしており、夏に向けて立て直しを図っている。早稲田実を破った都立昭和は、決勝の満塁弾を放った小谷 英志が打撃の中心。早稲田実打線を2点に抑えた田舎 凌の緩い球は、術中にはまると苦労する。秋季都大会で早稲田実に延長戦の戦いを演じた都立小平は、春も都立日野に延長戦の戦いをしている。目立った選手はいないものの、上位に進むポテンシャルがある。
日大桜丘、桜美林など、かつて甲子園での優勝経験のある学校も、総合力は高い。明大中野八王子は、椙原 貴文監督の下、初の甲子園を目指す。国学院久我山は、2年前の主砲・江川 尚輝(国学院大)の弟である江川 昂輝が投手陣の一角を担い、チーム力で戦う。
春季都大会で修徳と延長戦の熱戦を繰り広げた明星は、4番篠崎 宰響を中心に粘りの野球をする。日大二は1年生の夏からマスクをかぶる日大二林 健太が最後の夏に臨む。
例年にない戦国大会。どこにもチャンスがあるという思いが、夏の戦いをより熱いものにしている。
(文・大島 裕史)
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