Column

JX-ENEOS・前田 将希選手兼コーチが語る「スライディング術」 【後編】

2016.02.20

 前編では前田 将希選手兼コーチにスライディングのコツなどを教えていただいた。後編ではさらに実戦的なスライディングができるための考え、またヘッドスライディングの是非について語っていただいた。

スライディングにおいても視野の広さが必要

視野の広さの重要性を語る前田 将希選手兼コーチ(JX-ENEOS)

 スライディングおいてもう1つ、前田兼任コーチが重視しているのが“視野を広くする”こと。スライディングをする時は、ただがむしゃらに滑り込むのではなく、ベース上で待ち構えている野手の動きを見ることが必要だという。
「視野を広くするのは野球で大切なことの1つですが、これはスライディングにも当てはまるんです。野手の捕球体勢を見て、送球が高いようならそのまま滑ればいいし、送球が逸れたなら避けながら、交錯しそうなら回り込みながらと、瞬時にどう滑るか判断するんです。もちろんスライディングでは、絶対にセーフになるんだ、という強い気持ちは大事ですが、そうした一方でセーフになるには、冷静さを持ち合わせることが求められると思います」

 前田兼任コーチによると、特に視野を広くすることが求められるのが、本塁へのスライディングだという。
「捕手の捕球体勢を見れば、それがフェイントの場合もありますが、どのあたりに返球が来るか想定できますからね。どこに滑ればセーフになるか、判断材料になるんです」

 さらに頭に入れておきたいのが、捕手は捕球からタッチにいく際、落球する可能性があるということ。前田兼任コーチは「そう考えるとケースにもよりますが、ホームへ滑る時は、タイム的なロスになっても回り込んだ方がセーフになる確率は高まるでしょう」と話す。特に捕手の捕球からタッチにいく動作が大きくなりやすいのが、ライト方向からの返球の時だ。
「これもケース次第ですが、ライトへのヒットで二塁から還って来る時は、回り込んだ方がベターだと思います」

捕手の動きを見てきたから成し得た「神技」

 前田兼任コーチは高校時代から、本塁に滑り込む際は捕手の動きをよく見てきた。その積み重ね、その成果が最大限に発揮されたのが、JX-ENEOSが大会史上最多となる11回目の優勝を(1962年以来の日本石油=現JX-ENEOS以来となる)51年ぶりの大会連覇で飾った 2013年の都市対抗の初戦、NTT西日本との開幕ゲームだったという。

 場面は2対2の同点で迎えた延長10回裏。二死一、二塁と、一打サヨナラのチャンスが訪れたところで、前田兼任コーチは二塁の代走に起用される。すると代打・山岡 剛日大高早稲田大、元JX-ENEOS選手)が放った打球がレフトの前へ。が、左翼手はバックホームに備えてかなり前寄りにいた。それでも前田兼任コーチは勝負をかけて本塁に突入する。タイミング的にはセーフになるのが難しい状況で「正直なところアウトかなと、半ば諦めていたんです」と振り返る。

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[page_break:技術がなければ駆け抜けの方が早い]

 しかし、回り込もうとしたところに捕手がいるのを見た前田兼任コーチは、そこから本塁寄りに身体を切り返し、最後はタッチをかいくぐるように頭から滑って、チームにサヨナラ勝ちをもたらした。一瞬の出来事ではあったが、冷静だった前田兼任コーチは、スローモーションのように感じながら、この一連の流れを、この“スーパースライディング”を“演じていた”という。もしかしたら、よく言われるところの「ゾーン」に入っていたのかもしれない。

 むろんこれは誰にでもできるスライディングではない。身体能力が高い前田兼任コーチだからできたのだろう。ただ「常に捕手の動きを見てこなかったら、そういう姿勢がなかったら、あのスライディングは成し得なかったでしょうね」という前田兼任コーチの言葉は頭に刻んでおきたい。

技術がなければ駆け抜けの方が早い

前田 将希選手兼コーチ(JX-ENEOS)

 高校野球では負けたら終わりのトーナメントを戦う。その厳しさゆえ、なんとかセーフになろうと一塁にヘッドスライディングをする選手が多く見られる。駆け抜けた方が早いのに…という声や、一塁へのヘッドスライディングはケガをしやすい、という指摘もあるが、前田兼任コーチはどのように考えているのだろう。
「どうしてもアウトになりたくない、セーフになりたい、という気持ちはわかります。ですが、率直に言うと、ヘッドスライディングが上手でなければ減速しますし、ケガにもつながります。あまりお勧めできないかもしれませんね」

 前田兼任コーチは「駆け抜けより早い自信があった」ので、高校時代は間一髪の際、しばしば一塁へヘッドスライディングをしたそうだ。「砂ぼこりが舞い上がるので、審判の印象も変わりますしね」。技術的には上からやや下に向かって飛ぶイメージで(上に飛ぶと減速する)、左手でベースをつかむようにしていたという。

 最後に、走塁やスライディングのレベルアップを目指す高校球児に向けて、前田兼任コーチからメッセージをいただいた。
「走塁やスライディングはいきなり上達するものではありません。それでも、とにかくアウトになるのを恐れずに走る。これが肝要です。たとえアウトになっても、失敗から学ぶのが走塁ですしね。開き直りの精神も大切です。

 でも『準備』も不可欠。走塁は『人事を尽くして天命を待つ』ということわざそのものだと思っていますが、“天命”という審判のジャッジを待つには、ありとあらゆる「準備」をする必要があるんです。あとスライディング練習は、はじめは芝生の上や砂場など、ケガをしにくいところで練習するといいでしょう。僕も高校時代はオフに芝生の上でスライディング練習をしてました」

「走塁のスペシャリスト」から数々の「金言」をいただきました。前田兼任コーチ、ありがとうございました。そして実戦練習はこれからという時期にも関わらず、スライディングの実技モデルをしていただいた糸原 健斗選手、ありがとうございました!

(取材・文/上原 伸一

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[page_break:【動画】前田コーチのアドバイスを実演!スライディング動画]

前編でも紹介した前田 将希コーチと、糸原 健斗選手にモデルとなって実演いただいたスライディングのポイント動画を後編でも再度紹介!ぜひご覧ください。


注目記事
・【走塁特集】走塁を極める

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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