Column

【平成27年度東京都指導者研修会】工藤 公康監督(後編)「伸びない選手は1人もいない」

2015.12.10

 前編では、なぜ工藤 公康監督は人間形成が大事だと考えるかについて、そして理論家になるきっかけを紹介しましたが、後編では体作りの重要性、目的設定の大事さを説いていただきました。

技術を向上させるには体力を付けることと骨を強くすることが基本 


工藤 公康監督の話に聞き入る指導者たち

 工藤監督は野球の技術を向上させるには、反復練習が基本だと話す。
反復練習を行って同じパフォーマンスを繰り返すには、それだけの体力がなければならない。これを再現性ともいうが、ハイパフォーマンスができるだけの体力、筋力がなければ、ケガのリスクが高まる。だからこそ体づくりが大事だと説く。ただ体作りをするだけでなく、理論立てて体作りは大事なんだよと説明されれば、納得して受け入られるものだ。プロという高いレベルにおいて、ケガをしない体作りというのは大事なようだ。

「僕がプロに入ったとき、合同自主トレでやったメニューが100メートル100本から始まって、これ以上にハードなトレーニングを行います。また1月から投げ込みを4勤1休でやっていました。疲れて投げたくない時もあります。でもコーチは『痛いなら休め、だるいなら投げて疲れを取れ!』というんです。『取れるわけないだろ!』と思いましたね(笑)。でもそうすると、僕より速い球を投げていた先輩たちはみんな壊れて、辞めていくんです。今じゃ考えられませんが、当時の西武は夏でもバテない体作りができていたと思いますし、高いレベルでやるならケガをしない体作りが大事だと思います」

 その体作りの方法も多岐にわたっており、意外かもしれないが、新しい変化球を覚える時も、ただ変化球を投げる練習をするだけではなく、その腕の使い方に応じたトレーニングをしなければならないようだ。そうしなければ故障するリスクが高まるからだ。

 指導者は技術、体力を鍛える練習法を知らなければならないと実感する。

 こういう話を聞くと強度が高いトレーニングをしなければならないのではと感じるが、工藤監督は指導者へのメッセージとして、「選手の成長期に合わせて強度を変えていくことも大事」だと説く。練習は大事だが、骨が弱いうちに練習をしてもただ障害を招くだけなのだとか。少年野球、中学球児の選手がオーバーユースで骨折をしてしまい、障害を抱えたままさらにハードな高校野球に挑んで、ケガをする選手が多いことも説明した。身長が伸びている選手の接し方にも注意が必要だという。

「身長が非常に伸びている選手は成長期に入っているので、トレーニングのメニューを考えてください。実例として、僕は高校の時、チームとして1日15キロのランニングを行っていました。最初はきつかったのですが、慣れていきました。しかし僕のチームメイトで身長が高い投手がいたのですが、アスファルトのようなずっと固いところで走っていたので、彼は足を疲労骨折をしてしまいました。その選手は身長が伸び続けていて骨が成長している過程だったんです。僕は高校時代、身長が3センチしか伸びなかったのが良かったのかもしれません。だから身長の測定は1か月には1回やるなど、伸びていると思う選手には考えてください」と実例も交えて紹介した。ケガのリスクについてもしっかりと考えているのだ。

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[page_break:指導者がしっかりと課題を与えること]

指導者がしっかりと課題を与えること

質疑応答に応える工藤 公康監督(福岡ソフトバンクホークス)

 また工藤監督はオフ前に選手たちに課題をしっかりと与えるという。その理由とは何だろうか。

「プロ野球選手は何でも知っていると思われがちですが、実はそうではないんです。若手選手は2年前まではアマチュア野球選手。理論だったり、目的設定をできない選手が多いんです。だからオフは何に取り組めば良いのか分からないという声も多くあります。

 我々はそういう選手に限らず、若手選手たちには何が課題なのかを記録化させます。課題を克服するには、何をすればよいのか、どんな練習法が良いのかをアドバイスします。

 私は投手なので、投手についての課題設定はできますが、野手については素人なので、そこは打撃コーチが考えていること、また僕は投手視点から見て、その打者はどうなのか?というところを落とし込んだ資料を選手たちに渡します。そうすると選手たちは取り組めるんです。これは全選手にやることで、不公平感を出さない狙いがあり、また指導者が選手1人1人に向き合っているんだよというメッセージにもなります」

 これはすぐに実践できる内容だ。今の時代、自主性が重要視されているが、課題が明確になったほうが、自主的に取り組みやすいといえるだろう。

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伸びない選手は1人もいない

最後、挨拶する工藤 公康監督(福岡ソフトバンクホークス)

 工藤監督は選手1人1人と向き合って、目を合わせて話し合うことを心掛けている。選手のために真剣に話し込んで、腹落ちする選手もいれば、なかなか腹落ちしない選手もいる。しかしそういう選手がいても見捨てることはなかった。

「上手くいかない時もあります。自分自身、同じ年頃の娘がいます。とても多感な子で、僕にも反抗します。難しいですよ。だからこそやりがいがある。

 指導者になった今、僕は選手たちに(自分の)息子のように接します。ときには本気で怒ることもあります。やっぱり、しっかりと向き合っていると、選手は変わってくれるんです。だから僕は上から目線にならないように、選手と同じ目線で話すことができるようにしています」

 やっと選手が、(工藤監督の意見を)腹に落とし込んで理解できたとき、「これは伸びるな」と確信するという。そういう積み重ねが、選手の育成力を育んできたのだ。
だから工藤監督は「伸びない選手は1人もいません。技術的に伸びないのはやり方が分からないのか、それができるための体力がないなど、やり方を分からせることが必要だと思います」

 伸びない選手は1人もいない。この信念が工藤監督の指導者論といえるだろう。

 こうして工藤監督の話で場内は盛り上がり、予定の90分はあっという間に過ぎてしまった。質疑応答も盛んに行われ、工藤監督は質問に対し理路整然と回答していった。そして最後は折り目正しく挨拶する工藤監督。

 なぜ福岡ソフトバンクホークスが日本一になったのか、それが分かる90分だった。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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