【侍ジャパンU-18代表コラム】伊藤 寛士　決勝進出を呼んだ究極の「捕手目線」

伊藤 寛士（中京大中京）

　これは「スター軍団」といってよいだろう。
選手20名中2年生2人を除いた18人のうち17人がさる8月に行われた韓国プロ野球ドラフト会議で栄えある指名を受けた韓国U-18代表。

　ただ、試合が終わってみればスコアは「12対0」。
2回裏、5点。5回裏、6点。世界一決定戦への凱歌を聖地・甲子園に響かせたのは侍ジャパンの側だった。そして、彼らに口火を与えたのは先制適時三塁打を放った「7番・一塁手」伊藤 寛士（中京大中京＜愛知＞3年）の「つなぐ右打ち」だ。

「本塁打にはこだわりはない」と当人は話すが、中京大中京で通算44本塁打が示すように周囲からの評価は長打力を自慢にする右スラッガー。
だが木製バットを使用する今大会で伊藤はさらにつなぎの野球に徹した。キーワードは高校3年間で築きあげた「右方向へ強い打球を打つこと」である。

　甲子園での5安打は全て左方向であるが、実は愛工大名電との愛知大会決勝戦における右中間本塁打に代表されるように、本来は右中間に強みを持つ。

　そのスタイルは初の「侍ジャパン」入りでさらに研ぎ澄まされた。出場した5試合では9打数3安打、打率.333と突出した数字ではないが、この3安打ともに右方向。その意識は選球眼にもつながり出塁率はなんと.647。無駄な球を打ちに行くことなく四球を選び、次の打者につなぐ役割を見事に果たしているのだ。

伊藤 寛士（中京大中京）

　また、伊藤の本分・「捕手」視点も今大会では打席での快打につながっている。
たとえば初安打を放ったアメリカ戦。アメリカ先発のギャレットは左腕から140キロ中盤の速球を投げ込む剛腕だが、「配球を見ると外角が多くなっていることが分かったので、そこを見逃さず打てるかでした」と伊藤。見事に外角を打ち返し右前安打、先制のホームを踏んで今大会初得点も記録した。

　これが韓国戦にも活きた。0対0での2回裏、一塁走者だったオコエ 瑠偉（関東第一＜東京＞3年）が牽制アウトになり迎えた二死三塁。伊藤はまるでマスクを被っているかのように様々な考えを巡らす。

「チームが嫌な流れになっていたので何とかしたい場面でした。そこで相手投手を見るとやっぱり外へ速球と変化球の割合が増えていたので、そこを狙ったんです」

　フルカウントから143キロのストレートを右翼線へ。さらに処理を誤ったライトの動きを見逃さず、巨体を揺らして一気に三塁へ到達。取りたかった先制点をもぎ取り、主将・篠原 涼（敦賀気比＜福井＞3年）の適時二塁打で本塁を踏んだ伊藤。盛り上がる三塁側ベンチと明らかな落胆を見せる一塁側ベンチの感情が入り交る中、気付けば2回裏には「5」という数字が刻まれたのである。

　この試合での3打数1安打1打点1四球2得点を含め、出場5試合で6得点の伊藤。
さらに今大会は捕手としての出場は1試合。一塁手の出場が多い中でも韓国戦前にはマスクを被った堀内 謙伍（静岡＜静岡＞3年）に対し、「ストレートが切れている時は、ストレート中心で組み立てていった方が良いよ」と、チームメイト・上野 翔太郎（中京大中京＜愛知＞3年）を知り尽くしているならではという的確なアドバイスも授け、10奪三振7回完封へのアシスト役も果たした。

「チームのためにつなぎ役に徹しているだけなので」
平沢 大河（仙台育英＜宮城＞3年）、清宮 幸太郎（早稲田実業＜東京＞1年）のようなスラッガーたちが今大会で大きなスポットを浴びる一方、こう語る伊藤 寛士に代表される心技体で「つなぐ」選手たちの存在。大会7連勝で二大会連続の決勝進出を決めた「侍ジャパンU-18代表」強さの原動力はここにある。

伊藤 寛士（中京大中京）

　こうして伊藤が心がける「フォア・ザ・チーム」。彼独特のキャラクターがかもし出すムードがそこに加わることで、ホームの雰囲気はいっそう盛り上がっている。

「これは中京大中京で当たり前のように実践しているだけなんです」

　と話す「全力疾走」にしても、173センチ87キロの大きな体を揺らして力走を見せると、ベンチも、そしてスタンドも明らかに大きく盛り上がる。これは決勝戦でも相手への強いプレッシャーになるだろう。

　その相手は前回大会と同じくアメリカに決まった。伊藤は徐々に手応えを掴みつつある打撃のことも交え意気込みをこう話す。

「代表入りした時は木製バットになれていなかったのですが、ボールがしっかりと捉えられるようになって、自分の打撃ができるようになってきたので、今の調子を継続できればと思います。今回はチームのために仕事ができたので、残り2試合、自分の打撃を見せていきたいです」

　そんな哲学を貫く「つなぎ役」伊藤 寛士。彼が主役に躍り出た時、侍ジャパンU-18の頭上には間違いなく「世界一」の3文字が輝く。