Column

都立文京高等学校(東京)

2015.06.17

好投手を擁した安定した守りの野球だけに、打撃力アップが夏への課題

 JR大塚駅から徒歩で数分。閑静な住宅街の一角に位置する都立文京高校。正門から入ると校舎の奥に、校庭ではあるが野球部などが活動しているグラウンドがある。ネット裏には、スタンドも設置してある本格的なものだ。そのグラウンドのすぐ横を昭和時代の名残ともいえそうなレトロ感を醸し出す荒川線の電車が走るという風情のある場所でもある。とはいえ、そんな立地だけにグラウンド条件としては恵まれているとは言えない環境ではある。

限られた環境から甲子園へ

 それでも、この春に都立広尾から異動してきた梨本 浩司監督は、
都立広尾のことを思えば、文京は十分に恵まれていますよ。B戦がメインとなってしまいますけれども、練習試合だってできますからね」
と、特に気にかけてはいない。専用ではないにしても、何とか試合もできるくらいのグラウンドがあるということでも、都心ではいい方だという意識である。

キャッチボール(都立文京高等学校)

 ただ、その狭いグラウンド環境の中ではあるが、全面使用が可能なのは金曜日だけという他部との兼ね合いもある。月曜日は半分のみ、水曜日は3分の1、火曜日はグラウンドメニューはなしで、各自がトレーニングを行うというスタイルにしている。また、木曜日を休養日として設けている。
だから、1週間の練習時間という点では、必ずしも多いというものではない。むしろ、土曜や日曜の遠征がメインとなる練習試合へ向けての準備ということになる。そこで課題を見つけたら、それを1週間で修正していくという形になっている。

 もっとも、文京は梨本監督の母校でもあり、自分自身もこうした環境の中でやってきているのである。工夫すれば、練習方法はいくらでもあるということだ。梨本監督は前任校が都立広尾で、その前は都立城東である。都立城東は文京と同じような環境だったが、それでも2001(平成13)年夏には都立城東を二度目の甲子園出場に導いているという実績がある。

 その時も、狭いながら部員が多いという環境の中で、それぞれに選手たちが空いたスペースを見つけてはティーバッティングを工夫しながら徹底してきた。とにかく、みんなが競うようにしてバットを振り込んでいたのである。その成果もあって、打ち勝てるチームとして甲子園に届いたのだった。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
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注目の蓬田&鈴木の2枚看板

 今年の文京は、蓬田 拓己君と鈴木 悠人君という好投手がいるが、昨秋はブロック予選で敗退し、今春も都大会は初戦で敗退して結果が出ていない。そして、テーマとしては打撃力アップということで、都立広尾時代も行っていた、8メートルくらい前から投げて、それをバックネットへ向かって打つというティーバッティングを徹底している。とにかく、少しでも多くバットを振ること、思い切りのいいスイングを心がけるよう、この練習を打撃力アップのメインとして取り入れている。

蓬田 拓己君(都立文京高等学校)

 蓬田君は、4月まではスピードはあるけれども高めに浮いてしまう球が多く、制球難ということもあって、なかなか公式戦でも投げる機会がなかった。そして、チームも敗退してしまったということで、上の大会に進出していなかったので、その存在はあまり知られてはいない。

 しかし、秋から蓬田君の成長を見ている前川 達郎部長は
「5月になって背筋の使い方をマスターしたことで制球力がぐっと増してきたようです」
と、どこかのタイミングでコツを掴んだのではないかということを感じている。球が抜けなくなったことで、東京でも屈指の好投手に入るくらいの存在に成長したのである。

「このチームは、大会で勝っていないですから、まだまだ未知の部分もいっぱいあると思いますし、自信を持ち切れていないところはあるかもしれません。そこを練習試合を重ねて自信としていくことも大事です」

 と、梨本 浩司監督は選手たちが自信を得ることで、意識を強く持っていけることに期待している。蓬田君も練習試合で本庄一や川越工市立松戸といった他県の強豪校を相手にしっかり投げ切れていくことで、自然と自信が身についてきている。文京としても、近年毎年のように好投手を輩出しているが、その中でも抜けた存在と言っていいくらいに、ここへきての成長は著しい。

 ストレートは最速144キロを表示したこともあるという。コンスタントに138~9キロは出せており、特に試合の後半になっても球速そのものは落ちていないというところに成長の跡がある。また、スタミナ面でも十分にいけるということを示しているとも言えよう。これに、鋭いタテのスライダーと時に抜いたようなカーブがある。

 まだ、中盤にたまに、ストレートが高めにすっぽ抜けた感じになって外れていくこともあるが、それでも、フォームバランスを崩したときでも、それをイニングの中で修正できるようにもなってきている。また、捕手で主将の江本 達哉君が好リードして蓬田君の持てるものを引き出している。

 さらには、タイプの異なる横手投げの鈴木君も、サイドながら130キロ前後のスピードボールを持っている。「これが決まると、そうは打たれないと思いますよ」と梨本監督も楽しみに期待している存在である。

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梨本監督が求めたスイング力

本間君(都立文京高等学校)

 こうして、投手を中心とした守りのチームとして安定感は増してきた。ここへ、都立城東監督時代から打撃のチームを作り上げることで定評のある梨本 浩司監督が赴任してきたことで、打撃力向上のテーマに取り組むことができるようになってきた。前記の8メートルのティーもさることながら、強豪校の140キロ級のストレートに対して振り負けないスイング力の強化は、大きなテーマとして取り組んでいることでもある。その成果も、徐々に実りつつあるようだ。

 具体的には、試合の流れの中では「(塁に)出る、つなぐ、返す」ということを徹底して意識するようになり、江本 達哉君も「秋や春よりも、得点力は上がったと思います」と実感している。春季大会ではチャンスは作ることができても、それを返すことができなかったということも反省材料になっている。だからこそ、夏を勝ち上がっていくためには、圧倒的な打撃力が必要だと感じている。

 もともと、梨本監督の野球は都立城東時代もそうだったが、「7点取られれば、8点取ればいい」という考えをもってチームを作ってきていた。それは、本気で私学の強豪を下すには、打って相手を驚かせるくらいでないと、最後は勝ち切れないという思いがあるからだ。また、そのことは都立校の現場で野球を教えている多くの指導者たちが実感していることでもある。毎年、12月に開催されている高校野球研究会の場でも、如何にして打てるチームを作り上げていくのかということは、毎年のようにテーマとなっていく。

 そして、ある程度の打撃力をつけていったところに、今年の文京のように好投手が出てくると、にわかにチームとしての期待感は高まっていくのである。文京としても、蓬田 拓己君が一気に成長したことで、上位進出はもちろんのこと、その先にある夢の実現へ向けての意識が自然に育くまれていっているのだ。

 毎日の練習後のミーティングや練習試合の後のミーティングでも、「全体の目標は常に確認しあっている」という。そして、夏へ向けて、選手全員で東東京の頂点に立つことを意識しているのだ。

(取材/文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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