今年の選抜大会に出場する野手のなかで、最も注目を浴びるのが仙台育英の平沢 大河だ。平沢選手からこの冬までの過程と選抜に向けての意気込みを伺った。
不調に苦しんだ秋季大会序盤
昨秋の明治神宮大会優勝で、今春センバツ大会の優勝候補にも挙げられる仙台育英。個性的な選手が揃う中、3番を打ち、ショートを守る平沢 大河は走攻守三拍子そろった好選手として注目を集める。
年が明けて、平沢の体格がグンと良くなったように見えた。とくに下半身がどっしりとした。夏場に70キロを切っていた体重は今、75キロにアップしたという。
「去年の夏は痩せちゃって、打球が飛ばなくなりました。それなのに飛ばそうとして、知らず知らずのうちに体重移動を大きくしてしまってフォームも崩れました」
昨夏の新チームになりたての頃、佐々木 順一朗監督からご飯をたくさん食べるように命じられていた。食が細い上、夏場ということで体重は落ちていった。周囲から「お店を出せる」と言われるほど、料理が得意な郷古 武部長が作ったカレーを口いっぱいに含み、「美味しいんですけど…」と言いながら、苦しそうに食べていた。
周りのサポートもあった夏、秋を越えて、この冬は自らプロテインを摂取するようになった。そうした成果が徐々に出始めているのだろう。昨秋よりも力強くなった姿で甲子園の舞台に立てそうだ。
“全国デビュー”となった明治神宮大会では活躍を見せたが、夏場に体重が減ったことで、秋季大会の序盤は苦しんでいた。「打球を飛ばしたい」という意識から、重心が前に動く。平沢のスイングは前の振り幅が大きいため、頭の位置が前に動くほど重心がブレたことで引っ張りが強くなり、本来の左中間への痛烈な当たりが減っていった。佐々木監督から体重移動に関するアドバイスを受け、大会中は外でのフリー打撃を行わず、室内練習場で緩い球を打つ練習をひたすら繰り返した。

[page_break:明治神宮大会決勝のホームランが理想 / ヒットもアウトにするほどの守備力の高さ]
明治神宮大会決勝のホームランが理想
ボールを引きつけて、左中間へ打つイメージを持ち、バットを振り続けた。感覚を取り戻したのが、東北大会準決勝の八戸学院光星戦。1打席目でセンターへ三塁打を放つと、4打席目では左中間へ三塁打、5打席目にはライトへ二塁打。勝てば、センバツ大会出場が“当確”となる準決勝で復活ののろしを上げた。決勝でも5打数2安打2打点と、好調のまま明治神宮大会へ。決勝で2ランを放つなど、打率5割をマークした。
平沢は『フルスイング』が持ち味だ。野球を始めた頃から、野球経験者の父・政幸さんには「腰の回転を速くするとスイングが速くなる」と教えられてきた。小さい子は、下半身主導の打撃が難しく、手打ちになることがある。しかし、平沢は始めから下半身主導の打撃を教わったことで基礎ができた。そして心がけるフルスイング。
佐々木監督は平沢の第一印象を「振れる子だと思った」と話すが、本人は「自分のスイングが速いと思ったことはなかったので、先生(佐々木監督)に言われて、そうなんだなと感じました」とのこと。
父から教わったことを忠実に守り、スイングが身体に染み付くほど振り続けてきた。
昨秋の最終戦となった明治神宮大会決勝のホームランが「理想的」と話す。
「自分は高い弾道の打球を打つバッターではありません。パワプロでいうと、“弾道3”くらいのバッター。フェンスに届く打球が、自分らしい打球だと思います。神宮のホームランは低い弾道で入ったので、良かったですね。自信になります」
ヒットもアウトにするほどの守備力の高さ
平沢は守備力も高い。捕球時にグラブが寝てしまう、加減して送球してしまうといった課題もあるが、身のこなしには高い身体能力を感じさせる。打球への入りが速く、グラブをギリギリまで操ることができる。
「ハンドリングも大切ですが、一歩目をどこに切るかが一番、大事だと思っています。捕ることも大事ですが、打球まで速くいくことも考えています。そのために、常に足を動かしています。足を動かしていると、あと一歩前に行ける時があります。また、自分の捕りやすいバウンドにいくことも意識しています」
セカンドを守る谷津 航大は「大河のところに打球が飛ぶと、ヒットだと思った打球がヒットになりません。もうそこにいるの!?って感じです」と話す。また、「ランナーがいる時は緊張しますが、大河が『エラーしてもいいから攻めていこうぜ!』って言ってくれて、落ち着くことができる」とも。
センターの青木 玲磨は「2アウト二塁は外野手の見せ場。でも、センターに抜けそうな打球を大河は捕っちゃいます。もうちょっと、外野手の仕事がほしいです(笑)。ゴロの打球は大河が捕っちゃうので、内野の頭を越えないと守備機会がないですね」
明治神宮大会決勝では7回裏、二死一、二塁でセンター前にポトリと落ちそうな打球を後ろ向きで追って、膝をついて崩れながら捕った。小学生の時、セカンドを守っていた平沢はフラフラと上がったライト前に落ちそうな打球を捕っていたという。打球への執着心は幼い頃から身に付いている。

[page_break:頂点を目指し、全力疾走]
頂点を目指し、全力疾走
走塁で意識していることは「常に前のベースを狙うこと」だ。昨夏、仙台育英は宮城大会4回戦で敗れた。その試合の3点を追う8回、この回の先頭打者として打席に立った平沢は、ショートの横を抜ける打球をセンターに放った。長打を警戒していた相手センターが下がっていたこともあり、一塁ベースを蹴って二塁を陥れた。センター前二塁打。新チームが始まった時、佐々木監督はミーティングで「あれは良かったよ。こういう人が学年にいれば大丈夫」と話したという。
平沢が入学する直前の13年センバツ大会では、仙台育英で4番を打った上林 誠知(現ソフトバンク)(2013年インタビュー)がワンバウンドした球を打ち返した。打球はセンター前にポトリと落ちたのだが、上林は一塁でストップせず、二塁まで全力疾走。「テレビで見ていて、もう二塁にいると思いました」と平沢。先の塁を狙うことの大切さを感じている。ただ、内野ゴロで一塁まで走る際、手を抜いてしまうことがある。そのため、「内野ゴロでも全力で走ることを徹底したい」と、一塁までの全力疾走を心がけることを誓う。
仙台育英の今年のテーマは「千射万箭」。弓道の心得で、「千本、万本の矢を射る時でも、すべて新たな気持ちで射よ」という意味がある。センバツ大会での優勝を目指す中でも、足元を大切にしようと、佐々木監督が与えた。
「頂点を目指しますが、千射万箭のテーマがあるので、すべてのことをないがしろにせず、足元を見ながら大事に戦っていきたいと思います」
「千射万箭」のテーマに加え、仙台育英ナインにとって、謙虚になれる理由がもう1つある。それは、入学した時の3年生の存在だ。仙台育英として明治神宮大会で初優勝し、センバツ大会でベスト8、夏の甲子園で浦和学院と劇的なゲームを展開するなど記憶に残る世代。「練習を見た時は衝撃でした。簡単にホームランを打つなど、パワーもすごかったです」と平沢。そんな先輩たちも、聖地での全国制覇は成し遂げられなかった。また、今年は甲子園が始まって100年となるが、未だ東北勢は頂点に立てていない。それほどの難関だからこそ、謙虚になれる。
平沢は小学生の時、父に連れられ、友人と一緒に甲子園に行ったことがある。1年夏はアルプススタンドでの応援。やっと、甲子園の土を踏める時が来た。
「神宮では打率5割を打ったので、センバツでも打率5割を目指したいと思っています。チャンスで回ってくることも多いので、勝利に直結する打点も挙げたいです」
甲子園で暴れる準備はできている。
(インタビュー・高橋 昌江)
