明豊高等学校(大分)【後編】
後編では、明豊の二遊間の選手に秘めた思いをうかがい、夏、秋ともにあと一歩で甲子園を逃した悔しさをバネに練習に取り組む選手たちを追った。
二塁手の第一候補でも、視野を広げるために遊撃手を任せることも
大庭 樹也選手(明豊高等学校)
その今宮の自主トレの動きを見て、大きな刺激を受けた。「動きが軽い。グラブさばきもうまいし、レベルの違いを感じました」と驚きを隠せない。
練習ではセカンドだけでなく、ショートの練習にも取り組んでいる。「確実にボールを取るという基本に忠実なプレー、もっと俊敏さを身に付けていきたい」。ただ、ショートの動きは少しばかり勝手が違っていた。「ステップの仕方、(連係などで)ボールを受け取るときの方法などが、自分でも、まだまだだと思う」と戸惑いを感じている。
「本当ならセカンドをさせたい選手。セカンドに必要な遠投力、判断力もあるし、連係プレーをしっかりこなせる選手です」と川崎監督の評価は高い。求めるものは、さらに高い位置にある。
「ショートを経験させることで相手の気持ちも分かる。将来性がある選手で、中学の時からセンスはあった。状況判断、内野手としての動きは抜けたものがある。チームトップレベルのセカンド。俊敏性でも抜けている。でも、ショートの動きも覚えてほしい。併殺への入り方など課題もあるので、そこを磨いていけば、もっと上を目指すことができると思う」
と、あえて厳しい注文をつけている。
小柄な選手を救う「明豊の魂」
辻 啓太内野手(明豊高等学校)
大庭が1つの定位置を確保した場合、二遊間の空いたもう1つのポジションは1、2年生を合わせての激戦となる。大庭が大柄な体であるのに対して、他の候補者は170センチ前後ばかりだ。
「これは明豊の伝統でしょうね。とくに二遊間は小柄な選手がそろってしまう」と川崎監督も苦笑いするほどだった。
主将の米安 王貴も候補の1人である。秋季大会ではファーストとして起用されていた。「定位置を取りたいという思いもある。言われたところを、しっかり守る準備をしていきたい」と意気込む。そこには、明豊の魂も込められていた。「守れないと、どんなに打っても意味がない。守備練習が大切なのは、選手みんなが分かっていること」と言葉にも力が入る。
岩井 謙司内野手(明豊高等学校)
そこに入り込もうと必死に取り組んでいるのは、辻 啓太内野手(2年)、岩井 謙司内野手(2年)だ。2人とも大阪府出身。「甲子園に出たい」という強い意志から明豊への進学を決めた。辻は主にセカンドの練習に取り組む。
「内野の守備は楽しいです。やりがいがあります」と言い切る。定位置確保へ「丁寧に1つ1つのプレーをきっちりこなす」ことを念頭に置きながら取り組んでいる。
岩井はショートの練習に時間を費やす。「ステップからスローの動きを大切にしています。1球1球を大事にしていくことを考えて、冬の練習に取り組んでいます」と目を輝かせる。他の1、2年の部員も、この冬の飛躍にすべてをかけている。自分のノックの出番でないときも、他選手の動きを凝視する姿が印象的だった。
あと1球、あと1歩…苦い思い出を乗り越えて
正面から左右の揺さぶりも行うノック(明豊高等学校)
明豊は2014年夏、秋と立て続けに苦い思いを味わった。夏は大分大会決勝に駒を進めた。大分を相手に、5対3で2点をリードした9回二死走者なし、2ストライクまで相手を追い詰めた。
しかしそこから「あと1球」は長かった。一、二塁間方向への打球がイレギュラーして内野安打になったのをきっかけに、相手に付け込まれて同点にされた。延長10回に勝ち越しを許して、甲子園への切符をつかみ損ねた。
秋は大分県大会優勝と幸先のいいスタートを切る。しかし選抜大会出場への選考基準となる九州大会でも「あと1歩」で甲子園を逃すことになった。準々決勝では糸満(沖縄)相手に一度は同点に追いつきながら延長戦で敗れて、結果的にセンバツへの夢も途絶えた。
とくに夏のイメージは下級生だった現1、2年生の脳裏に焼き付いている。「夢でも、あの場面が出てくるぐらいです。その時は眠れなくなる」(岩井)と選手たちは振り返る。
川崎監督は、あえて厳しい姿勢を貫く。
「不運な部分もあったかもしれない。取れなくても、体の前で打球を止めていたらという気持ちもある。守備のちょっとした気持ちの緩み、目に見えないほころびから試合の流れは変わる。選手たちも、1つの打球の処理の大切さを分かってもらったと思っている」
チーム一丸で守備強化への気持ちがいっそう強くなった。米安主将も「甲子園へ行くために必要なことを、全員で見つけることができたと思っています」と真剣な眼差しで答える。
川崎監督は「守備のできない選手は使わない」と言い切る。寒風が吹き荒れ、気温が極度に下がったグラウンドでも選手は地道に守備練習に取り組む。堅守こそ甲子園への道だと信じて―。明豊は他校では味わえないような悔しい経験を貴重な財産にするために、夏の甲子園切符奪取へ燃えている。
(文・中牟田 康)