バッティングと手首のケガ
手関節部分の骨の構造
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
野球はスポーツ障害といわれる慢性的なケガの多いスポーツですが、こと、バッティングに関しては突発的なケガを受傷することがあります。デッドボールはもちろんですが、バッティングの際にかかる大きな衝撃が時として手のひらや手首などを痛めることも。今回はこうしたバッティングに特徴的な手周辺部のケガをいくつかご紹介したいと思います。
【有鉤骨(ゆうこうこつ)骨折】
バッティングの際にうける衝撃によって手のひらが痛くなることがあります。一過性のものであれば特に問題ありませんが、ひどい痛みが続く場合は骨折を視野に入れて、早急に対応することが必要です。手には手根骨(しゅこんこつ)と呼ばれる小さな骨が8つあり、その一つに有鉤骨(ゆうこうこつ)という骨があります。この骨は鉤(かぎ)状の構造をしているので、グリップ動作を行っているときに大きな衝撃が加わると骨折をすることがあります。野球のバッティング動作、ゴルフやテニスのスイング動作などでよく見られ、痛みとともにしびれ感などを伴うこともあります。
この骨が位置している場所は小指・薬指付近の手のひら側ですが、手の甲側に痛みを訴える選手も多いため、小指・薬指の手根骨付近に痛みがある場合はここの骨折を疑います。病院で検査(CT・MRI等)を受けるとほぼ見つかりますが、まれに撮影角度によっては見落とされるケースもありますので、痛みが長期にわたって続く場合は再度検査を受けるようにしましょう。鉤状の部分が骨折している場合は、手術によってその骨折部分を取り除くことが多く、その後のリハビリテーションなどを経ておよそ6~12週間程度で競技復帰する選手が多いという印象です。
【指骨(しこつ)骨折】
指先にある骨のことを指骨(しこつ)と言いますが、打席の中でバントをしようとして、バットとボールの間に指をはさんで骨折するといったケースがよく見られます。指の先端部分であれば爪を痛めたり、指先からの出血があったりと、一見、骨折には見えないように思えるかもしれませんが、病院でレントゲンを撮ってみると指骨が骨折していたということが多々あります。骨折した部位は固定を行い、骨が癒合するまで動かさないようにすることが大切です。粉砕(ふんさい)骨折といって骨が粉々に砕けた状態で骨折している場合は、手術で骨の位置を正しく整復することもあります。
バントのケースで指を骨折することもある
【TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷】
バッティングの時に手首をひねったり、スライディングの時に手をついたりして、手関節に大きな衝撃が加わると痛みを伴うことがあります。一般的には「捻挫」と呼ばれますが、関節内の炎症や靱帯などの損傷、そして小指側の手関節部分にはTFCC(三角線維軟骨複合体)と呼ばれる軟骨状の組織が存在します。特に小指側に手を曲げた時(尺屈)に痛みがひどくなるようであれば、TFCC損傷を疑う必要があります。確定診断は病院で検査を行うと判明します。TFCCを含む手関節部分は太ももや腕などと違って身体の末端に位置するため、血流が乏しく、一度痛めてしまうとなかなか痛みが軽減しにくい厄介なケガでもあります。
TFCC損傷した場合、しばらく固定をして痛みが軽減するのを待ちますが、骨の構造上の問題(小指側に位置する尺骨が相対的に長い場合等)によっては、手術によって治療を行う場合もあります。軽度の場合はプレーを継続することも可能ですが、この場合についてもテーピングなどで関節を保護する方が、痛みや炎症のコントロールがうまくいく傾向にあります。プレーの後は必ずRICE処置を行い、炎症が拡大しないようにすることが大切です。
オーバーユース(使いすぎ)によるスポーツ傷害の多い野球ですが、特にバッティングの時には、一度の衝撃でケガをしてしまうこともあります。手首周辺のケガをした場合はまずRICE処置を行い、様子がおかしいなと感じたら早めに医療機関を受診するようにしましょう。
【バッティングと手首のケガ】
●スイング動作で手に大きな衝撃を受けるとスポーツ外傷を伴う場合がある
●有鉤骨(ゆうこうこつ)骨折:鉤状の部分が衝撃によって骨折してしまう
●指骨(しこつ)骨折:バントでボールとバットの間に指をはさんで骨折することがある
●TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷:手を捻った動作などで手関節の小指側にある組織を痛める
●急激な痛み・腫れ等を伴う場合はまずRICE処置を行う
●痛みが継続する場合は早めに医療機関を受診する
(文=西村 典子)
次回、第68回公開は05月15日を予定しております。