県立北村山高等学校(山形) 4/4
山形県立北村山高等学校 第3回 (全4回)2011年01月30日
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【目次】
1.本当のボランティアとは?
2.練習試合をした監督から見た北村山
3.山形で一番、思う
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本当のボランティアとは?
大きな文字で書かれたチームのテーマ、「笑」の文字
21世紀枠に推薦された理由の一つに除雪作業のボランティアがあった。近くの施設や一人暮らしの老人宅の雪かきをするのだ。だが、只今、部員は10人。とてもじゃないけど、手が回らない。そしてボランティアとは一体、何のか?
「昔は、知的障害者の施設があって、その1階が埋まるのでやったりしていたんですけど、最近は外よりも中を中心に。この間もドーンと降った時に駐車場が雪まみれになったので、朝から雪を崩して、先生方の車を止められるようにしました。昇降口も雪が積もっているので生徒が通れるようにして。大雪が降ったら朝練はやめて出動。今は中へ、中へ、中へ。外のボランティアもいいんですけど、自分のところに重機入れて金だして、外のところを無料でやるっていうのもおかしいなって思って。
外というのは、
他から見られることを意識しているような気もするし、とにかく中で。自分の朝起きてから夜寝るまでの行動範囲の中で何かしら誰かの役に立つような形ですかね」
そして、石井監督は言う。
「雪かき部じゃないので。言っているのは、雪かき部でもないし、ボランティア部でもなくて、野球部なんだ。雪かきして喜ばすくらいだったら、勝って喜ばせようって。雪かきしてもらうために町の人がよくしてくれるんじゃなくて、がんばって勝って、『わー、勝ったねー』『いがったねー』って言ってもらえるように。笑うをテーマにしていますけど、自分たちじゃなくて、支えてくれる人たちを笑かそうって取り組んでいるんですけどね」
~山形1番から~ 北村山の目指す野球
ボランティアとは一体、何なのか?2年前の主将が練習試合で死球を受け、バットをぶん投げたという。それを石井監督はひどく叱った。相手の監督からも「お前みたいなのを山猿って言うんだよ」と言われたそうだ。
「その後、そいつのお母さんが『最近ゴミをいっぱい持って帰ってくるの。何ででしょうかね?』って言ってきたんですよ。そしたら、登下校中にゴミを全部拾って自分のかばんに入れて持ち帰ったと。彼は鮭川村って、ずいぶん遠いところから電車を乗り継いで通ってくる子だったんですけど。人知れずですね。彼は今、東京でホテルマンやっています」
21世紀枠でのセンバツが絶望となった翌日、石井監督は「まずは、山形1番から~21世紀枠での甲子園出場を逃した今~」と題して思いを綴った。北村山が目指す野球が凝縮されている、その紙は室内練習場に張られている。その中に「山形で一番スタンドを魅了する野球」という言葉がある。
さらにチームのテーマは「笑う」だ。監督室には「笑」と書かれた大きな書がある。そして、Tシャツには「It’s 笑-show-Time!」の文字が躍っていた。
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【目次】
1.本当のボランティアとは?
2.練習試合をした監督から見た北村山
3.山形で一番、思う
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練習試合をした監督から見た北村山
石井監督
【多賀城・石垣監督】
「石井先生は生徒思いで、とても選手を大事にしていらっしゃる。選手だけでなく、生徒も一人ひとり大事にしていますね。今もですが、北村山に赴任されたばかりの時は人が少なくて、施設もない中、一つ一つ、手作りでチームを作られた。(石井監督が)駆け出しの頃は、私の仙台三高OBチームを紹介したりして。私も山形に練習試合に行きますが、必ず北村山の名前が出てくるんですよ。選手は元気。非常に元気で前向きです。失敗しても常に前向きにプレーしている。大人との対応もできる。みんな、ああいうチームを作りたいと思っていますが、実際はできずに苦しんでいるんです。10月半ばに練習試合に行ったのですが、彼らの姿勢を見て、うちの選手は刺激を受けて帰ってきました。あの人数でやっている。それも、やらされているようにやっていないと」
【古川学園・福岡監督】
「真摯に野球に取り組んでいますね。人数が多い、少ないじゃなくて強くなる下地を持っている。私も7 、8年前に復帰した時は部員8 人から始めました。
勝つために必要な勇気と決断を持っていた。ゲーム中に(それらを)個人、個人できないといけない場面で、それが出来ていたんです。そして、勝つための断固たる決意がある。
秋としては完成度が高かった。夏、優勝を狙いにいく決意を持っていれば可能性はある。
人数をハンデと思わず、追い詰めてやれるか、(人数が少ないというのは)メリットですよ。公立のこういうチームは怖いですから。優勝しないと分からないとこもある。石井君が気づけたらチャンスがある。(09年秋優勝し)この夏、うちは空回りしましたが、いい経験でした。来年もう一度と思っています」
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【目次】
1.本当のボランティアとは?
2.練習試合をした監督から見た北村山
3.山形で一番、思う
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山形で一番、思う
少ない人数でひたむきに練習する選手達
「選手に自由に声、かけていいですから」。石井監督が練習の合間に取材をしていいと許可をくれた。だが、私は声をかけることができない。
加賀学、鎌田輝、木賀湧也、岸維吹、倉金駿、倉金優、斎藤雅人、星川泰平、堀江岬、八代啓夢。北村山の室内練習場に、確かに響いている、10人の心の声。
「勝ちたい」「上手くなりたい」「山形で一番になる」
それくらい集中し、真剣にひたむきに練習している10人の姿に、声をかけるタイミングがわからないのだ。この情熱、雪をも溶かしてしまいそうだ、なんて思いながら、勇気を持って、けん制を練習している選手に「何を意識して、やっているの?」と話しかけた。「一塁へ投げる時の歩幅です」と答えた彼はまた、ネットに向かって投げ始めた。
まだ雪深いグラウンドから・・・
2日目は一人20分くらいの時間で10人全員に話を聞いたが、これは、選手が次々と順番に来てくれたものだった。
豪雪地帯で、少人数で県ベスト8に入り、山形の21世紀枠推薦校になったから行ったのではない。彼らは「どうせ、無理」とか「公立だし」とか「人数少ないし」などと嘆かない。疑うことなく、甲子園を目指している。真剣に部活動に取り組んでいる普通の高校生だ。その真剣になれる場、気持ちを石井監督が作り上げている。
環境は、あるものでいいのだと思う。そこでいかに工夫するか。先に登場してくれた福岡監督が指導する古川学園のグラウンドは広くないし、お世辞にも立派とはいえない。逆に、北村山は人数が少ないが、グラウンドがとても広い(冬は積雪がすごいけど・・・)。現状でどう活動していくか。本気になれるか。
さあ、2011年が幕を開けた。日本有数の豪雪地帯でも、必ず雪は溶ける。それが野球の季節の合図。その時、冬の間に根を伸ばした努力は、夏にスイカが実るように、必ず花開く。そして、笑-show-Timeが始まるのだ。雪国から、甲子園に向かって――。
(全4回終了)
(文=高橋 昌江)
■北村山バックナンバー
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