Column

「最後は鴨池で」叶わぬ鹿児島球児も真剣勝負の舞台に感謝

2020.12.28

厳戒態勢の中でもグラウンドでは変わらぬ真剣勝負の世界

「最後は鴨池で」叶わぬ鹿児島球児も真剣勝負の舞台に感謝 | 高校野球ドットコム
細心の注意を払った中で大会は開催された

 コロナ禍による試練の年。
 当たり前に野球があるありがたさを実感。

 毎年、年末になるとこの1年を振り返って総括するのが年中行事である。3月に春の県大会の開幕で「球春到来」を感じてから、晩秋に1年生大会が終わるまで、駆け足で過ぎていった出来事を丹念に振り返ると、その年ならではの特徴が見えてきて、新しい年に向けての「指標」が見つかる。

 しかし、今年は振り返るのが憚られるほど、「コロナ禍」で想定外、予想外のことが続いた。センバツ、春の県大会、NHK旗、夏の選手権予選、選手権…3月から6月までの間に、あらゆる大会がことごとく中止となった。

 どこが勝ったか、負けたか、どんな選手が活躍したのか…当たり前に一喜一憂していた出来事がことごとく「無」のままで日々が過ぎていく。高校生、特に3年生にとっては誰もが経験したことのない、先の見えない不安を抱えながら日々を過ごしたことだろう。

 6月、甲子園のない夏の代替大会として鹿児島県高野連の主催する「2020鹿児島県夏季高校野球大会」の開催が発表された。

 県の監督会や3年生部員のアンケートでは「甲子園がないのなら鴨池で最後の夏を締めくくりたい」と通常通り[stadium]平和リース[/stadium]、[stadium]鴨池市民球場[/stadium]を使用しての県大会開催を望む声が多かった。

 だが離島を抱え、移動や長期滞在による感染症リスクや練習不足、準備不足による熱中症などを考えると高野連としては通常通りの方式の県大会開催は断念せざるを得なかった。6月下旬から7月にかけて、県下7地区ごとに予選、7月に予選を勝ち抜いた16チームによる決勝トーナメントという2段階方式での開催が決まった。鴨池で試合ができないことを残念がる声もあったが、3年生にとって真剣勝負での締めくくりの舞台を作ってもらったことに対して「感謝したい」と大会期間中の取材で多くの選手たちが話していたのが印象に残った。

 「応援してくれる同級生や学校の先生方のためにも半端な野球はできない!」と鶴丸の前田秀太朗は話していた。野球以外の運動部活動生にとっての集大成である高校総体も中止となった。集大成としての真剣勝負ができないまま部活動を引退する同級生も多かった。甲子園はなくとも野球は真剣勝負の舞台があることに感謝し、真剣勝負ができなかった自分たちの分まで頑張って欲しいという同級生の想いも背負って大会に臨む3年生が多かった。

 球場に入る際は検温と手の消毒、マスクの着用。観客席に入れるのは事前に申請した該当試合チームの保護者のみ。試合後はベンチなどの消毒を徹底。試合後のインタビューは監督と主将のみの共同会見…徹底した感染症対策の中で実施された夏季大会だった。

 球場周辺は「コロナ禍による厳戒態勢」を感じさせる雰囲気だったが、グラウンドで繰り広げられたのは今までの何ら変わることのない真剣勝負の世界だった。鹿児島商は左腕・山本 直樹(3年)の投打にわたる活躍で8強入り。このところ勝てていなかった古豪の意地を見た。

[page_break:一戦ごとに力をつけ夏、秋連覇を果たした神村学園]

一戦ごとに力をつけ夏、秋連覇を果たした神村学園

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夏の独自大会を制した神村学園

 決勝トーナメント1回戦の鹿児島城西vs鹿児島実業は注目のカードだったが、中盤から終盤にかけて鹿児島城西打線が爆発し、大差で勝利した。鹿児島城西神村学園、南薩2強が優勝争いの本命と目されていたが、「ダークホース」が現れる。姶良伊佐地区の公立校・国分中央が準々決勝で鹿児島城西を下し、準決勝では鹿児島玉龍に競り勝って決勝に駒を進めた。秋春の県大会では勝てなくても、最後の夏には上位に勝ち上がってくる「夏に強い国分中央」は今年も健在だった。

 いろんなチームが大会を盛り上げた中「真打」は神村学園だった。オール3年生で臨んだ大会で他チームを圧倒する。決勝戦は、堂々の横綱野球で国分中央の挑戦を退けた。「ちゃんと野球をやれ!」。試合中、小田大介監督が口酸っぱく言い続けた。ベンチ入りはオール3年生で臨む代わりに、相手に関係なく、これまで培った神村学園の野球をやり切る。

 投打の主軸として活躍した桑原 秀侍、リードオフマンの田中 大陸、右腕・田中瞬太朗、決勝前日に左ひざをけがしてスタメンから外れながら8回に代打で登場してタイムリーを放った古川 朋樹主将…昨秋は鹿児島城西の前に3回戦で敗れた神村学園だったが、昨夏の甲子園を経験したメンバーが主軸で残り、この年代では一番力があると目されていた通りの力を遺憾なく発揮した。

 秋の県大会は通常通りのトーナメント戦で開催されるようになった。検温、消毒、マスク着用などは継続されていたが、それ以外はこれまでに近いかたちでの実施となった。大きく変わったのは「1人500球」の球数制限が導入されたことを考慮し、準々決勝4試合、準決勝と3位決定戦、決勝が土日開催になり、トータルの大会期間が延びた。

 そんな秋を制したのも神村学園。1、2年生は夏の大会を経験した選手は皆無で、経験不足が懸念されたが、一戦ごとに力をつけ、選手層の厚さや野球に対する明確な哲学が貫かれているのを感じた。

 誰もが経験したことのない「コロナ禍」という試練の1年の中で、一番痛感したのは「当たり前に野球ができるありがたさ」だった。コロナの影響は未だ終息の兆しを見せず、今後もどうなるかは分からない。高校球児のみならず、社会全体が直面している試練である。筆者も含めて、グラウンドで当たり前に野球をしている姿に勇気づけられた人も多かったのではないか。「当たり前」の「ありがたさ」を知る。感謝の心を持つ。野球に対する見方、考え方に新たな一面が見いだせた1年だった。

(記事:政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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