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甲子園ブラバン新神曲・國學院久我山「一本」誕生秘話  ~「歌」と「歌詞」の魅力を発揮させた「神曲」~

2019.09.03

 2019年夏、春夏遭わせて6回目の甲子園出場で悲願の初勝利をあげ、國學院久我山(西東京)、その大きな原動力となったのが高校野球ドットコム選定「最優秀応援団賞」にも輝いた熱き声援、そしてテレビアニメ「タッチ」挿入歌「星のシルエット」を編曲し、歌詞を付けたチャンステーマ「一本」であった。

 1回戦で2013年に初出場初優勝を果たした前橋育英(群馬)を鮮やかに逆転した時にも、2回戦・敦賀気比(福井)戦の最終回二死走者なしから得点を奪った時にも流れ続けていたまさに「甲子園ブラバンの新神曲」。今回はその誕生秘話を音楽的観点も交え、同校1989年度(平成元年度)吹奏楽部OB・コーチを務めるフリューゲルホーン&トランペットプレイヤーであり、作詞・作曲・編曲家も務めるYUHKIさんに聴いた。

「一本出せよ!」を響かせるために

甲子園ブラバン新神曲・國學院久我山「一本」誕生秘話  ~「歌」と「歌詞」の魅力を発揮させた「神曲」~ | 高校野球ドットコム
國學院久我山平成元年度(1989年度)OB・フリューゲルホーン&トランペットプレイヤー・作詞作曲編曲家のYUHKI(ユウキ)さん<写真:本人提供>

 「この骨格を作ったのはすごいなあ……」
 2016年夏、西東京大会を前にした野球部応援担当と吹奏楽部の打ち合わせ。YUHKIさんは野球部から編曲を依頼されたチャンステーマに、思わすこんな声を漏らした。

 その曲とは当時野球部2年生の東 祥太郎さん(現:学習院大2年・投手)が「子どものころから見ていて気に入っていた」と自作で作成、同年春からアカペラで応援に持ち込んでいたテレビアニメ「タッチ」の挿入歌「星のシルエット」モチーフにした「一本」である。

 元の曲は志半ばで交通事故で亡くなった上杉和也が遺された双子の弟・上杉達也と恋焦がれていた幼馴染、浅倉南へ天から語り掛けるバラード。「音源を聴いても野球のシーンは思い浮かばない」スローテンポから、グラウンドで戦う選手たちに対し、スタンドから想いを託す歌詞を編み出した彼の才能に、YUHKIさんは驚くばかりだった。

 ただ同時に、このままでは吹奏楽に適さないことも事実。そこでYUHKIさんは「歌と歌詞の魅力を発揮する」を軸とし、続いて2つのテーマを決めて編曲に取り組んだ。

1.バラード性を取りながら願いを込めた曲調にする
2.シンプルにしつつ、サビの「一本出せよ!」の声がスタジアムで響くようにする

 「ですので、実はこの「一本」には本来、吹奏楽の主力となるトランペットは最後のほうにしか使っていないんです」。YUHKIさんの指摘を受け改めて「一本」を聴いてみると……確かに「一本出せよ!」を囲むようにしかトランペットが入っていないのである。

 「野球部をはじめ、みんなが全力で歌ってくれることで、全体でカッコよくなるようにしました」

 そしてYUHKIさんをはじめ、みんなの願いは届く。同年から早くも西東京大会で話題となった國學院久我山「一本」は、導入4年目を迎えた2019年夏の西東京大会で勝利を呼び込む「神曲」へと進化。準々決勝・早稲田実戦でのサヨナラ満塁ホームラン、準決勝の大本命・東海大菅生を撃破した先にあったのは、9回表に創価を突き放しての28年ぶり3回目、夏の甲子園出場だった。

[page_break:聖地での感動を胸に次の「神曲」へ]

聖地での感動を胸に次の「神曲」へ

 國學院久我山中3年以上の全吹奏楽部員と卒業生含め、総勢100名以上の編成で臨んだ甲子園・前橋育英(群馬)戦。その中にはもちろんYUHKIさんの姿もあった。「バタバタしていて広さに圧倒される間もなく始まったし、本来屋外演奏で生じる音が逃げるリスクも感じなかった」バント含む応援の一体感は、逆転勝ちでの甲子園初勝利になって成就した。

 そこには思わぬアシストもあった。明治神宮野球場にはない、甲子園の内野スタンドを覆う銀傘である。

 「音というものは壁があれば跳ね返るものなので、残響音を作ってくれる効果があるんです。そんな計算は全くしていなかったんですが、銀傘がムードを作ってくれたのかもしれませんね」

 そして歌詞は観衆のみならず相手チームをも知るところとなる。19失点を喫しながら最終回に1点をもぎ取った敦賀気比(福井)との終盤、流れ続ける「一本」を聴きながら「一本出せよ」と口ずさんでいたのは、なんと敦賀気比の選手たちだった。

 「僕らとしては「まず1勝」から、「勝ち続けよう」と思った中での敗戦だったので悔しかったんですが、あとでそのことを聞いてびっくりしたし、うれしかったです」(YUHKIさん)。この時、國學院久我山「一本」は聖地に感動とインパクトを残す真の「神曲」となったのであった……。

 最後にYUHKIさんに聞いた。「この「一本」が今後、高校野球にとってどんな曲になってほしいですか?」
 「正直、他の学校で使ってほしくない思いはありますけど(笑)、野球応援で「これがかかれば点が入る、熱くなれる」曲になってくれれいいと思っています」

 すべては「俺らの夢をお前に託し、今日の勝利をとるために」。今度は「一本」を上回るオリジナルの神曲を携えて、國學院久我山は聖地に戻ってくる。

<國學院久我山「一本」歌詞>
曲頭にオープニングメロデイー1小節
(2小節曲)かっせ久我山! (2小節曲)かっせ久我山!
今だ かっ飛ばせ
一本出せよ ここで一本出せよ 俺らの夢をお前に託した 勝利をつかめ
一本出せよ ここで一本出せよ 今日の勝利をとるために
(選手名)今だかっ飛ばせよ!(選手名)今だかっ飛ばせよ!
*以下(2小節曲)かっせ久我山! から繰り返し

(取材:國學院大学久我山高等学校1989年度卒・寺下 友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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