左右非対称の体を理解する
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
本格的なオフシーズン期が近づいてきました。また寒暖差が激しく、体調管理にも気を使う時期でもあります。選手の皆さんには引き続き感染症対策を行いながら、野球の練習や試合に励んで欲しいと思います。さて今回は、体の左右差について考えてみたいと思います。野球は非対称の動作が多く、筋力などに偏りが出やすい傾向にあります。その一方で体そのものが左右非対称であるということについても考えてみたいと思います。
筋力バランスを整えるためにトレーニングをする
左右非対称になる動作は体力面での左右差を生み出しやすい
皆さんは体づくりのためにトレーニングを行うと思いますが、野球選手におけるトレーニングの目的は大きく4つ挙げられます。「ケガの予防」「競技パフォーマンスの向上」という理由に加えて「筋力バランスを整える」「心理的な安心感を得る」といったことも挙げられます。
野球の動作ではバッティングやスローイングなど非対称となる動きが多くあります。中には両打ちができる選手もいますが、両投げの選手を見かけることは少なく、野球は左右非対称の動作を繰り返すことの多いスポーツと言えます。練習を積み重ねるうちに、例えば投球側の関節可動域(関節の動く範囲)が狭くなってしまったり、あまり使わない非投球側の筋力が反対側に比べて落ちてしまったり、といったことが起こります。
内臓の配置は左右非対称
一方で人間の体はもともと「非対称である」ということを理解しておく必要もあります。まず内臓について考えてみましょう。肺や腎臓など一対になっているものもありますが、多くの臓器は一つであり左右どちらかに偏って位置しています。肺や腎臓自体も大きさや位置が対称ではありません。
心臓は体の中心からやや左側付近にあり、体の中で最も大きい臓器と言われている肝臓は体の右側に位置しています。小腸や大腸も対称的に配置されているのではなく、お腹の中にあるスペースにうまく組み込まれています。肝臓は成人男性でおよそ1kg~1.5kgの重さがあり、人間の体はこれによってやや右荷重になりやすい傾向にあるといえます。足の大きさを正確に測定してみると、右足の方がやや大きいという人が多いとも言われています。
肝臓の位置が及ぼす動作への影響
左に体を傾けやすいのでベースランニングは走りやすい
体の右側に肝臓があることでやや右荷重傾向にあると、私たちの体はどのように反応するでしょうか。買い物にいって重い荷物を右手で持ったときのことを考えてみると、自然と体を左側によせるようにしてバランスをとると思います。例えば野球のベースランニングは左周りとなっていますが、左には体を傾けやすく走りやすいと感じられるのではないでしょうか。これが右周りであれば走りにくさを覚えることと思います(そもそも右周りに走る経験が少ないこともあります)。
また体をひねる回旋動作にも違いがみられます。左への回旋動作は大きく行うことができるのに対し、右への回旋動作は左よりも浅くなる傾向にあります。これは右に肝臓が位置しているために動作を妨げているのではないかと考えられています。
利き足と軸足
筋骨格系についてのバランスについても考えてみましょう。私たちには右利き、左利きといったそれぞれ使いやすい側が存在し、体重を支える足についても「利き足」があります。利き足は利き手と同じく、器用に動く方の足を指します。利き足を調べる簡易的な方法としては両足を揃えて立ち、体を前に倒したときに、転倒を避けようとして前に出した方の足が利き足です。利き足と反対側の足が「軸足」と呼ばれ、利き足が自由に動けるように軸足で体を支えていることが多くなります。自分の利き足を理解しておくと、とっさの動作でどのように体を支えながら動いているのか、その傾向がつかめると思います。また利き足と同様に軸足でも器用に動くことができるようになれば、動きの幅が大きくひろがることが期待できます。
左右非対称な体は「得意な動き」「非得意な動き」を生み出します。あまりにも体力面での左右差が大きいとケガの一因となってしまいますが、筋力バランスをはじめとするさまざまな「体の調整」をすべて対称にするというのはむずかしいということも理解できると思います。普段の動きの中で動きやすさ、動きにくさの感覚や、気がつかずに過ごしている体のクセ(足を組んだり、片側に体重をよりかけたり)を見直してみましょう。そこにパフォーマンスアップのヒントが隠されているかもしれません。
参考書籍)野球選手なら知っておきたい「からだ」のこと 土橋恵秀・小山田良治・小田伸午著/大修館書店
【左右非対称の体を理解する】
●野球は非対称の動作が多いスポーツ
●トレーニングは体力面での左右差を改善させる目的がある
●体はもともと非対称であり、内臓の配置も対称とはならない
●体で一番大きな臓器である肝臓は右寄りに位置する
●肝臓が右にあることで左側に体を傾けたり、左回旋がしやすい傾向にある
●運動性の高い利き足がどちらであるか理解しておこう
(文=西村 典子)