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キューバ戦の盗塁に見る「隙を突く」戦術

2017.03.08

キューバ戦の盗塁に見る「隙を突く」戦術 | 高校野球ドットコム
坂本 勇人(侍ジャパン)

 2大会ぶりの世界一を狙う侍ジャパンは、大事な初戦でキューバに11対6と勝利。スコアを見れば大味な乱打戦を制したように見える。が、世界最高峰の試合では一つのプレーが試合の流れを大きく変える。この試合でいえば、侍ジャパンが仕掛けた3つの盗塁が直接的、間接的にスコアに結びついたと思えてならない。
3つの盗塁のそれぞれの場面を振り返り、その効果を考えてみる。

ケース1:松田 宣浩選手

 2回裏、一死一塁の場面。バッターは9番の小林 誠司選手。ランナーは松田 宣浩選手。1ボール2ストライクからの5球目に松田選手が二盗を成功させた。
侍ジャパンは1回に先制し、続くこの回でも追加点を奪ってリードを広げたい場面。一死から松田選手がヒットで出塁し、9番打者の小林選手は確実にバントで送って1番の山田 哲人選手につなぎたい。だが、キューバの選手も当然バントは想定してくる。先発ピッチャーのエンテンザ投手は、最初の4球を投げるまでに牽制を計5回している。その間に小林選手はバントを2度失敗。カウントは追い込まれ、局面としてはバントをしづらい状況になった。

 ランナーを二塁に進めたいがバントはしづらい。盗塁はしたいが執拗な牽制が続いている――。ここで松田選手はある変化を見逃さなかった。5球目の前、エンテンザ投手がマウンド後方に降りベルトを締め直し、間を取ったのだ。投手の立場からすれば、前半の緊迫の場面で牽制を繰り返すことは決して楽ではない。一拍置きたくなるのは当然であるし、決して間違いではない。だが、そこにできた一瞬の隙を松田選手は逃さなかった。結果としてこの回は得点こそなかったものの、キューバベンチにしてみれば寸分の隙をも見せられない重圧を感じたのではないだろうか。

ケース2:中田 翔選手

 5回裏、一死一塁の場面。バッターは6番の坂本 勇人選手。ランナーは中田 翔選手。0ボール1ストライクからの2球目に中田選手が二盗を成功させた。侍ジャパンは4回裏に勝ち越し点を奪っていたものの、山田選手のホームランかと思われた打球が二塁打と判定されての1点止まり。どこかブレーキのかかった勢いを開放するためには、さらなる得点がほしかったところだ。キューバのピッチャーは2番手の左腕・イエラ投手。この場面でイエラ投手は初球を投げる前に1球牽制を入れている。だが中田選手は2球目、モーションを完璧に盗み盗塁に成功した。中田選手は昨シーズン141試合に出場し2盗塁。おそらく、キューバベンチにもこの数字を把握していて、この場面での盗塁はないと踏んでいた節がある。

 一方、侍ジャパンベンチは、イエラ投手らキューバの各投手の癖を分析していた節がある。ただランナーに出ればやみくもに走るということでなく、ここぞという場面で走る。その“ここぞ”がこの場面だった。虚を突かれた形になったキューバは明らかに動揺。直後に坂本選手がタイムリーを放ったことで、その動揺はさらに広がり、この回5失点を喫する羽目になった。

[page_break:相手が見せた一瞬の隙につけこむ]
キューバ戦の盗塁に見る「隙を突く」戦術 | 高校野球ドットコム
坂本 勇人(侍ジャパン)

ケース3:坂本勇人選手

 6回裏、無死一塁の場面。バッターは7番の鈴木 誠也選手。ランナーは坂本選手。0ボール1ストライクからの2球目に坂本選手が二盗を成功させた。

 この時点でのスコアは7対1で侍ジャパンがリード。だが、先頭打者を出すのはこの6回が初めてだった。日本が得意とする野球からすれば、ここは送りの場面。その狙いを確かめるかのようにキューバのホンダー・マルチネス投手は、初球に牽制を入れる。だが鈴木選手はバントの構えを見せない。初球も空振り。バントはなし、と判断し臨んだ2球目だったはずだ。そこで坂本選手がすかさず盗塁。上記2つの場面にも共通することだが、ピッチャーがバッターと細かな駆け引きに集中したい時に限ってランナーが動いている。ピッチャーからすると、集中力はかき乱されるわ、進塁は許すわ、でかなりフラストレーションが溜まるだろう。そういった心理的プレッシャーをマウンド上のピッチャーに与えられたのならば、この回得点はなかったものの、続く回での得点への布石になったと考えることができる。

 試合後の会見で、小久保 裕紀監督は中田選手の盗塁について聞かれ、
「走ってほしくない場面は『走るな』というサインがあります。それ以外は隙があれば(走る)、ということで。あの場面もフリーのポジションで思い切ったスタートだったと思います。足の速い遅い関係なく隙を(突く)というところでは、彼は(姿勢を)示してくれたと思います」と答えた

「隙を突く」――つまりは、自分たちに有利に働かせると同時に、相手に大きなダメージを与えるために盗塁を活用していたということか。
相手が嫌がることをやる。相手が見せた一瞬の隙につけこむ。それが相手に重圧を与え、勝負どころでの判断やプレーに微妙な影響を及ぼす。結果、自分たちが試合の流れを握り、主導権を掴む。「試合は相手があってこそ成り立つ」という当たり前の事実。だが、そこに潜む見落としがちな勝ち方。この試合で改めて教えられる部分は少なくない。

(取材・文/伊藤亮

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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