東山高等学校(京都)「秋は強豪相手に7連勝!その強さを探る!」
秋季大会の組み合わせ抽選会でキャプテン・長谷川 雄真(2年)の表情は凍りついていたかもしれない。同じゾーンに京都国際、京都鳥羽、立命館宇治がいるという、近年でも稀に見る最激戦区を引いてしまい、勝ちやすさという点から見れば最悪の組み合わせだった。しかし、東山はそれらの強豪を次々と破り1次戦を突破。2次戦でも北部屈指の実力校・峰山を下しベスト8に進出すると、準々決勝以降は福知山成美、龍谷大平安、京都翔英という現在の京都を引っ張る3強を全て退け、22年ぶり9回目の頂点に立った。
考えられる限り最も厳しいトーナメントを勝ち抜き、今年4月から指揮を執る足立 景司監督の下、古豪復活を印象付けるに十分な成績を残した。夏はベスト8入りを果たしたが、旧チームから残るのはベンチメンバー3人のみでレギュラーはゼロ。140キロオーバーのストレートをガンガン投げ込む投手も、高校通算本塁打数が話題になるようなスラッガーもいない。そんなチームがいかにして強豪相手に7連勝出来たのか。足立監督はメンタル面の成長を優勝の要因に挙げた。
豊富なスイング量とメンタルトレーニングでチーム力を底上げ
足立 景司監督(東山高等学校)
「これまでは強いところと当たると構えてしまうところがあったんですけど、イメージを払拭出来たかなと思います。新チームになってからはメンタルトレーニングを取り入れたんですけど、打席の中で気持ちと顔つきに余裕が出て、とくに2次戦からは堂々と戦ってくれました」
練習の最後に行うランメニューでどこまで自分を追い込めるかとプレッシャーをかけたり、時には感情表現や校歌斉唱、時には合掌しての精神統一をするなどし、技術面以外も強化。足立監督が就任してからの練習は、質だけでなく量も目に見えて変わった。夏休みに専用グラウンドが使えるのは朝8:30からだが、練習開始はその1時間前。課したノルマは1日1000スイング。連日、体幹トレーニングと共に3秒に1回のペースでのスイングやティーバッティングなどで、400スイングをこなしてからの球場入りとなった。
グラウンドでの練習は実戦形式の1本打ちに多くの時間を割き、一死一、三塁からの仕掛け、一死二、三塁からワンヒットでいかに2点を取るか、一死二塁からの攻撃の3パターンを中心に走塁判断を磨く。軟式野球部がグラウンドを使う15:00以降もノルマ達成のためグラウンド横でバットを振り込んだ。
ポイントとなった鳥羽戦
エース・金和 修平(東山高等学校)
打線強化に本格的に着手するのと並行して適任者探しが続いていたのが1番打者。2番・宮口 智志(2年)は足が速くてバントも上手い。状況によっては相手投手に球数を投げさせるなど野球脳が高く、つなぎ役にはもってこい。その前を打つ打者に求めたのは思い切り振れること。8月後半に、長打力が武器で本塁打数はチーム1の田中 将人(2年)を抜擢し1、2番が固定されると、主軸は旧チームからベンチ入りしていた長谷川、高倉 陸(2年)の2人とショートを守る村井 隆真(2年)が務め、上位打線の陣容が固まった。
打線の形が見えて臨んだ秋季大会でポイントになったのが、1次戦2回戦の京都鳥羽戦だった。5回を終わって2対9と7点ビハインド、コールド負けの予感さえ漂ったが、後半に豊富なスイング量をこなし精神力を鍛えてきた打線が奮起。練習試合で天理、智辯和歌山などのビッグネームと対戦した際は名前負けしていたが、浮き足立つことなく逆転勝利。
そして、経験値は高くなかったものの旧チーム以上と評判だった打線がビハインドをひっくり返したことと同じぐらい大きかったのが、エース・金和 修平(2年)の好投。6回からマウンドに上がると後半はピシャリ。金和は中学時代に投手経験はあったが、高校には捕手として入学。しかし、同学年に強肩の徳田 龍二(2年)がいたこともあり、1年秋に尾迫 大樹部長の勧めで投手に転向。2年春にベンチ入りしたが、新チームになってからは練習試合で結果を残せず、1次戦ではエース番号を後輩の小山 湧平(1年)に譲っていた。金和はこの試合で自信を取り戻し背番号1を取り返すと、2次戦ではバッテリーが活躍する。
準々決勝の福知山成美戦は先頭打者本塁打を被弾するところから幕を開け、続く2番打者の打球も左中間への大飛球。これで行けるという雰囲気になったのか、福知山成美の各打者は体が開き気味になる。観察眼に優れるキャッチャーの大杉 渉太(1年)はそこを突いた。金和の大きなカーブを有効に使い、元々引っ張る傾向の強い福知山成美打線に対しショートを三遊間に寄せる守備シフトもハマった。
回を追う毎にリードを広げ最終的なスコアは7対1。夏のリベンジを果たすと近畿大会出場を懸けた準決勝の相手は龍谷大平安。1年前は0対14で大敗していたが、初回にまだ制球が安定しない先発投手に漬け込んで、新チームから磨いてきた打撃で、2点を先制すると、低めに集める金和の投球と大杉の巧みな好リードで、強力打線を1点に抑え逃げ切りに成功。決勝の京都翔英戦では調子に波のある小山が7回を無失点に抑えると、終盤は金和が得点を許さず。練習試合を含めても1度あったかどうかという完封勝利を収めた。試合中はガッツ溢れる長谷川と共に柏原 玄麻(2年)がベンチを盛り上げ、京都の頂点に立った。
近畿大会で感じた力の差
キャプテン・長谷川 雄真(東山高等学校)
いい形で臨んだ近畿大会では1回戦で兵庫準優勝の報徳学園に敗れ、選抜出場は厳しくなった。3点リードの7回、安打で出塁した報徳学園の1番・小園海斗(1年)を一塁に置いて次打者にレフト線へ安打を打たれる。するとレフトがわずかにもたつく間に走者は進塁し二、三塁とされ、続く片岡心(2年)に同点スリーランを浴び、その後逆転を許した。もし一、二塁で止めていれば片岡はバントしていた可能性が高い。勝負を分けた7回の5失点、報徳学園はわずかな隙も見逃さなかった。
試合全体を通してもエース・金和は低めのチェンジアップを見極められ、小山にスイッチした後も追い込んでからの変化球をしっかりタメてセンター前に弾き返される。チームとして方針を徹底し、それをきちんと体現出来る報徳学園打線の前に9失点。「報徳学園はうちの継投に対策が出来て、うちは出来なかった。そこが、命運が分かれたなという感じでしたね」四球や失策で自滅したわけではなく、互いの力をぶつけ合っての敗戦を、足立監督は「力負け」の一言で表した。
甲子園に出るだけではなく、甲子園で勝つ、優勝する、を目標とするチームに敗れたことで、課題も明確になった。このオフは毎月1kgの増量を目指し、学校に弁当とは別に白米をたっぷり詰め込んだ大きなタッパーを持参。夏休みは1日1000スイングだったノルマが、冬休みは1500に増える予定だ。また、力強さと共に走者が複数いる場面での1本打ちを継続し、走塁技術にも磨きをかける。
「走塁が大事というのは、刷り込んで秋にハマったところもあったんですけど、その意識をさらに高めたいです」
どちからと言えば打撃寄りのチームだが、現役時代に速球派左腕として注目を集めた足立監督は、投手陣のレベルに満足していない。
「このメンバーで夏を迎えた時に、遠征や連戦を戦えるフィジカルが無い。この冬で体を作りたいですね」
チェンジアップと制球力が武器の金和もテーマに挙げたのはストレート。押す投球が出来るようになれば緩急が使えてより幅が広がる。
「京都で1位になる練習じゃなくて、甲子園で勝つ練習をしたい。何人がその目標を持てるかで、強くなるかどうか分かれると思います」
冬の取り組みをそう話す長谷川の言葉をそのまま借りるなら、練習は「0回の攻防」プレーボールの前に戦いは始まっている。秋の優勝は古豪復活の序章に過ぎない。一冬越えた東山が再び[stadium]わかさスタジアム[/stadium]で大暴れし、15年ぶりの夏の甲子園を目指す。
(取材・文=小中 翔太)