Column

平成25年度四国地区高等学校野球連盟監督研修会

2014.01.21

四国勢躍進の原動力「四国地区高校野球監督研修会」

研修会冒頭の挨拶を行う佐光康彦徳島県高野連会長

 2013年の四国高校野球界は春も夏も熱かった。
 センバツでは高知(高知)と済美(愛媛)が準決勝で激突し、済美が準優勝。鳴門も1勝をあげるなど7勝3敗の高勝率をマーク。選手権丸亀(香川)こそ緒戦敗退に終わったが済美は1勝。さらに明徳義塾は2勝、鳴門は3勝をあげ共にベスト8入りし6勝4敗。春夏通算では13勝7敗となった。

 センバツでは鳴門工(徳島・現:鳴門渦潮)、八幡浜(愛媛)、済美明徳義塾の4校が出場し、済美が初出場初優勝・明徳義塾もベスト4に入り8勝3敗。

 も香川県からは尽誠学園、徳島県からは鳴門第一(現:鳴門渦潮)、愛媛県からは済美、高知県からは明徳義塾が出場し、済美が初出場準優勝、明徳義塾も2勝をあげて6勝4敗。通算14勝7敗をマークした2004年以来9年ぶりの勝ち越し。そこには「かつての強豪地区」と言われた数年前の評価はない。

 その要因を探っていくと、一つの符合点があることに気付く。
 2012年1月21日に愛媛県で、山下智茂・星稜(石川)名誉監督・甲子園塾塾長の基調講演により産声を上げた「四国地区高等学校野球連盟監督研修会」設立以降、四国勢の成績は上昇カープを描いているのだ。ではここで2004年以降、10年間の四国勢甲子園戦績を見てみよう。

<甲子園四国勢戦績>
2004年 春:8勝3敗 夏:6勝4敗 通算:14勝7敗
2005年 春:1勝3敗 夏:4勝4敗 通算:5勝7敗
2006年 春:1勝2敗 夏:3勝4敗 通算:4勝6敗
2007年 春:3勝3敗 夏:3勝4敗 通算:6勝7敗
2008年 春:2勝3敗 夏:1勝4敗 通算:3勝7敗
2009年 春:1勝2敗 夏:2勝4敗 通算:3勝6敗
2010年 春:0勝3敗 夏:1勝4敗 通算:1勝7敗
2011年 春:1勝3敗 夏:3勝4敗 通算:4勝7敗
2012年 春:2勝2敗 夏:3勝4敗 通算:5勝6敗
2013年 春:7勝3敗 夏:6勝4敗 通算:13勝7敗

 前年で底を打った形とはいえ、まだ浮上の兆しまでは見えなかった2011年(第83回選抜高等学校野球大会第93回全国高校野球選手権大会)。
 しかし、第1回研修会以降、成績は徐々に良化。2012年12月8日に香川県にて開催。
 香川県高野連監督研修会では恒例となっている「その時ベンチは」を四国版に拡大し、秋季四国地区高校野球大会準決勝の采配を監督同士で振り返る第2回監督研修会を経て、成績は先述の通りV字回復を遂げた。

 もちろん、安樂 智大済美2年):独占インタビュー 第122回 済美高等学校 安樂 智大 投手岸 潤一郎明徳義塾2年):独占インタビュー 第160回 明徳義塾高等学校 岸 潤一郎 選手板東 湧梧鳴門3年→JR東日本)といった好右腕の出現など、選手たちの頑張りが主たる原動力ではあるが、4県の垣根を越えて、ハイレベルな技術指導法やメンタルケア方法を共有できる四国地区監督研修会の存在が躍進の一因を成していることも確かだろう。

 この流れを受け2014年はさらなる飛躍を期す四国高校野球。
 そこで「第3回四国地区高等学校野球連盟監督研修会」のホスト県となった徳島県は、これまでの2回とは異なるアプローチでの研修材料を用意した。過去、徳島県高野連監督研修会では3回にわたり開催されている「トレーニング講習」がそれである。

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[page_break:「体力」修得法を学ぶ]

「体力」修得法を学ぶ

宮本栄治トレーナー(後)とアシスタントの稲垣宗員トレーナー

 

 2014年1月11日。徳島県立徳島城南高等学校には四国各地から高校野球指導者が集った。
 参加人数は第2回とほぼ同数の120名。この参加数を見ても「四国高等学校野球連盟監督研修会」が2年の歳月を経てすっかり四国高校野球の恒例行事となったことがうかがえる。

 その大半の足は校舎内を通り過ぎ、敷地内の体育館2階大ホールへ。そこには徳島城南・徳島商の1年生・2年生部員たちも待ち受けている。

 会に先立ち、後者の1室を借りて開催された「四国地区高校野球監督会準備会」も終わり、13時スタートとなった研修会。

 選手・指導者たちの前に立ったのは西武で1995年から12年間(その間、パ・リーグ優勝4回・日本一1回)、巨人で1年間トレーニング・育成担当コーチを務め、現在は東北楽天の松井稼頭夫遊撃手のパーソナルトレーナーを担当している宮本英治氏である。

 ラグビー選手として長崎南高時代に花園出場。青山学院大でも関東大学対抗戦で活躍した経歴を物語る広い肩幅と強面を有する宮本氏。が、その講習は終始柔和で、時にユーモアに富み、かつ明快であった。例えば技術の修得に「体力」がいかに必要かについて、宮本氏はこのように三段論法的に説明する。

「皆さんは色々な形で反復によって技術を修得しようとしていると思うんですが、実は技術を修得できるのは頭がリフレッシュした時にしかできない。疲れた状態だと技術的要素は少なくなってきます。
 皆さんはウォーミングアップが終わったら技術練習から入ることが多いんじゃないでしょうか?
 そうなったときに技術を修得するには反復をしなくてはいけない。でも、そのべ-スとなる体力がないと意味がない。反復練習をしているときに息が上がっているようでは意味がないんです。

 実際今日は松井稼頭夫と、2球団の若手選手が一緒に行っている自主トレーニングから抜けてきたんですが、その時にノックを打って守備の練習をしても、松井は筋力がすごくある。

 昨年優勝、日本一になった時のビールかけで見ましたよね?タンクトップ姿の下に筋肉がすごくあるわけです。だからいくらノックを受けても疲れないんですよ。筋力があるから体重移動も楽にできる。息が上がらない。
 でも、同じ量のノックを若手選手相手に打ってみると途中で息が上がっちゃう。息が上がってしまうと、それは技術練習でなく持久力メインの練習に変わってしまうんです。キャンプで「特守」とか言ってユニフォームを泥んこにして、息をゼエゼエさせながらやる練習ありますよね?
 あれ、実は技術練習ではなくて、持久力を養成する練習なんです。

筋肉の動きを解説しながら熱弁を振るう宮本英治トレーナー

 ということは皆さんが子供たちの技術を上げようと思ったら、反復練習をするときに息が上がるような体力じゃダメということです。ナンボノックを受けても『さあ!来い!』と言えるフィジカルを作らないといけないんです。
 日本は小さいころから技術を教えるから、世界的に見ても少年スポーツはとても強い。でも大人になると勝てなくなる。
 プロ野球OBの皆さんも正しい打ち方、投げ方を一生懸命教えられていますけど、今の子供たちにはそのベースとなる体力がないんです。ですから野球は技術とメンタルがないと勝てませんけど、そこを修得する体力がまず大事になることを判ってください」

 続いて宮本氏は「パワー=力×スピード(遺伝) 力=体重×加速度」の2数式を出し、スポーツを行う上での基礎筋力の大事さを改めて説いた上で、その基礎筋力をつけるために、どこの筋力を上げるかについても触れた。

「お尻、背中、股関節回り。全部正解ですが、総称すると『体幹』。
 体幹で大事なのは?腹筋、背筋。間違いではありません。でもそれをもっと狭めて、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の順に筋肉をめくっていくと、背骨に一番近いところに『腹横筋』という筋肉があるんです。軸や安定性を作るためには腹横筋がキーワードになります」

 よって宮本氏の体幹トレーニングは、まず人間が本来無意識で使用している腹横筋の収縮法を再教育し、次にコアな部分(インナーユニット)を鍛え、続いて内転筋などの(アウターユニット)を鍛えて骨盤周りを安定させ、上肢下肢の末端部を連動させていく手順で進められていったのである。

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[page_break「基礎体幹トレーニング理論」、徳島県から四国4県へ]

「基礎体幹トレーニング理論」、徳島県から四国4県へ

選手たちと共に実演で状況を体感する高校野球指導者の皆さん

  宮本氏とアシスタント役である稲垣宗員トレーナーコンビのお手本に続き、次々と体幹メニューを行う徳島城南・徳島商の選手たち。
 そのメニュー数があまりに多種多様なため、ここではとても紹介しきれないのが残念だが、腹横筋を使った正しい姿勢ができているかのチェック方法含め、そのメニュー全てが血となり肉となるものであった。

「今までに鍛えたことのない筋肉が鍛えられて、勉強になりました」(徳島城南1年・江﨑 悠真内野手)指導者ばかりでなく、選手たちにとってもこのトレーニングは新鮮なものだったようだ。

体幹部の腹横筋を意識した腹筋に取り組む城南・徳島商の選手たち

 その様子をやや離れた位置で見つめていたのは佐光光彦・徳島県高等学校野球連盟会長である。

 「これまでの講習で基本的な体幹を付けたことによって、徳島県内の選手たちにもパワーが付いた気がします。これが他県のレベルアップにつながって、高い次元の試合が展開できるようになれば」

 昨夏甲子園で出場49校トップのチーム打率3割8分1厘と、強打を全国に見せ付けた鳴門の学校長も務める佐光会長は、この講習内容に込められた想いを語った。

 事実、発言を裏付ける興味深いデータもある。
 徳島県は昨夏県大会でNPB試合開催規格を有する[stadium]オロナミンC球場[/stadium](両翼99.1m・中堅122m)を使用しているにもかかわらず本塁打数は「16」(うち1本はランニングホームラン)。
 これは[stadium]今治市営球場[/stadium](両翼91.4m・中堅115.82m*現在拡張改修工事中)・[stadium]西条市ひうち球場[/stadium](両翼92m・中堅120m)での本塁打数が14本を占めた愛媛県の「19本」にこそ及ばないが、[stadium]レクザムスタジアム[/stadium](両翼96m・中堅122m)を使用する香川県の「7本」、和田 恋高知・巨人ドラフト2位)の高校通算55号「1本」のみに留まった高知県をはるかにしのいでいる。

宮本英治トレーナーに謝辞を述べる岡田康志・徳島県高校野球監督会会長

 しかもその内訳は、鳴門渦潮の3本、徳島池田の2本、城ノ内の2本(うち1本はランニングホームラン)を除けば1本ずつ。柵越えを記録した参加校は全31校中、実に12校に及ぶのだ。
 このことから見ても「体幹トレーニング講習」が徳島県の高校野球に大きな足跡を残していることは明らか。となれば、他県への効果も十分期待できるだろう。

 それを感じ取ったのか、トータル3時間半に及んだ講習会の間、徳島県外の指導者もメモを取り、選手たちと一緒になって実演の輪に加わるなど、それぞれの方法でこのトレーニングを体得しようとしていた。

 女子陸上短距離界の第一人者・福島千里選手も使用している「レッドコード」を用いて普段の体幹トレーニングを行っている小豆島(香川)・杉吉勇輝監督もその1人である。

 「同じ目的であっても、色々な方法を知ることが大事ですし、バリエーションがあれば指導者側の意識も上がる。あとは選手たちにどう伝えるかだと思います」

 こうしてこの日、徳島県から四国4県へ発信されることになった「基礎体幹トレーニング理論」。
 これが今後、四国の高校野球にどのような影響を与えていくのか? 再び四国勢が全国の頂点を極める決め手になり得る要素の推移を追っていきたい。

 そして来年度「四国地区高等学校野球連盟監督研修会」の開催地は高知県。
 「四国地区高等学校監督会」設立へ最後の巡礼地となる場所で、どんな内容の研修会が行われるのか? こちらにも要注目だ。

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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