松戸国際vs千葉黎明
松戸国際のエース・植谷翔磨、冷静なマウンドさばきで6安打完封で関東大会導く
川口廉(千葉黎明)
専大松戸、流通経済大柏、習志野と強豪を打ち破り準決勝に進出した松戸国際と2年連続準決勝進出の千葉黎明。両チームとも現在の監督の就任から強くなった。
松戸国際の石井忠道監督は、中学の指導者から始まり、前任は市立船橋。2005年秋に関東大会に導き、2007年から松戸国際に赴任。そこからメキメキと頭角を現し、2012年春は関東大会出場、この夏へAシードとして夏をむかえるなど、千葉県を代表する強豪校になった。
一方、千葉黎明の荒井信久監督は神戸製鋼、明治大の監督を務め、横浜ベイスターズのスカウト部長、オリックスのスカウトを経て、2011年6月に千葉黎明の監督に就任した。2013年秋に県大会4強入りし、強豪校に育てあげている。両チームとも、千葉では新興勢力。どちらが関東大会の切符を手にするか。
試合は両エースの投げ合いとなった。
松戸国際の先発・植谷 翔磨(2年)だ。数々の強豪を封じた植谷の最大の武器は、高速スライダーだ。
ストレートのスピードは常時120キロ後半~132キロぐらいとそれほど速くないのだが、スライダーは120キロ~125キロ前後を計測する。さらに曲がりも打者の手元で大きく曲がる。このスライダーが素晴らしかった。
いきなり1番藤江 康太(1年)の二塁打を打たれるが、2番加瀬 広樹(2年)を得意のスライダーで空振り三振。稗田 大輝(2年)を二塁ライナーの併殺に打ち取り、無失点に切り抜ける。その後、130キロ前半のストレートをカウントを稼ぎながら、最後はスライダーで空振りを狙うコンビネーションで三振の山を築く。
一方、千葉黎明の先発・川口 廉(1年)。1年生とは思えないぐらいの完成度を持った投手である。とにかく目一杯に投げる植谷と違い、川口は力みがなく、力がうまく抜けた投球スタイル。投球フォームも、ステップ幅が狭く、軽く投げているようなフォーム。だがそれには騙されてはいけない。球速は常時130キロ~135キロとストレートのスピードは植谷以上。さらにコーナーギリギリに投げ分ける制球力も光り、松戸国際打線は川口のストレートをなかなか捉えることができない。さらに小さく曲がるスライダーも効果的に決まり、両投手がお互いに0点を築く。
植谷翔磨(松戸国際)
ここまで千葉黎明は松戸国際の植谷を捉えきることができなかったが、7回表。この試合、最大のチャンスはむかえる。
3番稗田は中前安打を放つと、4番篠原 玲斗(2年)が三振に倒れたが、稗田が盗塁を仕掛け、5番西牧 隼汰(2年)の場面でパスボール。これで一死三塁とチャンスをつくる。
しかし、ここから植谷は武器であるスライダーを連投。
千葉黎明の打者は分かっていても打てなかった。5番西牧を空振り三振で二死三塁。6番大木 浩貴(2年)は死球になったが、7番小更 竜生(2年)はスライダーで空振り三振に打ち取り、ピンチを切り抜ける。
植谷のスライダーは打者の手元で鋭く曲がっていくため、簡単には捕球が出来ない。そのため、捕手のキャッチング技術が大事になるが、松戸国際の捕手・岡本 耕典(2年)のキャッチングは素晴らしかった。植谷も岡本のキャッチングを信頼して、そして岡本も自分のキャッチングに自信を持っているからこそ、得意球のスライダーで押すことが出来るのだろう。
7回裏、その岡本がチャンスを作る。この先頭の岡本はいきなり中前安打を放つと6番今吉 翼(1年)の犠打で一死二塁となり、7番石川 裕勝(2年)の死球、8番天野 勇介(2年)の三塁内野安打で一死満塁のチャンスを作る。
ここで9番日下 涼(2年)が打席に立った。背番号20を着けた日下。第1打席に絶妙な犠打を決めている。
そしてこの打席、見事にスクイズを決め松戸国際が待望の先制点をあげる。
更に続く1番橋本 泰詩(2年)の中前適時打で2点を追加し、3対0とした。非常に大きな追加点となった。
植谷のスライダーのキレは終盤になっても衰えず、9回を投げて、被安打6、14奪三振で完封勝利。松戸国際が千葉黎明を接戦の末に下し、関東大会の切符を掴んだ。
まさにエース植谷の粘り強い投球が目立った試合だった。植谷を見ていて感じたのが、最後まで感情を出さないことだ。高校生になると三振を打ち取るたびに吠えたりするものだが、植谷は最後までガッツポーズを見せることはなかった。
3アウト目で三振に取ったときも、自らボールを受け取り、ゆっくりとボールを置く。そして、最後の打者を打ち取ったときも、植谷は自分の手でマウンドのプレート付近を拭いて、整列に加わった。これが松戸国際の教えかもしれないが、植谷は最後まで自分のペースを乱すことなく、冷静な投球が出来るのは、感情を抑えることで、常に自分のパフォーマンスを発揮できるようにしているのだろう。
植谷のマウンド上の立ち居振る舞いを見て、松戸国際が習志野、専大松戸など強豪集まる最激戦ブロックを勝ち抜くのも頷けた。
(文=河嶋宗一)