3度目、そして「最後の」ドラフト会議を前に 谷田 成吾(徳島インディゴソックス・外野手)
49試合出場・171打数50安打24打点5盗塁・打率.292。これが今シーズン「徳島インディゴソックスの」谷田 成吾が四国アイランドリーグplusで残したリーグ成績である。
並々ならぬ覚悟と決意を持って(インタビュー:第696回 谷田成吾(徳島インディゴソックス)「泥にまみれ、必ずNPBへ」)四国の地に渡り、5月3日に鮮烈なデビューを飾った(映像:
谷田成吾 入団後初出場で鮮烈デビュー! )サラブレッドは5か月余りが経った今、何を考え、何を得たのか?そして、これまでずっと内に秘めていた「野球への想い」とは何か?
慶應義塾大4年、JX-ENEOS2年目に続く3度目、そして本人が「最後」と明言するドラフト会議を目前にした今。「人間・谷田 成吾」の扉が開かれる。
「とてもいい経験だった」四国・徳島での日々
谷田成吾(徳島インディゴソックス)
――2018年、様々なことがあった谷田選手の野球シーズンが終わりました。5月からは自身にとって初の日本独立リーグ・四国アイランドリーグplusでのプレーでしたが、徳島インディゴソックスの一員としての率直な感想からまず聴かせてください
谷田 成吾外野手(以下、谷田):慣れない環境でしたけど「シーズンやり切った」という感じです。もちろんチームとしては優勝できなかった悔しさはありますが、力は出し切りました。
基本的に試合が終わるとすぐ徳島に戻る移動距離の長さや連戦も睡眠時間が取れない部分の難しさはありましたが、自分としては「与えられた環境の中でやる」と思っていたので、苦にはならなかった。とてもいい経験をさせてもらいました。
――今、話されたことを理解した上で、谷田選手が心がけていたことは?
谷田:社会人野球は大会に合わせて自分の状態を整えて、試合。そういう形でしたが、四国アイランドリーグplusが自分の状態が悪くても試合は続いていくので、僕は「すぐ修正する」をポイントにしました。
修正しないと悪い打席が重なっていきます。自分の中で試合前に同じ練習して「身体が突っ込んでいる。身体が開いている」など悪い部分の仮説を立て、次の打席で試し、「よくなった。いや、まだちょっと違う」を繰り返し、調子の上下を少なくしていく。
前期は「四球が多いが、打たなきゃいけない」という焦りもあって、そのペースに対応できない(19試合77打数18安打1本塁打9打点1盗塁で打率.269)部分もありましたが、後期はチームが優勝争いをする中「自分の状態にかかわらず何かしら1個仕事をする」と目標を定めた結果、個人としても「打てるボールを打つ」ことができて終盤に状態が上がってきたと思います。
――今言った意識は「チームを引っ張る」という決意も含まれているように感じます。
谷田:このリーグは選手の入れ替えが激しいですし、自分より年上の選手も少ない。年下の選手がほとんどという中で自分がこれまでやってきた経験をアドバイスできればと思いましたし「自分が一生懸命することで、そこから何かを感じてもらえば。いい影響を与えられれば」という意識でやっていました。
――慶應義塾高3年・慶應義塾大4年の時と似た感覚ですか?
谷田:そうですね。自分が何かをすることで影響を与えられる立場で「やっていこう」という意識はありました。
後期を前にしての「決意と覚悟」
置きティーをする谷田成吾
――とはいえ、谷田選手にとっては何としてもNPBに進むため、自分をアピールしなければいけない場所であるのが「四国アイランドリーグplus」。その部分でのジレンマは当然あったと思います。自分の中ではどうやって整理を付けたのですか?
谷田:後期が始まる前、自分としてはうまくいかなった前期や、ボール自体には驚きはなかった半面、いいスイングをしている選手が数多くいる中で「自分がその中に入っていきたい」と思った関東遠征を振り返って「もし今年、NPBに進めなければNPBを目指してやる野球は終わり」と決めました。
となると、真剣勝負で野球ができるのもリーグ戦は残り30試合のみ。そこで「どう野球をするのか」ということを考えたんです。もちろん打撃が最もアピールする部分ですが、社会人野球を通じてカバーリングなど献身的なプレーも習慣にできた。最終的に出た結論は「先の塁を狙う」も含めた総合力を常に意識しながら「ヒット1本、NPBスカウトさんの目を気にして野球をするより、チームのみんなと一緒に1勝を目指して、真剣勝負の中で楽しむことが、野球を終えた時に満足する方法」だとということになりました。
もしNPBがダメでも……ダメで満足することはありませんが、その中でもどう野球をしたかということで自分を納得させていくために、後期は1試合1試合を重ねていきました。
だから勝った時は嬉しかったですし、負けた時は悔しかったですし。終盤に愛媛マンダリンパイレーツとの優勝争いになった時も自分としてはいい精神状態で臨めていました。
終盤にヒットを重ねられたのも、それが要因だったと思います。
――だからこそ、いっそう最後に直接対決で優勝を逃したことは残念だった。
谷田:うーん……。スポーツの世界はどちらも「勝ちたい」と思っている以上、結果が出ることは仕方ないと思いますけど「やれることはやった」と思っています。
最終戦は結果も出ませんでしたが、「今までやってきたことを総動員してやっていく」終盤と同じ意識で試合はできました。
――では(取材時点で参加前だった)宮崎フェニックスリーグについてはどういう意識で取り組もうと思っていますか?
谷田:正直、新居浜市営球場で負けるまではチャンピオンシップに出て、日本独立リーググランドチャンピオンシップに進むことしか考えていなかったんで。フェニックスリーグは頭にはなかったんです。
でもフェニックスリーグも若い選手が中心になることは変わらないので、そこでどんな自分が出せるかを自分でも楽しみにしています。
「人間・谷田 成吾」が目指す「プロ野球選手像」
キャッチボールをする谷田成吾
――さきほど自身も話されたように今年が最後のドラフトと決意されている谷田選手。気付けば慶應義塾高3年時に選ばれた2011年の第9回AAAアジア野球選手権日本代表のチームメイトの中にもプロ野球を去った選手がいる現実もあります。その中での四国アイランドリーグplusでの生活はどうでしたか?
谷田:僕は公立中から少しだけ成績がよくて進めた慶應義塾高からはじまり、大学・社会人・独立リーグといろいろな経験をさせてもらいました。10月25日までは今までの経験を総動員してやっていくことは変わりません。NPBに入れたら、その経験をもっと出していきたい。
技術的にうまい選手はいっぱいいると思いますし、それも大事ですし、自分ももっと技術を上げていきたいと思っていますが、僕はそれだけでない部分。総合的にチームに貢献できる部分があると思っています。
徳島では生活上も含めて初体験の部分が多かったので人間としての能力も上がりましたし、いろいろな選手たちや、決めたら意思を貫いている(石井)貴さんの姿を見て「どんな気持ちで野球をしているか」を知ることもできた。モノの見方、考え方を広げることもできました。
――では、あえて聞きます。これから先、「人間・谷田 成吾」は何を目指すべきだと思いますか?
谷田:「最後までNPB目指し、全力を尽くして結果を出したい」。さきほど「ジレンマ」という言葉で表現して頂きましたが、「チームの為に」との狭間でこのジレンマはずっと抱えてきたことです。この想いは抑えきれない。でも僕はその半面「チームの為に」を打ち消せない人間でもあるんです。
このジレンマを抱えながらがんばってきたのも自分ですし、これはNPBに入ったら強みになりうる部分だと思うので、最後まであがいてみたいと思います。
確かに今振り返ると慶應義塾高の時が、客観的に見れば一番プロに近い位置にあったと思います。でも、自分の中で思っている「プロ野球選手」というものには到達していなかった。人間として何もわからずプロ野球選手になっても成功したかもしれないですが、人間としてはどうか。だから高卒でプロに行かなかったことは一切後悔はないです。
野球部以外の友人を作りつつ社会を知れた点も含めて、慶應義塾大に進めたことはよかったですし、野球がなくても回っている諸外国もある中で、皆さんの生活に彩りを与えていくのが「野球が果たす役割」。それを実現するのが「プロ野球」・「プロ野球選手」という考え方を確立することもできました。
だから自分は最後まで粘れましたし、最後までやりきりたいんです
最後まで熱い言葉を残してくれた谷田成吾
――そこで、もう1つ聴きましょう。谷田選手は「独立リーグ」の存在をどのように思いますか?
谷田:素晴らしい場所だと思います。野球をする機会が少なくなっているし、野球をする子どもたちも減ってしまっている現状がある中で、新しい場所ができ、野球を続ける場があることは大事なこと。そのために大変でも愛を持って経営している方々、かかわっている皆さん、スポンサーの皆さんを野球界はもっと大事にすべきですし、選手もお金を頂いている以上、1人1人が責任を持って必死になってほしい。
僕もアイディアがあったら、独立リーグに貢献できる方法を考えたいし、もっといい場所にしたいと思っています。僕が目指している「プロ野球選手」はそういった意味も含まれていますし、それができる野球選手でありたいし、そのためにもNPBに行きたいんです。
――では、最後に意気込みを力強くお願いします
谷田:最後まで一瞬一瞬、全力を尽くします。よろしくお願いします!
前期の参加となった宮崎フェニックスリーグ8試合を29打数9安打2本塁打4打点・打率.310の好成績で終えた谷田。3度目の舞台、そして最後の舞台となる「2018年 プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」へ。やれることをやり尽くした男は、どのような結果も受け入れる覚悟を持ち、前を向いて、2018年10月25日の「その瞬間」を静かに待つ。
文=寺下 友徳
注目記事
・プロ野球2018ドラフト特設サイト