“本物”の挑戦が出来る選手・館山
“本物”の挑戦が出来る選手・館山2012年06月30日
4月18日阪神甲子園球場、投手にとって繊細な右手指先にまでメスを入れる大手術を行った館山昌平が復活の1勝目を挙げた。
館山は不思議な投手である。目の覚めるようなストレートがあるわけではない。伝家の宝刀と言うほどのウイニングショットがあるわけでもない。しかし、館山が投げるとチームは勝つのだ。
『風が吹いたり、雨が降ったり、だから僕は外の球場が好きなんです。』という館山のコメントに出会った。多くの投手は雨や風を嫌う。なるべく自分が良い状態で投げられる条件を好む。当然かもしれない。
館山(東京ヤクルトスワローズ)
館山は違った。彼は“本物”の挑戦が出来る選手だった。人は結果が解りやすく、手に入りそうなものには簡単に行動できる。例えばテレビを見るにも時間という投資が必要だが、それなりに簡単に楽しめそうなのですぐ行動に移る。
しかしながら、それをやっても結果が出るかどうかわからない。状況もコクコクと変わってしまい、対処するのに多大な労力が必要と思われるものにはなかなか立ち向かえない。
本物の挑戦が出来る選手は、その結果が出るか出ないかわからないことに先行投資で自分の意欲を向け、時間をかけられるのである。これは、生まれつきではない。心のトレーニングによって得られるものである。
[page_break:天候などの悪条件は挑戦したい課題]天候などの悪条件は挑戦したい課題
館山は『結果のみえない課題に意欲、時間、労力をかけられる』選手だ
館山を見ていると試合中の天候などの悪条件も逆境になっていない。むしろ挑戦したい課題なのである。ズバリ館山の強さはここである。『結果のみえない課題に意欲、時間、労力をかけられる』選手なのだ。これはこつこつと積み上げてきた心の習慣だ。
その強さを支えているのは何だろうか。口で言うほど結果の見えないことに投資するのはやさしいことではない。
館山の挑戦するエネルギーはどこから出てきているのか。ヒントはこのコメントにあった。
『僕自身としては、登板した試合で負けないことです。僕ではなく、チームが。プロ野球選手として目指すのは、リーグ優勝、日本一です。』
館山のエネルギーのもとはチームへの想い、マイチーム感覚である。個人の成績だけを考えるだけでは想いの強さは個人レベルだ。館山は想いの源泉がチームというもう一段上のレベルさえも自分と同じ“マイ”チームと感じられる心のセンスがあるのだ。そしてセンスはトレーニングによって磨かれる。
右腕の手術の選択時には悩み、その後のトレーニング中には不安に陥ったこともあったであろう。人は逆境と思うかもしれないような先の結果がうまくいくかまったくわからない状況で、疑いなく新たな自分を目指して打ちこめる才能、館山は本物の挑戦が出来る選手である。館山にとってはすべてが『新しい自分の投球スタイルを探す』挑戦であった。
(文・布施努)