Interview

森山 恵佑選手(星稜-専修大)「理想の打撃実現は、無駄な力を抜くことから」・後編

2016.11.02

 こうして大学1年秋が終わって野手に転向した森山恵佑選手。後編では大学球界を代表するスラッガーになるまでの過程を紹介していきます。

しっかり振れ、中途半端なスイングはするな

森山 恵佑選手(星稜-専修大)「理想の打撃実現は、無駄な力を抜くことから」・後編 | 高校野球ドットコム

森山 恵佑選手(専修大学)

 森山の打者転向とほぼ時を同じにして、専修大の新しい指揮官になったのが、齋藤 正直監督だった(2014年2月就任)。秋田高出身の齋藤監督は専修大時代、1年春から四番を務め、ベストナインを2度受賞。左の強打者として、ドラフト前は10球団から打診を受けるも、社会人・川崎製鉄千葉(現JFE東日本)へ。ここでも活躍し、現役12年間で都市対抗には9度出場している。94年11月からは監督になり、在任4年間で都市対抗準優勝1回、4強2回。日本選手権での4強が1度ある。

「齋藤監督は選手としても指導者としても経験豊富で、打撃に関してもいろいろな知識を持っています。そういう方と、打者に転向したタイミングで出会えたのは大きかったですね。それこそ打撃のイロハから教えてもらいました。齋藤監督のおかげで、調子が悪い時の対処の方法など、どんどん僕の引き出しが増えてもいきました。とはいえ、齋藤監督の指導は一方通行ではないんです。

『言われたことだけをやるな。理解してからやれ。自分で考えてみて違うと思ったら、自分に合っているところだけを取り入れろ』と。齋藤監督からは『上を目指したいなら、ちょっと打ったくらいで満足するな』ということや、『小さくなるな。しっかり振れ。中途半端なスイングはするな』ということもよく言われました。これは他の選手に対してもそうですね。

『打の専修』とも言われますが、それは“齋藤監督の指導”という裏付けがあってのものだと思います。試合ではノビノビと打たせてくれましたね。3年生になって以降は、サインは出ていません。東都は勝てないと入れ替え戦が待っていることもあり、どの学校も細かい野球をしてくるんですが、チーム打撃を求められることもありませんでした。2年生の時に送りバントを3回しただけですね。もし齋藤監督でなければ、僕はドラフト指名されていたかどうか…」

力みがスイングの弊害になっていたと気付く

 野手に転向した森山は2年春より6番ライトでリーグ戦に出場し、そのシーズン、二部ながらいきなり打率.297をマークする。するとその秋は、リーグ2位の打率(.341)を残し、二部優勝に貢献。専修大は入れ替え戦にも勝ち、4季ぶりの一部復帰を決めた。

「木製バットにはわりとスムーズに、はじめから対応できました。でも、とらえたと思ったら、スライスがかかって失速したりと、なかなか飛距離が出ませんで…きれいなスピンがかかった打球を打つのには時間がかかりましたね。ですから、たまに打球がいった時は、その時の感覚を忘れないよう心がけました。ノートにもつけていましたね」

[page_break:本数よりも価値ある1本が打てたことに満足]

 3年春は三番打者として、一部昇格即優勝を経験する。専修大にとって実に52季ぶりとなるリーグ制覇だった。森山がリーグ戦初アーチをかけたのはその秋。このシーズン、2本の本塁打に、二塁打も5本と、いよいよ持ち味の長打力を発揮する。

「高校まで金属で打っていたのもあり、長打を打つには強いスイングが必要だと思い込んでいたんです。金属ならそれでも飛ぶのでしょうが、木製はそうはいきません。力みが、木製でのスイングの弊害になっていると気が付いたんです。大事なのはいかに無駄な力を抜くか。そうした中で自然にトップに入り、バットを自分が理想とする角度で入れる。今もこのことに注力するようにしています」

本数よりも価値ある1本が打てたことに満足

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森山 恵佑選手(専修大学)

 星稜高時代、松井 秀喜氏のために設置された(右翼ポールから左中間にかけての高さ10m)「松井ネット」を越し、専修大でもグラウンドの右中間後方に設置された夜間照明塔のライト(写真28参照)にぶつけたという森山選手。天性の長距離砲の覚醒を印象づけたのが、今春の日本大2回戦で放った「推定135m弾」だ。打球は[stadium]神宮球場[/stadium]のバックスクリーンを超えた。

「あの打席は投手が左だったので、センターからレフト方向に打つ意識がありました。実は今年の春のキャンプでは、反対方向の飛距離を出すことに取り組んでいたんです。自分でも驚くほど飛んだのは、その成果でしょう。やってきたことが結果につながって嬉しかったですね。僕の中では一番印象に残るホームランになりました。4本という(一部リーグ通算の)本塁打数には、もっと打てたのでは、という思いがありますが、価値がある1本を打てたことには満足しています」

「最後の秋」は森山にとって苦しいシーズンだったという。ネット裏に陣取るプロのスカウトの視線を感じる中、二塁打は4本記録するも、“アピール弾”は打てずじまい。チームも負けが混み、主将としての責任も強く感じていた。こうして迎えたドラフト当日、森山は前夜「その日は中央大との2回戦もあったのに、2時間しか眠れませんでした」と明かす。

「僕は指名されないと思っていたんです。この秋のリーグ戦は、スカウトの方の評価を気に過ぎていたのか、自分のバッティングができなかったですし…僕の場合、ちょんと当ててレフト前に落としたところでプラス点には働かない。完璧に芯をとらえて外野の頭を越さないと、という思いばかりが先行していたからだと思います。おまけに、春もそうでしたが、秋もなかなか勝てなかった。(東都リーグの主将番号である)背番号『1』が、あらためて重く感じましたね。

 そんなシーズンだったので、ドラフトで自分の名前が呼ばれた時は、ただただ嬉しかったです。プロは自分が目指してきたところなので。と同時に、これから一番辛い野球生活が始まる、とも覚悟しました。強いチーム、ということは、それだけ競争も激しいということですからね。僕は反対方向に長打が打てるのが、自分のセールスポイントだと思っています。左打者ならたいがい流し打ちは、つまり、左方向に切れていく打球を打つことはできますが、タテにスピンがかかった、伸びていく打球を打てる左バッターはそうはいないので。プロに入ってもこれを最大の強みにしていきたいと思います。
 そう語ってくれた森山の次のステージでの活躍を楽しみにしたい。

(執筆・写真/上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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