Column

大阪偕星学園高等学校(大阪)

2015.11.25

 今夏、春夏通じて甲子園初出場にして白星を挙げた大阪偕星学園。彼らの試合には、学んでおきたい「戦い方」があった。

聖地で掲げたチーム目標は全国制覇!

勝利に笑顔の選手たち(大阪偕星学園高等学校)

 9月下旬、大阪府富田林市に位置する大阪偕星学園野球部のグラウンドを訪れると、4名の3年生がバックネット裏で出迎えてくれた。
「この夏の甲子園での激闘を振り返ってもらうのが今日の取材テーマです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」

 この日、放課後のグラウンドに足を運んでくれたのは、田端 拓海光田 悠哉西岡 大和姫野 優也。創部初の甲子園出場の原動力となった前チームの主力選手たちだ。
大阪大会決勝を終えてから、甲子園大会の抽選日まで中2日しかなかったので、かなりバテた状態で甲子園大会に突入してしまいました…」

 そう振り返ったのは大阪大会で5試合、39回1/3を投げ抜いたエースの光田だ。大阪大会決勝戦が行われたのは全国で最も遅い7月31日。甲子園行きの切符をつかむ過程で蓄積した疲労は甲子園大会の開幕日を迎えても色濃く残っていた。光田は続けた。
「ずっと夢見ていた甲子園で投げられるわけですから。疲れがどうこうなんて言ってられない。とにかく目一杯、甲子園での野球を楽しもうと」

 前チームで主将を務めた正捕手・田端が光田の話を引き取る。
「光田をはじめ、チーム全体に疲れはありましたけど、とにかく思いっきり全力でやるしかない。チームで掲げた目標は全国制覇です。出場するからには優勝を狙っていくしかないという思いで大会に臨みました」

反省点が残った甲子園初勝利

 大会三日目の8月8日に行われた比叡山との一回戦は、9回表が終了した時点で大阪偕星学園が3対2でリード。9回裏、二死二塁から左前適時打で同点に追いつかれるも、延長10回表に6連打で4点を奪い、悲願の甲子園初勝利を記録した。光田は毎回となる14安打を浴びながらの3失点完投。蓄積疲労もあり、本調子とは程遠かったが、エースと呼ぶにふさわしい、見事な粘投だった。

 8回裏に迎えた一死一、三塁のピンチで二遊間に飛んだ鋭い打球を併殺打に変えたセカンド・西岡の好守も見逃せない。
「昨年の秋の大会で同じコースに飛んだゴロを僕がエラーして負けてしまったんです。以来、あそこのコースの打球は数えきれないくらい練習してきました。甲子園という最高の舞台で練習の成果が発揮できて、ものすごく嬉しかったです」と語った西岡。

 しかし、指揮を執る山本 晳監督にとっては大いに不満が残る試合だったという。
「相手の先発投手が緩い変化球を多投するタイプだったので、その変化球を狙って逆方向に打ち返していこう、というのが比叡山戦に臨む際の打線の基本方針でした。変化球を狙ってまっすぐがきても外角なら対応できる。仮に内角に速いボールがきて、手が出なかった場合は仕方ない、ということにしようと。特に1番を打つ姫野には『ヒットになる、ならないは別にして、緩い変化球を逆方向へ打つんだという強い姿勢をトップバッターのおまえが見せるんだぞ!』と伝えました。

 ところが姫野は1打席目から三振、サードゴロ、ショートゴロがふたつ。逆方向に打とうという姿勢が全く見えないまま、引っ掛けたような凡打をチャンスで幾度も繰り返した。試合が延長までもつれてしまったのは、はっきり言って姫野のフォア・ザ・チームとは程遠い、打撃内容が主要因。試合後のミーティングで大いに叱りました。いいところを見せたいという気持ちから、力も入るでしょうし、緊張するのもわかる。高校生ですからしょうがないといえばしょうがないんですけど…」(山本監督)

甲子園初勝利に浮かれるような雰囲気はまったくなかったです」と口を揃えた4人。山本監督のコメントで名が挙がった核弾頭・姫野が振り返る。
「ものすごく叱られました。変化球を右に打たないといけないのは頭ではわかっていたんですけど、甲子園で一本はホームランを打ちたいという目標を持っていたこともあり、いざ打席に入ったら、色気が出てしまって、気持ちがレフトスタンドに向いてしまって…。大いに反省しました」

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[page_break:九州国際大付との2回戦は大会屈指の好ゲームに!]

九州国際大付との2回戦は大会屈指の好ゲームに!

山本 晳監督(大阪偕星学園高等学校)

 二回戦の相手はプロ注目のスラッガー、山本武白志を擁する九州国際大付に決まった。好左腕で知られる九州国際大付のエース・富山凌雅投手を攻略すべく、山本監督が選手たちに伝えた指示は次のようなものだった。
「富山くんのスライダーは低めのボールになる率が高いので、スライダーは捨てていい。ベルト付近の高さのまっすぐを積極的に狙っていこう」

 実際の先発は富山ではなく、右腕の野木海翔だったが、初回に岸 頼大の三遊間を破るタイムリー、福田丈志の三塁前へのセーフティーバントによる内野安打で2点を先取した。
「福田はずっと練習してきた三塁前へのセーフティーバントを大舞台で決めることが出来ました。初回の点の取り方は抜群でした」(山本監督)

 3回にも2点を加えた大阪偕星学園は、6回にエース・富山を引っ張り出すことに成功。6回表には5番・岸の中前タイムリー、7番・浜口尚弥の押し出し四球、8番・光田の2点タイムリーツーベースで4点を追加。6回までに8点をもぎとる猛攻を見せた。

 ところが光田が九州国際大付の強力打線を抑えきれない。岩崎魁人と山本に2本の3ランを浴び、6回までに8失点を喫してしまう。取られた点数の分だけ取り返す、先の読めない試合展開。スタンドを埋めた大観衆のボルテージは回を追うごとに上がっていった。
「5回に4点差をつけられたときも、『むこうが4点取ったんだからこっちだって絶対に取り返せる!』としか思えなかった。そうしたら本当に6回に4点が入り、同点になった。ベンチはものすごく燃えていました。負ける気は全くしなかったです」(西岡)

7回に飛び出した無欲の勝ち越しソロ

 8対8の同点で迎えた7回表の大阪偕星学園の攻撃。一死走者なしの場面でバッターボックスに入ったのは1番・姫野だった。
「塁に出ることだけを考えて打席に入りました。カウントを追い込まれてしまったので、バットを指三本分くらい短く持ち、ノーステップでコンパクトに振っていこうと。とにかく三振だけはしたくなかった」

 インコースに来た変化球に食らいつくと、打球は高々とレフトに上がった。スタンド最前列に飛び込む勝ち越しソロ。姫野は「まさか」と呟きながらダイヤモンドを一周した。
「常々、監督さんから『チームのためにという意識でプレーをすれば必ずいい結果がついてくる』と言われてきたのですが、本当にその通りだなと…」

 目標にしていた甲子園でのホームランは、一発への意識を頭の中から完全に消し去った中で生まれた。山本監督は言う。
「あの打席はバットを短く持ち、塁に出る事だけを考えているのがベンチから見ていても伝わってきました。その結果、前の肩が開かず、いい打球がレフトに飛びました。今まで長年、指導者をやってきて、つくづく思います。己のことばかり考えてる選手にいい結果など訪れない。フォア・ザ・チームに徹する選手だけにいい結果は舞い降りるんだと」

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[page_break:最高の舞台で得た素晴らしき経験]

最高の舞台で得た素晴らしき経験

 しかし、7回裏、九州国際大付は二死走者なしから、4番・山本がこの日二本目となる本塁打をセンターに叩き込み、たちまち試合を振り出しに戻す。
「山本くんはインコースに弱いというデータの下、果敢にストレートで内を攻めたんですが、少し甘く入ってしまった。光田の球威が落ちていたこともあり、まっすぐは見せ球にし、勝負球にチェンジアップを選択していればあの本塁打はなかったかもしれません…」(田端)

 8回表、一死一、二塁の好機を迎えた大阪偕星学園は7番・浜口の時にダブルスチールを仕掛ける。二塁走者・野口央稀のスタートは完璧に映ったが、浜口が放った打球はライトライナー。飛び出した走者が戻れず併殺となり、勝ち越しのチャンスは一瞬にして潰えてしまった。山本監督がこの場面を振り返る。
「野口のスタートは完璧で間違いなく三塁はセーフのタイミングだった。セーフのタイミングならばバッターは見送るのが決まり事ではあるけれど、結果的に打ってしまい、いい当たりだったが、正面をついてしまった。ダブルスチールが成功していればスクイズの選択肢も生まれただけに、非常に悔やまれるイニングになってしまいました」

 9回裏、大阪偕星学園は失策とバッテリーエラーが重なり、一死三塁のピンチを招いてしまう。2番・山口 耀平に対し、フルカウントから投じた光田の120球目は「歩かせてもいい。甘く入らないように」という意図の下、外角ギリギリに構えた田端のミットに吸い込まれることなく、真ん中付近へ入った。左中間へのサヨナラヒット。大阪偕星学園の2015年夏が終わりを告げた瞬間だった。

 山本監督は「あそこは力が入る場面。逆球になってしまったのは結果であって、これはもう仕方がない。光田はよく投げてくれました」とエースをねぎらった後、続けた。
「超満員の[stadium]甲子園[/stadium]という最高の舞台で選手たちは素晴らしい経験が出来たと思います。さすが甲子園だなと。素晴らしい場所でした」

高校球児へのメッセージ


左から田端 拓海選手、光田 悠哉選手、姫野 優也選手、西岡 大和選手(大阪偕星学園高等学校)

 取材の終わり際、3年生4名が「高校球児へのメッセージ」を語ってくれたので最後に紹介する。

西岡 大和
野球とはチームスポーツです。チーム一丸となり、気持ちを合わせれば、無理だと思いかけた夢にだって手が届くということを高校野球を通じ、実感しました。やる前から絶対に諦めないこと。貪欲に挑戦し続ける高校野球生活を送ってください。

光田 悠哉
振り返れば厳しい練習の日々でしたが、その積み重ねが大きな自信を生んでくれました。努力はやはり報われる。高校野球を通じ、僕はそう確信しました。

田端 拓海
感謝の気持ちを持ち、人一倍努力する。そうすれば望む結果は自ずとついてくるということを高校野球を通じ、学びました。高校時代にやり残したことはない、と自分自身に言い切れるくらいに一日一日を目一杯頑張ってほしいと思います。

姫野 優也
僕は高校時代に幾度も野球をやめようとした選手でした。でも、やめようと思うたびにチームメートをはじめとするいろんな方が「続けよう」、「一緒にやろう」と言ってくれ、なんとか続けることが出来ました。今、高校野球生活を振り返ると、「やめなくてよかった」という思いとともに「最初からもっときちんと練習すればよかった」という思いも湧き上がります。高校野球は一生に一度しか体験できない限られた時間。悔いが残らぬよう、目一杯やりきってほしいと思います。

 北海道日本ハムに指名された姫野を含め、メッセージをいただいた4人は卒業後も野球を続ける。可能性に満ち溢れた彼らの野球人生に心からのエールを送りたい。

(取材・文=服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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