Interview

大阪桐蔭を9回二死まで苦しめた寝屋川・藤原涼太の変幻自在な投球術

2018.05.12

 

 あともう少しでビッグニュースとなりそうだった。選抜優勝の大阪桐蔭が府立高・寝屋川に9回二死まで3対4で負けていたのだ。結果は逆転サヨナラで準決勝進出を決めたが、その大阪桐蔭を苦しめたのが寝屋川のエース・藤原涼太であった。

快投をもたらした動くストレート・七色の変化球・メンタルコントロール

大阪桐蔭を9回二死まで苦しめた寝屋川・藤原涼太の変幻自在な投球術 | 高校野球ドットコム
先発・藤原涼太(寝屋川)

 大阪桐蔭を苦しめた藤原はいわゆる「七色の変化球」を操る右投手だった。

 この日の直球の最速は130キロで、常時120キロ~126キロと決して速くない。だが、キレイなストレートはほとんどない。手元で微妙に動くストレートがほとんだ。藤原は「捉えたように見えて飛ばない。少しだけ芯を外すことを意識してこのストレートを投げています」と狙いを語る。実際に試合を振り返ると、捉えたように見えてもフェンス前で失速するフライが多く、フライアウトは26個のアウトのうち計15個と大阪桐蔭打線を手玉にとっていた。

 このストレートを投げるようになったのは3年生になってからだ。
「2年生の時はとにかく強いストレートを投げようとする意識ばかりが強かったんですけど、やっぱり自分はストレートは速くないですし、強豪校にも通用しないということが分かって、動かすことを意識しはじめました」
 とはいえ、動くストレートは簡単に投げられるものではない。藤原はリリース時の手首の角度を少し変えることを意識した。
「これは兄(風太さん・京都大投手)とのキャッチボールで教わったのですが、腕の振りは変えず、リリース時の角度を5度ずらすだけでも、変化が違ってくることが分かりまして、これは使えるなと思いました」

 冬の期間は、変化球の種類を増やすことをテーマに、変化球を徹底的に磨き、投げられる球種は110キロ後半の縦横のスライダー、90キロ台のカーブ、100キロ台のチェンジアップとシンカー、110キロ台のフォークと実に多彩になった。いずれも低めに決まるので、フルスイングができず打ちにくい。
 藤原は「去年と比べるとだいぶ速球の割合が減ったと思います。ストレートは動かしていますし、キレイなストレートはほとんど投げていないと思います」と見事、変化球投手に転身した。

 そして自分の実力を出すために最も心掛けているのはメンタルコントロールだ。この試合の藤原は無表情。2回裏、大阪桐蔭の4番・根尾昂からシンカーで空振り三振を奪った。普通ならばガッツポーズを見せそうなものだが、藤原は表情を変えることはなかった。
 
「この試合は三振を取っても、打たれても、特に感情を出すことなく投げることを意識しました。今までは気持ちを全面に出していて、空回りをしてしまうことがあったので、気持ちを出さずに投げようと意識した結果が好投につながったと思います」
 藤原は最後まで集中しようと考えていた。しかし唯一、集中力が切れてしまったのが、エラーで同点を許した場面だ。
「あの時は自分でも集中力が切れているのが分かり、根尾選手に打たれたのもフォークが完全に浮いてしまったボールで、打たれる直感がしました。そこで集中を切らしてしまったのは本当に悔しかったです」とサヨナラの場面を悔いた。

 だが、大阪桐蔭戦の投球は、大きな自信になった。
「感情を表に出すことなく、自分の投球に集中できれば、私立の強豪校相手にも通用することが分かりました。また大阪桐蔭の打者はアウトになった後、苛立っている仕草が見えました。
自分はそういうピッチングをしたかったので、それができたのはうれしかったです。この夏も今日のようなピッチングをしていきたいです」と夏へ向けての意気込みを述べた。
 自分の現状の実力を把握し、その課題克服へ向けてしっかりと練習に取り組んだことが春の成長につながった。たとえ突出した球速がなくても、創意工夫で抑えることができると教えてくれた投手であった。

 寝屋川はこの夏、北大阪で大会を迎え、再び大阪桐蔭と対戦する可能性がある。それが実現したとき、この試合以上のピッチングを見せてくれることを心待ちにしたい。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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