中村 奨成(広陵ー広島東洋カープ) 甲子園新ホームランキングが語る長打論 「トップを作り、軸で振り、フォロー大きく」
10月26日(木)の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」において2球団競合の末、地元・広島東洋カープから1位指名を受けた中村 奨成(広島広陵・捕手)。球界トップクラスの強く、正確な二塁送球に加え高校通算本塁打も45本。夏の甲子園では大会新記録となる6本塁打を記録し、高校球界を代表するスラッガーに名乗りを上げたことは記憶に新しい。
では、中村選手はいかにして「ホームランを打てる」方法を身に付けたのか?今回はなんと、中村選手自身がはじめて甲子園6本塁打の振り返り、バッティングのポイントを解説!これから冬の練習に向かう球児の皆さんもぜひ参考にしてほしい。
夏の甲子園6本塁打につながった「トップの位置」
甲子園の6本塁打について振り返る広陵・中村 奨成捕手(広島東洋カープ1位指名)
夏の甲子園で大会新記録となる6本塁打を放つなど、高校通算45本塁打までホームランを積み上げた中村 奨成捕手。ただ実は、広島広陵高校入学時は「ここまでホームランが打てるとは思わなかった」とまずは話す。実際、高校第1号が飛び出したのは1年秋の練習試合であった。
ただ、「バッティングは好きだったし、前向きに取り組んでいた」ことで徐々に飛距離も伸びていった。その中で最初に心掛けたのは廿日市市立大野東中時代に所属した軟式野球チーム・大野シニア時代と同じく「前を大きく、フォロースルーを大きく」しながら「強く打球を叩いていく」こと。続いて手を付けたのは「ポイントとトップの位置」である。本人曰く「(廿日市市立大野東小時代に軟式野球チーム・大野友星で)野球を始めたときから実はグリップから上で変わっていないんですが、甲子園に来てからは巨人の坂本 勇人さんに似ているとよく言われるし、たまに映像で自分でみたりする」高いトップからのフルスイングも、ここから完成品まで創り上げた。
「トップの位置が決まっていれば、タイミングを外されてもバットに当てる確率が高くなる。だから、トップを作ることは常に心掛けています」と話す中村捕手。事実、甲子園の本塁打量産も「一番バットの出やすい角度から肘をもっていきやすい形でスイングができていました」と振り返ってくれた。
では、「まとめて振り返るのは初めてです」という中村捕手自身から甲子園6本塁打を1本ずつ分析してもらうことにしよう。
中村 奨成が自ら解説する「甲子園の6本塁打」
中村 奨成(広陵)
1.1回戦・中京大中京(愛知)戦 6回表一死 0対2
フルカウントから外角高め142キロストレートを右中間ソロ
中村:トップはしっかりしていますね。甲子園練習でも同じような打球で柵越えが打てていたので、打った瞬間に行った感覚はありました。脚がしっかり付いてから割れもしっかりできているので、バットも遅れて出せました。
2.1回戦・中京大中京(愛知)戦 8回表二死一塁 8対2
1ボールから外角高め138キロストレートを右翼ポール際2ラン
中村:自分は甲子園に来るまで逆方向のホームランはなかったんですよ。だから、この当たりは「ファウルで切れるかな」と思っていました。角度はよかったんですが、タイミングは合っていなかったので、脚が一回止まってもう1回迎えに行く感覚でした。1回止まった時に身体が前に行かなかったことがよかったんだと思います。
3.2回戦・秀岳館(熊本)戦 9回表一死二・三塁 3対1
初球の134キロ真ん中ツーシームをライナーで左中間3ラン
中村:ゆったり間合いを取って「じわっと」割れができました。ちょっと詰まり気味ではあったんですが、しっかりバットを内側から出せた。自分のゾーンに迎え入れることができたホームランです。スイングの形としても6本の中で一番奇麗だったです。
4.3回戦・聖光学院(福島)戦 9回表無死一塁 4対4
2ストライクからウエスト気味の138キロストレートを左翼スタンド中段へ運ぶ決勝2ラン
中村:このホームランは無心で打ちました。打った瞬間は行ったと思いましたけど、どうやって打ったかは記憶がないです。今見たらボール球ですけどね。
5.準決勝・天理(奈良)戦 1回表一死二塁 0対0
初球の134キロ外角シュートをバックスクリーンに先制2ラン
中村:「カチカチバット」を使ってインサイドからバットを出すことを意識してきた成果が出たと思います。バットが遅れても内側から出るので長打になります。秀岳館戦のホームランと同じで、割れができたことがホームランにつながりました。
6.準決勝・天理(奈良)戦 5回表無死 3対4
2ボールからの134キロ真ん中外よりシュートをバックスクリーン横に同点ソロ
中村:脚を上げてから間を作ることができました。広島広陵で学んだ「カチカチバット」のお陰で脚を上げてからボールを迎え入れる時間を作ることができる。「見る時間」が長くなるんです。
ここでしきりにキーワードとして出てきたのが中村捕手が話す3ポイント「トップ、タイミング、フォロー」の3要素の1つ「タイミング」を取って軸で振るために広島広陵の練習において用いている素振り用「カチカチバット」だ。「弓を引くようにして、トップを作り、突っ込みそうになることを我慢して、インサイドアウトで振るんです」と語る中村捕手。さらに!今回は実際にカチカチバットを使って解説をしてくれた。
[page_break:大事なのは「カチカチバット」で得た感覚と「無」の境地]大事なのは「カチカチバット」で得た感覚と「無」の境地
このカチカチバットはインサイドアウトができれば音は1回、できなければ音は2回以上。はっきりと自分のスイング軌道が把握できる。しかもこれが簡単なように見えて難しい。「自主トレーニングで母校の広島広陵に帰ってくるプロ野球選手が使っても、うまくいかない選手がいるんですよ」自らもカチカチバットを上手に使いこなす中井 哲之監督が教えてくれた。
では、このバットを上手に使う=インサイドアウトスイングをするポイントはどこにあるのだろうか?「体幹を鍛えないと身体がブレてしまうし、身体が粘れなくなる」中村捕手が言うように体幹・軸を鍛えることが大事になる。
よって、広島広陵は筋力トレーニングを行わない代わりに体幹トレーニングは多岐にわたる。ラダーを使った動きの敏捷性やタイヤ上でのジャンプ、ハードルくぐりなど……。取材日も3年生含め多くの部員が真摯に体幹トレーニングへと向き合っていた。
こういった広島広陵での日々も例年11月23日に開催される広島商との定期戦で最後となり、節目の試合で高校通算45本塁打目を放った。
「WBSC U-18ワールドカップでは外国人投手のボールにすぐに対応しないといけないところでの力不足を感じましたが、詰まっているところから打っていける技術を得られたのはよかった」中村 奨成捕手、広島広陵での学習をさらに発展形させるべく地元・広島東洋カープの1位指名を背負い、新たな道へと進んでいく。
最後に中村選手に聞いた。「甲子園でホームランを打つ方法は?」
「甲子園は限られた選手がいく場所。僕も狙ったホームランは1本もないですし、ヒットの延長でした。ホームランを打とうと思うと打てないと思うし、無になることが大切だと思います」
心技体を整えた上で「無」になる。甲子園で一番ホームランを打った男は、その大切さを改めて身をもって教えてくれた。
(取材・寺下 友徳)
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