政府は2026年度から「私立高校の無償化における年収制限を撤廃する」方針を打ち出している。これまで所得制限が設けられていたが、原則、2026年以降には所得に関わらずすべての世帯で私立高校の授業料が無償になる可能性が高くなった。
東京都では、すでに2024年度から所得制限なしで、私立高校の授業料を無償化が行われている状況である。
そんな中で、部活動という点に目を向けると、私立校と公立校の違いは顕著になる。特待生制度などがある私立校と公立校との戦力格差は、ますます広がっていくということは、否定できない現実だ。それでも、工夫によって安定して20人前後の部員確保を実現させている公立校がある。都立杉並高校である。
小林研一郎監督に、どのような方法でこうした安定した部員を集められているのかを聞いてみた。
都立屈指の大所帯
杉並は今年4月で15人の新入生を迎えた。3学年で54人の選手と5人のマネージャーの計59人という部員で活動している。都立高としては大所帯である。チームを率いるのは小林研一郎監督と金子大樹助監督。ともに都立昭和高校の出身で、小林監督が6年先輩ということになる。小林監督は日大理工学部を出て数学科の教員、金子助監督は日体大出身の保健体育科教員である。小林監督は4校目、金子助監督は3校目で、共に2021年に杉並に異動してきた。
小林監督は赴任当初、グラウンドもある程度確保されている学校の環境を見て、「この環境ならば、部員が集まってしっかり練習できれば、それなりの結果は出せるのではないか」と感じたという。当時はコロナ禍ということもあって、それほど多くの部員がいなかった。
二人はまず、積極的に中学の指導者などにも挨拶に行って、認知してもらう努力をした。その結果、赴任して4年目の2024年には26人もの新入部員が入った。グラウンドでは、多くの部員が競い合い、元気に声を掛け合いながら、賑やかで活気あふれるムード。小林監督のイメージしたチームの雰囲気になってきたと言えよう。
恵まれた環境
都立高としてはかなり広いグラウンドがある杉並
杉並に入部希望生徒が集まりやすい理由の一つは、まずは最寄り駅から徒歩圏内でいけるほど立地がいいことだ。阿佐ヶ谷駅からは徒歩10分前後。丸の内線南阿佐ヶ谷駅からだと徒歩7~8分で学校に着く。自転車で通学している生徒も多い。また、学校が閑静な住宅街の一角にあり、周囲の環境もいい。
加えて、他部と共有とはいえグラウンドもある程度は確保できており、水曜日は専用でフルに使える。左翼は90m以上、右翼は少し狭いが80ⅿ以上ある。また、住宅街にありながら、グラウンドの設置位置が良いため、声を出しても周囲の住民からの苦情もほとんど来ない。よって土日には自校グラウンドで練習試合も十分にできる。こうした環境は都立校では非常に優れている。
学校自体も多くの生徒が進学を目指している普通科校である。とは言うものの、超進学校というわけではない。
「公立校としては、入試の壁というのがあります。特にガチガチの進学校だと、夏休みなどの練習会に参加していても、入試ではねられてしまい入学できないというケースもよくある。それでも、杉並は野球部で言えば、比較的希望してくれる生徒が確保できている」と監督は言う。