4月15日、愛媛県松山市の坊っちゃんスタジアムで開催されたヤクルトvs阪神の第3回戦。子どもたちにとって憧れの選手たちがプレーする中、最も気迫を全面に出していたのは阪神の背番号「69」。秋田高専から2018年に高知ファイティングドッグスへ入団すると、四国の地で3年間研鑽の日々を過ごし、2020年ドラフト8位で阪神タイガース入り。今年3月には四国アイランドリーグplus出身投手として、2015年・中日時代の又吉 克樹(西原~環太平洋大~香川オリーブガイナーズ)以来の侍ジャパントップチームにも選出された右腕・石井 大智である。
5対0、阪神リードで迎えた8回裏に2番手のマウンドに上がった石井は、先頭打者の8番・丸山 和郁(前橋育英~明治大)に7球オールストレートで空振り三振を奪うと、次打者の代打・武岡 龍世(八戸学院光星)にはこの日最速となった152キロストレートに高知FD時代から決め球だった高速シンカーも交え二直。1番・西川 遥輝(智弁和歌山)には阪神で磨いたナックルカーブから3球ストレートで押し込んで中飛。
状況的にはセーフティーリードにもかかわらず、鬼気迫る表情は全く崩れなかった。高知FD1年目の2018年5月31日にリリーフで登板し負け投手となった苦い記憶を振り払うような、ホーム側に走り込む躍動感たっぷりのフォーム。年月が経過しても、観客数が2018年の87人から300倍を超える26,943人となっても「彼」の本質は全く変わらなかった。同時に筆者にも当時の記憶が鮮明によみがえってきた……。
2020年はコロナ禍の影響で四国アイランドリーグplusは開幕が大幅に遅れ、その後も難しい調整を強いられる状況に。それでも前年、あと一歩のところで指名を逃した石井の存在感は際立っていた。1試合ごとにNPBに進むテーマを持ちながらも、勝利を最優先させるスタイルは一貫。事実、高知FDでの最終登板となった10月23日、徳島インディゴソックスとの優勝をかけた大一番ではバランスよく、脱力も交えて好投を演じたが、これも「ここまで6勝6敗でチームに貯金を作れていない。そこで昨日、相手の戦略やチームにとって一番役に立つ投法を考えた」結論によるものだった。
だからこそこの日の投球で確信した。きっと彼の成長する理由、投げる最大の目的は「高知のために」が「阪神タイガースのために」「日本のために」に書き変わっただけなのだ。と。
2020年10月26日。高知県越知町で待って待って待ちわびて……。ついに74名の支配下指名最後で聴いた「第8巡選択希望選手 阪神 いしい だいち 投手 高知ファイティングドッグス」の声。「支配下指名を受けた責任感を持って頑張りたい」と第一声を発した後「むっちゃ脚震えています。指名された瞬間、自分の名前を忘れていました」とはにかむ顔は今でも忘れられない。
現在も古巣・高知FDのスポンサーとして、バックネット裏にバナー広告を掲示するなど、普段から高知県・四国への愛情はひとかたならず
これからも感謝の想いを常に抱く漢は「1年目は目に留まらない選手だったけど、人間としても野球面でも成長できた3年間だった」四国アイランドリーグplusの地位向上の旗手として。そしてドラフト直後「僕やファンの願いも通じた。かも。僕ももう少し頑張ってバトンタッチだね。しかも高知ファイティングドッグスから」と、当時開設していたTwitterから次の世代を託された引退直前の言葉に対し「僕もピッチングスタイルが似ているので、そこを目指して頑張りたい」想い人。藤川 球児監督に報いるため、1球1球に全身全霊を込めていく。