パワーアップを目指すために
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
本格的なオフシーズンの時期が近づき、体力強化をメインとする練習を始めているところも多いと思います。「身体を大きくする」「パワーアップする」「スタミナをつける」と個人個人の選手が持つ課題によって、目標は違ってくると思いますが、共通していることは「ケガをしない身体づくり」であり「もっと野球がうまくなる」ために、野球選手にあったフィジカルトレーニングを行うということでしょう。
今回は特にパワーアップを課題とした考え方や実際の取り組みについてお話をしたいと思います。
そもそもパワーって何?
「パワーをつけたい」という選手は多いのですが、そもそもパワーって何のことでしょうか?パワーは「力」と「スピード」を掛け合わせたものです。力があってもスピードがなければ大きなパワーは発揮されませんし、逆にスピードがあっても力がなければこれもまた同じです。野球のパワーということであれば「筋力」と「スピード」の両方を鍛えることがパワーアップにつながります。
パワーアップというと、ウエイトトレーニングのように重い負荷を上げることを意識しがちですが、過度に重いものにチャレンジするとケガを誘発することにもなりかねません。選手それぞれのトレーニング経験や体格、学年などを考慮しながらトレーニングの期分け=計画を立て、シーズンインの時点から逆算して考えていくようにしましょう(参考コラム:第11回 シーズンに合わせた練習計画)。
パワーをより大きくする
ウエイトトレーニングはパワーアップの土台をつくる
パワーが「筋力」と「スピード」を掛け合わせたものであるならば、どう鍛えていけばいいでしょう。単純に考えると「筋力」はウエイトトレーニングやグランドで出来るフィジカルトレーニングを行い、身体全体の筋肉量を増やすことで発揮される力が大きくなります。
筋肉はトレーニングを行うといったん筋線維が微細損傷(細かく壊れること)を起こし、その回復過程をへてより強くて太い筋線維が出来上がる仕組みになっています。この仕組みを超回復といいますが、ここには適切な栄養(筋肉の材料となるタンパク質を始め、バランスのいい食事)と適切な睡眠(寝ている間に分泌される成長ホルモンは筋線維の修復に役立つ)が必要となります。
筋肉量を増やすことはトレーニングだけではなく、栄養、休養とのバランスも大切なのです。毎日同じ部位をトレーニングすると、超回復が間に合わずに筋疲労がたまってしまうので、48時間~72時間程度の回復時間を設け、週に2回~3回程度を目安に行うようにしましょう(参考コラム:第13回 トレーニングと休養・栄養のバランス)。
もう一方の「スピード」強化についてですが、こちらもスピードを強化するためには「筋力」が必要になってきます。自分の身体をより速く動かすための源となるのは「筋力」だからです。また一般的な筋力トレーニングと平行してスピードを重視したトレーニングを行うことも大切です。
スピードを意識するとき、身体は重い方がいいでしょうか?それとも軽い方がいいでしょうか? 身体を素早く動かすためには軽い方がいいのですが、そこに筋力が備わっていなければパワーアップに結びつきません。身体の体組成として、自分の身体をより速く動かすために筋肉量を増やし、力を発揮しないで「おもり」となってしまう体脂肪を減らすことがよりスピード強化につながるのです。
ただし体脂肪は持久力を発揮するエネルギー源としての役割がありますので、過度に減らすことは避けましょう。毎日の体重チェックで体脂肪率から脂肪量を計算し、筋肉量が増えることで体重が増加しても、体内の脂肪量が大きく変わらないことが理想的です。
野球で使われるパワー
下肢から上肢にパワーを伝達してボールを遠くにとばす
筋肉量を増やすことがパワーアップにつながるということは理解していただけたと思います。では具体的にどこの筋肉を鍛えればいいのでしょうか?
身体全体を使ってプレーするので「全部」といいたいところなのですが、優先順位を考える必要はあるでしょう。
まず大きな力を発揮する筋肉を鍛えることで筋肉量を増やすことが出来ます。下半身を中心としたスクワットやランジ、体幹を支えるデッドリフトなどのトレーニングは、非常にベーシックなものですが必ず行いたいエクササイズの一つです。
野球は地面に足がついた状態から力を発揮するスポーツです。
地面からの反力を有効に使いながら下肢の筋力でスピードを上肢に伝達し、スイング動作を行ったり、投球動作を行ったりします。伝達能力を高めるという点を考慮すればパワークリーンやパワースナッチなどのエクササイズも効果的です。ただし正しいフォームで行わないとケガにつながりますので、専門家などにフォームをチェックしてもらいながら行うことをオススメします。
体幹の重要性と腕のトレーニング
スイング動作、投球動作を繰り返し行い、そのフォームが崩れないようにするためには体幹を鍛えることも大切です。特に背筋は大きな筋肉群ですので、筋力発揮という点から見ても重要であると考えます。そして背筋と対になる腹筋群については、背筋とのバランスを考慮してケガをしないため、また同じ動作を何度繰り返しても崩れない体幹の強さを維持するためにやはり必要不可欠です。直接パワーアップにつながるものにはなりにくいですが、「野球がうまくなる」ためにも必ず行うようにしましょう。
余談ですが、人間の身体は背筋のほうが腹筋よりも強く、姿勢維持など日常的に使われています。腹筋は意識して使わないと鍛えにくいため、背筋よりも多めに行うように指導しています。
腕のトレーニングに関しては肘周りのケガを予防するためにある程度筋力をつけることは大切ですが、必要以上に筋肉をつけすぎることはさまざまな不具合を生じます。筋肉量が増えることで得られる筋力よりも筋肉の重さで腕そのものが重くなってしまい、投げる動作を繰り返すたびにより大きな筋力が必要となってしまうからです。
野球に必要なパワーを獲得するということは、ただ単にトレーニングするだけではなく、さまざまな野球の競技特性や個人の目標とするプレーなどを考慮しながら行うことが大切です。こうしたことを意識しながら、ぜひオフシーズンでのトレーニングに励んでくださいね。
【パワーアップを目指すために】
●パワーとは「力」×「スピード」、野球に必要な「筋力」と「スピード」を強化する
●「筋力」を増やすためにはトレーニングで筋肉量そのものを増やす
●「スピード」を増やすためには筋力向上とともにおもりとなる体脂肪をコントロールする
●筋肉量を増やすには大きな筋群である下半身のトレーニングを中心に
●広背筋など大きな筋群のある体幹も鍛える必要がある
●やみくもに取り組むのではなく、野球の競技特性を考慮して行うこと
(文=西村 典子)
次回コラム公開は11月30日を予定しております。