慢心なき九州王者・筑陽学園(福岡)が危機感を持って駆け抜けた秋
12月初旬、明治神宮大会で大きく躍進した筑陽学園を訪れた。秋季九州地区大会を制し、初出場となった明治神宮大会でも関東王者の桐蔭学園を大差で破るなど、充実の秋となった筑陽学園。
選抜に向けて意気揚々としたチームの雰囲気を予想していたが、チームの中に漂っていたのは強い危機感だった。今回は、そんな筑陽学園の現在にいたるまでの道のりを辿っていき、危機感の裏側に迫っていく。
「野球以外の部分」を見つめ直した9日間の合宿
打撃指導を行う江口祐司監督
新チームは敗戦からのスタートとなった。
チーム最初の公式戦となる福岡地区高等学校新人野球大会では、初戦の2回戦で福岡工大城東に4対6で惜敗。1勝も挙げることが出来なかった結果から、筑陽学園の江口祐司監督は野球の技術以外の所に原因があると感じ取った。
「敗れた後に、私と11人の選手とで合宿を行いました。私が車を運転しながら9日間、大学野球にお世話になったり、練習試合を組んだり、その中でチームにとって何が大切かとかそういうことを伝えました」
その中で、江口監督が選手達に特に強く伝えたことは、決して力があるチームが勝つ訳ではないということだ。と言うのも、新チームが発足してから「1点差で負ける試合」が多い現状があったからだ。
「1点差で負けるチームというのは、10点差で負けるチームよりも 問題が多いということだと選手達には話しました。
例えば10点差で負けるチームは、四球が多かったり守備が破綻したり、そういった明確な原因があるけど、1点差で負けるということは野球以外の部分が大きく左右するんじゃないかと。
そういった意味で、粘り強く野球をやらなきゃいけないということを言い続けました」
明治神宮大会での筑陽学園
また、合宿では大学野球の練習にも参加し、そこから得るものも非常に多くあった。主将を任される江原佑哉は、大学生との練習を次のように振り返る。
「アップから声の張りとか、練習に対する姿勢や一球に対する姿勢、真剣味が自分たちとは大きく違っていました。とにかく活気あり、責任感のある練習をしていたと思います」
こうした合宿の中で、メンバー全員が己と向き合い、そしてチームと向き合ったことにより、少しずつチームにまとまりが生まれ、 チームが一枚岩で戦うということを理解できるようになってきた。
秋季大会の破竹の快進撃も、すべてはここから始まっていったのだ。
神宮大会が終わっても今なお続く危機感との戦い
主将の江原佑哉(筑陽学園)
チームが一枚岩となったことで、九州王者まで駆け上がり、明治神宮大会でもベスト4に進出した筑陽学園。
1月25日に行われた選考委員でも無事に選抜甲子園大会に選出され、ここから[stadium]甲子園[/stadium]に向けて一気に勢いづいていきたいところであるが、筑陽学園に慢心は無い。むしろ、危機感はさらに増しているくらいだ。
江口監督は秋季大会を振り返り、次のように語る。
「課題として明確になったのは、全てにおいてもう一つタフにならないといけないということです。 札幌大谷戦は試合前から感じていましたが、かなり疲れてました。九州大会で一週間、神宮大会で一週間、慣れないホテル生活で神宮大会の最後の方はみんな体が疲れてました。スイングも鈍くなりますし、スローイングも暴投が多くなったり。これはひとえに、体力と気力の無さだと痛感しました」
また、主将の江原佑哉も浮かれた顔一つ見せない。チームの現状を改めて考察し、選抜甲子園に向けての危機感を口にする。
「守備面にしてもバッティング面にしても、もう一回りレベルアップしないと全国大会に出ているだけになってしまうと感じています。レベルが高いピッチャーがたくさんいると思うので、そういうピッチャーに力で負けないように練習していきたいです」
戦術的なところでは、江口監督がキーマンに挙げたのが2番を打つ福島悠介だ。
今年のチームを「バントをしても勝てないチーム」と表現する江口監督は、得点力を上げていく策として、当初は4番を打っていた福島を2番に据えたのだ。
「やっぱり2番バッターの攻め方は、4番バッターより楽ですから打つんですよ。その後ろを打つ(4番の)江原もとても勝負強いですから、福島が機能しないとダメですね」
筑陽学園を引っ張る西雄大(左)と西舘昂汰(右)
選抜甲子園まで残り2ヶ月弱。全国で勝つに相応しいチームとなるために、危機感を持って練習を続ける筑陽学園だが、最後に江口監督に選抜甲子園に向けて改めて意気込みを伺った。
「甲子園は意気込みよりもプレッシャーの方が強いですね。九州でチャンピオンにさせてもらったので、やっぱり変な試合はできません。
選抜に向けては全てにおいてレベルアップしないといけないと思いますし、選手にはプライドを持たせて試合に臨ませたいなと思います」
江口監督からも、主将の江原からも、充実感のある言葉は最後まで聞かれなかった。筑陽学園の選手たちから安堵の言葉が漏れるとすれば、恐らく選抜甲子園で頂点に立ったときのみだろう。
彼らの口から安堵の言葉が出るその瞬間を、甲子園球場で楽しみ待ちたいと思う。
(文・栗崎 祐太朗)