明星(東京)自分のために練習を『やる』チームが目指すはベスト4常連校
今年も東京都の勢力図は西高東低といっても過言ではない。春季大会ではベスト4を西東京勢が独占し、西東京の夏の大会はシード校が9校となっている。全国でも有数の激戦区であることは間違いないだろう。その西東京に属し、昨秋の都大会ベスト8の好成績を残したのが、今回の訪問先で府中市にある明星高校である。
昨秋は世田谷学園、そして岩倉に勝利しベスト8。今春はベスト4入りを果たした都立小山台と接戦を演じている。そんな明星というチームは一体どんなチームなのか。監督である石山敏之先生に話を伺った。
選手自ら練習を進める
ティーバッティングの様子
明星高校野球部のグラウンドは地区予選の時は試合会場となっているが、そのグラウンドは専用ではなく、校庭をサッカー部と兼用している。そのため、練習の時は始まってすぐに全体練習とはいかない。サッカー部が練習を終えるまでは使える範囲で練習を行い、サッカー部が上がってから全体練習をしている。
そんな環境で活動する明星高校で監督を務めるのが、今年で就任5年目を迎える石山敏之先生である。どんなことを大切にして選手に指導しているのか話を聞いた。
「監督にやらされている感じを出さずに、選手自ら考えて練習をやっています」。
その考えのもと、明星では選手が練習メニューを決めている。新チーム当初は監督が大枠のメニューを決め、細かな部分を選手の意見を聞くようにして決めていたが、現在は選手に任せているのだ。ここに「脱・やらされている練習」の肝があった。
「自分たちでメニューを考えて練習をさせれば、こっちがメニューを提示するよりはやらされている感覚はない」という理由で、明星では選手がメニューを決定している。
さらに驚きなのはその細かさだ。校庭が全面使える時間から逆算し、野手・ピッチャーがどの練習を何時までやるのか。さらにピッチャーがブルペンで投げる時間に、どう動けばキャッチャーが投球を受けることができるのか。また今であれば1年生をどのタイミングで練習のサポートに回すのか。そこまでの練習の動きはどうするのか。
この細かいプランニングを選手に任せるのが、明星野球部なのである。この方法になったのは就任2年目のある試合がきっかけだった。
「試合の時に、選手たちがまるで敵みたいな感じで監督の顔を見てプレーしていたんですよ。けど本当は相手チームが敵なので、選手が顔色を見ないようにやってもらいたい。(監督の)顔色を見ていてはチームが強くならない。とにかく自分たちのために野球をやってもらいたい」と感じた当時就任2年目の石山監督は、思い切って選手に練習を任せるようにした。
[page_breakバリエーション豊かな練習でバッティング強化を図る]バリエーション豊かな練習でバッティング強化を図る
次のメニューについて話をする選手たち
その出来事がきっかけで明星では選手主体でメニューを決めるようになった。この自主性により、監督自ら指示を出す前に選手間で指示を出せるようになり、次第に考える力がついてきていると今のチームの成長を実感している。
そんな明星のウリはバッティングだと石山監督は語る。今年は例年以上に打線が繋がると感じているが、秋の予選では状態が悪かったと話す。
「予選では相手のエラーで点数を奪って勝つことができましたが、それでは本大会は厳しいと思っていました。それで本大会前の練習試合の時に、選手に思いきって引っ張るバッティングをやるように指示を出しました。」
この頃はストレートやスライダー系統を逆方向に打つことをチームで徹底していたことで、当てるだけのバッティングになっていたのだ。それを打開するために引っ張るように指示を出すと、チームは見違えるように良くなった。
それをキッカケに勢いがついたチームは本大会に入ると、投打が上手く噛み合ったこともありベスト8まで進出することができた。
しかし春はそう上手くはいかなかった。初戦は郁文館に勝利するも、3回戦の都立小山台では好投手・戸谷直大の前に2対1で敗れた。
「ウチの打線とは相性がいいのかなと思っていましたが、伸びとコントールが良かった分打てなかったです」と振り返ったが、このレベルの投手から3、4点を取れなければ夏の大会を勝ち進めないと選手に話している。
そのために現在は素振りを多めにこなしている明星。だが素振りといっても、明星は一工夫をしている。実際にピッチャーがシャドーをやり、野手はタイミングを取って素振りをしている。
これでしっかりとタイミングを取れるようにしており、他にも連続100回の素振りにも取り組んでいる。
「連続して素振りすることで、リストやバットそのものを振る力をつけさせるようにさせています。けどこのメニューは、冬場なら惰性でも構わないので500回連続でした。」
500回連続素振りという衝撃の数字だが、驚きのバッティング練習はそれだけではないのだ。
[page_breakベスト4常連の先に聖地が待っている]ベスト4常連の先に聖地が待っている
明星野球部
今年の冬は長打力を磨きたかった石山監督は、500回連続素振りだけでなく、ソフトボールやテニスボールでのロングティーにも取り組んだ。ソフトボールを打つことによりパンチ力、テニスボールはキレを出させるのが目的だった。そういった多くのメニューをこなしつつ、トータルで1000スイングを一日の目標として掲げた。
こうした創意工夫はティーバッティングにもあった。時には上から落ちてくるボールを打ち、またある時は後ろから来るボールを打つなど、様々な角度から投げられるボールを打っている。
これも石山監督の選手たちを観察して気づいたことから始まったメニューである。
「変化球を芯で捉えられない時期があって、その原因を考えると芯で打てる箇所が1ヶ所だけだからだとわかったんです。だったら色んなバットの出し方で、様々な角度から投げられるボールを打つことで、対応力を身に付けさせよう」と考えた結果、10種類ものティーバッティングが誕生した。
こういった多くの仕掛けがグラウンドに散りばめられているが、「選手に向けてあまり指導をしないように気を付けている」という意外な信念があった。しかしこれは選手のことを想っての方針だ。
「良い選手は独自の練習方法を持っています。練習方法の工夫はもちろんですが、練習への意識の持ち方など、人とは違うところがあります。その引き出しの多さが能力の高い、良い選手だと思います」。観察はするが教えすぎないように注意しているそうだ。
今はもがいても、自分の中で不調から抜け出す術を身に付けられるようになって欲しいと願う石山監督は、今年で5度目の夏を迎える。
「今年はベスト4に行きたいと思っています。しかし西東京はシード校が多いので、まずはシード校に勝つことが第一関門です。そこからベスト4を目指したいです。」と目標を明言してくれた。
ベスト4常連になれば甲子園出場の可能性があると考えている石山監督。また今年の3年生は、自身が就任して初めて3年間指導した先輩方の伝統を受け継ぎつつ、今の教えを吸収している学年である。就任当初からそういった条件を持った世代が勝負できると考えていた監督としては、今年が勝負の年だと感じている。
バリエーション豊かな練習で身に付けた対応力で、夏の好投手を打破した先にベスト4が待っている。日々練習で養われている先を見る目には、その目標が現実味を帯びて見えているハズだ。
(文=編集部)