成瀬 善久投手(東京ヤクルト)が語る「キレのある球を投げるメカニズム」
成瀬 善久投手は、「球持ちがいい」と言われる投手だ。だが、「球持ちをよくしよう」と意識的に取り組んだことはまったくないという。自分にとって合理的なフォームで投げることを追求していった結果、「球持ちがよくなった」というのだ。
おそらく成瀬投手の球持ちのよさは、野球の神様によるご褒美なのかもしれない。なぜなら、投手が質の高いボールを投げるために、最も大事な要素のひとつがメカニック(フォームにおける一連の動作)であるからだ。
いかにして下半身でパワーを生み出し、体重移動やひねりの動作で力を加え、腕を振りながら指先からボールを離していくのか。その動作をいかに合理的にできるかが、放たれるボールの良し悪しとなって表れる。
決してスピードのあるボールではないものの、コントロールとキレで打者を打ち取る成瀬投手は、メカニックにおいて独特のこだわりを持っている。
成瀬投手が大事にしている“フォームのこだわり”
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――成瀬投手がメカニックで大事にしている部分は、最初のトップに行くまでですか?
成瀬 僕、ほかの人と(右)足の上げ方が違うと思うんですよね。足の上げ方は、回すイメージです。重心移動で前に行きながら、クッと体が回転している。みんなは回転してから投げている。そういうイメージですね。僕が大事にしているのは、右足の上げ方からトップに持っていくまでのところです。
――最初の動作でいかに力を生み出すか、ということですか?
成瀬 理想は5割くらいから軽く入って、6、7、8、9、10割みたいな力の入れ方です。最初から思い切り投げても、腕が体から離れたり、外開きになったりするので。リラックス状態の方がトップに入りやすいというか、すんなり肘の内旋、外旋ができやすいんですよ。
――特に回転を意識するのは、ひねりのパワーをいかに使うかという発想なんですか?
成瀬 瞬間的なひねりの爆発がすごく大事だと思います。みんなそうだけど、足を上げてから投げにいくまでの瞬間的な体の回転で、パワーを発揮すると思うので。それに対して、踏み出し足で思い切り爆発できるか。それで、よりキレが出る。
――キレのある球は成瀬投手の持ち味のひとつですよね。
成瀬 130kmしか出ていないのに、140km出ていると感じさせるピッチャーもいますよね。逆に160km投げているのに、160kmに感じないピッチャーもいる。それは、その瞬間の投げ方もそうだし、そこからの球持ちも関係していると思います。僕はすごく球の回転が大事なのかなと思いますね。
――球持ちは技術の問題ですか?それとも意識?
成瀬 うーん……どうなんですかねえ。僕、もともとこんなに小さい投げ方をしていなかったので。大きい投げ方をしていて、それを小さくしたので。
――いつ変えたんですか?
成瀬 高校に入ってからです。中学校ではすごく大きい投げ方だった。だから、スピードは出ていましたよ。
――コントロールを求めていった結果、小さくなったんですか?
成瀬 渡辺監督から「お前はスピードがないから、コントロールを意識しろ」って言われて、そういう意識をしました。でも高校1年生で140kmちょっと出るピッチャーって、そうそういないと思うんですよ。僕、130km後半は出ていたんですけど、監督からしたら球が遅かったみたいですね。
――横浜高校の基準からすると遅い、ということですね。
成瀬 そうですね。自分の中では……ちょっとスピードに伸び悩んだというのもありましたし、いまより体の線が細かったということはあったので、コントロールを重視する方に持っていったのかなと思います。実際、高校のときよりプロの方が、球が速くなっているのも事実なので。
高いレベルで勝負したいなら、今(高校)こそが大事
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――体ができてきた?
成瀬 できてきて、腕も振って、筋量もできて、パワーを出せるようになったので、プロに入ってからのほうが球は速くなりましたよね。
――では、球持ちのよさは意識してやったことではないんですね?
成瀬 全然意識してないです。球持ちというよりも、小さいときからずっと「球の回転がきれいだよね」と言われていました。
――それは才能なんですね。
成瀬 才能って言うとあれですけど、正しい投げ方をさせてくれた父親に感謝ですね。適当には投げなかったですし。自分の中で、そうとしか思えないです。正しい投げ方からキレが生まれると思いますしね。多分、プロに入ってどうのこうのじゃないんですよ。高校に入ってどうのこうのではないんですよ、根本的に。
――勝負はその前から始まっている?
成瀬 それ以前のフォームとかが大事になってくると思います。体ができ上がってくると、投げ方をそうそう変えられないと思うんですよ。プロでオーバースローから投げているピッチャーが「ダメだ」と思って、「じゃあサイドで投げます」っていったら、脇腹を痛めたりするわけじゃないですか。それと一緒で、急には投げ方を変えられないし。小さい頃に、いかにちゃんとしたフォームで投げているかがすごく大事なことだと思います。
――それは前提としてあると思いますが、すでに高校生になっている人はどうすればいいですか?
成瀬 それがすごいミソで。プロ野球にはすごくキレがある、すごく球が速い、すごくコントロールのいいピッチャーがいるわけじゃないですか。それがプロの世界です。だから、自分の長所だと思うことはどんどん活かしたほうがいいと思います。
――では、まずは自分の長所を探すことが大事ですね。
成瀬 そう。キレをよくしたいがために、「大谷 翔平選手(関連記事)みたいになりたいです」と言われても、そうそうなれないし。大谷選手になれないなら、「じゃあ、自分が持っている長所はなんだろう?」と思って、コントロールだとしたらそれをいかに磨くか。長所をすごく伸ばすことはできるけど、短所はそうそう消えないので。短所だと思うことを別に短所だと思わずに、長所を伸ばして短所を消すことはできるんです。
――素晴らしい考え方ですね。
成瀬 そうやって練習した方がいいと思います、高校生は特に。すごく速い球を投げられるピッチャーがコントロールをつけようとして、そう簡単につかないとします。それだったら、荒れる球をいかに利用するか。もちろんコントロールする練習は必要ですけど、いかに腕を振って「どこでもいい」くらいの感じで投げられるかということも大事なのかなと思います。野手からよく、「球が速くてコントロールがいいと、張りやすい」って聞きますし。
――投げる目的は相手を抑えるため、ということですね?
成瀬 そうです。コントロールが悪いと、もちろん打たれやすいけど、バッターがインコースに来ると思っていない場面でたまたまズバッと来るときもあるし。インコースに張っていたら、すごく逆球に来るときもある。でも、それも野球なんだなと思っています。長所をしっかり活かすことだなと思いますね。
ここまでコントロール、配球、フォーム作りについて語っていただいた成瀬投手。今度は思わずどっきりとさせるような質問を仕掛けていく。一瞬ひやりとしたが、成瀬投手は断ることなくしっかりと話してくださった。その中身とは?次回をお楽しみに!
(文・中島 大輔)
これまでの記事は以下から
「プロ入り後に大きく生きた横浜高のアドバンテージ」
「配球論」
「コントロールの良い投手の条件とは?」