試合レポート

花咲徳栄vs山村学園

2019.07.28

花咲徳栄が山村学園を一蹴し夏5連覇達成!

 台風の影響で本日未明から降り続いた雨は明け方には止んだ。それにより、予定通りこの日決勝の開催が決定した。この時点でほぼ山村学園に勝機は薄かった。というのも、山村学園のエース和田朋也(3年)は前日2回から救援し、ほぼ完投に近い形であった。しかも右足を痛めており、肩を含め下半身の休養が1日でも多く欲しかったはずだ。だが、それは叶わなかった。

 では、1年生の小泉など他の投手を先発させれば良いのではという意見もあるとは思うが、観客満員の[stadium]県営大宮球場[/stadium]、勝てば甲子園という決勝の独特な雰囲気の中、しかも相手は夏4連覇中の王者・花咲徳栄が相手である。この場面で投げられる投手は限られている。例えば、岩手県大会決勝・甲子園常連校である花巻東相手に、大船渡高校が先発させた今大会初先発の投手が、その後どうなったかを考えれば答えは明白である。

 前日の春日部共栄もそうであったが、とにかくこの試合、山村学園・和田が強打の花咲徳栄打線に対し、ゲームを作れるかがすべてであった。彼がある程度ゲームを作ることができれば、花咲徳栄投手陣も決して盤石ではなく、山村学園打線も振れているだけに、面白い展開になる可能性はあったはずだ。だが、そうはならなかった。花咲徳栄打線がそれをさせてくれなかった。

 花咲徳栄中津原隼太(3年)、山村学園・和田と両エースが先発したこの試合、花咲徳栄打線が前の試合同様、初回から山村学園・和田に襲い掛かる。

 花咲徳栄は初回、山村学園・和田の立ち上がりを攻め立て、先頭の池田悠真(3年)が死球で出塁すると、続く橋本吏功(3年)もレフト前ヒットを放ち無死一、二塁とチャンスを広げる。それでも3番・韮澤雄也(3年)の送りバントに対し、山村学園・和田が好フィールディングを見せ三塁封殺する。さらに、続く井上朋也(2年)もピッチャーゴロに倒れ併殺でこの回無得点に終わるかと思われたが、和田の二塁送球をセカンドがファンブルし、オールセーフで一死満塁とさらにチャンスが広がる。

 この場面、既にアップアップであった和田にとって、ダメージは大きかったであろう。案の定、5番・羽佐田光希(3年)、6番・中井大我(2年)に連続押し出しを与え、早くも2点を失うと、さらに一死満塁から7番・田村大哉(2年)にレフト前2点タイムリーを浴び4点目、二死後、9番・菅原謙伸(3年)にも左中間へ2点タイムリー二塁打を浴び、結局初回に6点のビハインドを背負う。

 それでも山村学園はその裏、花咲徳栄・中津原の立ち上がりを攻め、先頭の平野裕亮(2年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く横田修大(3年)がきっちりと送り一死二塁とする。ここで3番・小林匠(3年)が左中間へタイムリー二塁打を放ち1点を返す。

 花咲徳栄は2回表にも、この回先頭の橋本吏が四球を選び出塁すると、その後キャッチャーのファンブルで二塁へと進む。続く韮澤もファーストへの強襲ヒットを放ち無死一、三塁とすると、4番・井上はセカンドゴロ併殺に倒れるが、その間に1点を追加する。

 山村学園・和田は、この併殺でやや落ち着きを取り戻したか、3回、4回と相変わらず先頭打者こそ出すが、相手の拙い攻めにも助けられ併殺に打ち取り無失点で切り抜ける。

 それでも、花咲徳栄は5回表、一死から5番・羽佐田、6番・中井の連打で一死一、二塁とすると、続く田村がライト前タイムリーを放ち8対1とする。


 一方、その裏山村学園に一気に差を詰めるチャンスが訪れる。一死から平野が四球を選び出塁すると、続く横田がレフト前ヒットを放ち、一死一、二塁とする。二死後、4番・櫻澤一哉(3年)がショートへの内野安打を放ちチャンスを広げると、続く高野(2年)が押し出しの四球を選び1点を返す。さらに二死満塁とチャンスは続くが、後続が倒れ反撃は1点で終える。

 すると、花咲徳栄は6回表、先頭の池田が死球で出塁すると、続く橋本吏がきっちりと送り一死二塁とする。二死後4番・井上がレフト前タイムリーを放つと、続く羽佐田もレフト越えのタイムリー二塁打を放ち10対2とし試合の大勢は決した。

 花咲徳栄は8回表にも3四死球で二死満塁とすると相手エラーでさらに1点を追加する。投げては中津原が、大量リードにも守られ、6回以降、山村学園打線を無失点に抑えるなど、結局2失点完投勝利を飾り、花咲徳栄が5年連続の甲子園出場を決めた。

 まず山村学園だが、とにかくこの日は頼みの和田が本来の出来ではなく、初回に6点を失ったことが最後まで大きく響いた。内野守備はこの日4併殺を取るなど良く守っていたが、大事な局面でキャッチミスが出てしまい、これが大量失点のきっかけになってしまった。これはおそらく決勝の緊張感から来るものも多分にあるであろうが、花咲徳栄レベルの相手になると、そういう一つのミスも見逃してはくれない。とはいえ、これまでの戦いぶりは見事であった。今春の関東大会でベスト4進出し、今夏は準決勝の壁を破り、初めて決勝進出した。これは、まだ歴史の浅い山村学園にとっては今後へ向け大きな一歩となるであろう。大黒柱・和田はいなくなるが、幸いチームに小泉裕貴(1年)、平野という投打の柱が残る。今春から脱和田に取り組んだことが、秋以降に生きてくるであろう。

 一方の花咲徳栄だが、この日、甲子園に出場したいチームと、甲子園に出場するのは当たり前、あわよくば優勝を狙いたいチームという意識の差をまざまざと見せつけた。今夏の埼玉大会のテーマは、どこが強打の花咲徳栄打線を止めることができるかであったが、唯一善戦した春日部共栄・村田でさえ15安打を浴びている。それを考えると、結局、どこも花咲徳栄打線を止められなかったという結論に行きつく。埼玉県は花咲徳栄の一強時代に入ったと言えるであろう。

 ただ、課題はない訳ではない。まず投手陣だが、一応、中津原という柱は見つかったが、とても絶対的な立場とは言えない。甲子園のレベルを考えると、ある程度の失点は覚悟した方が良さそうだ。現実的に考えると、継投ありきで早めの継投を心掛ける。甲子園での上位進出は岩井監督の継投次第となりそうだ。また、守備面でも内野の守備は相変わらず不安定であり、ここは甲子園出場時までに再度整備が必要であろう。何より心配なのは今大会結局不調のまま終わってしまった4番・井上の出来だ。ただこれに関しては、甲子園へ行くと突如打ち出す打者もいるだけに一概には言えないが、今年のチームは現状ハイスコアで勝ち進む以外、道は見えないだけに井上の復活は上位進出へ必要不可欠な要素であろう。ただ、これだけの要素が上がるのも、花咲徳栄という高校が既に実績もあり、ハードルが上がっているからである。あくまで組み合わせ次第であるが、今年のチームがどれだけ勝ち進むのか、今から楽しみな存在である。

(文=南 英博

2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会
■開催期間:2019年7月10~7月28日(予定)
■組み合わせ表【2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会】
■展望コラム【今年の埼玉は大混戦!シード校の戦力とシードを脅かすノーシードを徹底紹介!】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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