試合レポート

春日部共栄vs浦和実

2018.10.07

インコースストレートの攻防

春日部共栄vs浦和実 | 高校野球ドットコム
村田賢一(春日部共栄)

 まさに産みの苦しみといった所か。過去秋季大会はベスト8やベスト4で何度も跳ね返されてきた春日部共栄が、やっとそのなかなか開かなかった決勝への扉をこじ開けてみせた。

 春日部共栄がエース村田賢一(2年)、一方豆田泰志(1年)、三田隼輔(2年)の二枚看板で勝ち上がってきた浦和実はこれまで同様に1年生右腕豆田が先発し試合が始まる。村田はオーソドックスな力投型で前日完投してこの日の連投ということもあり、そのスタミナ面に一抹の不安は残ったが、この日も直球はMAX136km、アベレージで130km中盤は出ており、その点は問題ないようだ。一方の浦和実豆田も連投だが、前日は4イニングしか投げておらずスタミナ面は問題ないようだ。この日もその力感ないフォームから飄々と投げ、MAX135kmを計測している。

 今年のチームは強打が売りの春日部共栄対投手力が充実している浦和実という戦前の予想であったが、試合は総じて浦和実のペースであった。

 初回浦和実春日部共栄・村田の立ち上がりを攻め、一死から2番・松村が四球で出塁すると、すぐに二盗を試みる。これがキャッチャーの悪送球を誘い一走・松村は一気に三進し一死三塁とチャンスが広がる。だが、ここは村田が踏ん張りに遭い頼みの3番・長谷川俊太(2年)、4番・竹内琉生(2年)が連続三振に倒れ、絶好の先制機を逃す。

 一方の浦和実・豆田は立ち上がりから制球が良く、単発でヒットこそ浴びるが長打、連打を許さない。結局強打の春日部共栄打線を相手に無四球、被安打2、無得点に抑える完ぺきな投球を見せる。特に左打者への徹底したインコース攻めが秀逸で、春日部共栄の左打者は初回の平尾木冬翔(1年)のセンター前ヒット以外、ヒットどころか良い当たりすら飛ばせない。右打者に対してもアウトコース中心でスライダーを交ぜるのだが、時折抜けたストレート(意図的なのかは不明だが)インコースに行き的を絞らせない。

 対する春日部共栄・村田も制球は良く結局この日の四球は2、毎回のようにヒットは浴びるが単発であり連打は許さず両者無得点のまま前半戦を終える。

 迎えた6回裏、浦和実ベンチが動く。これだけ良い内容の豆田をあっさりと5回で降板させ、6回頭からエースの三田をマウンドに送る。これには春日部共栄サイドも驚いたであろう。三田は力投型であり、当然前日からの連投でゲーム終盤の厳しい5イニングを投げている。しかもこの流れ、相手の打順が三巡目に差し掛かる所であり、春日部共栄打線はこれまで豆田に対し全くタイミングが合っていなかった。

 流れが変わる予感があったが、三田はMAX138kmの直球を中心とし力で春日部共栄打線をねじ伏せにかかる。代わった6回からヒットこそ浴びるが無難に無失点で切り抜けると、その後も無失点に抑えていくのだが、明らかに春日部共栄打線の凡打の内容が変わった。外野へ鋭い当たりが飛び始めたのだ。もちろん、春日部共栄打線が相手の配球を意識し始めていたこともあるが、その違いは特に左打者のインコースへの制球力の違いであった。豆田と比べると、三田のインコースへの直球は時折投げ間違いがあり、その甘くなった球を少しずつ捉えられ始めていた。だが、幸い浦和実の外野陣はベタ引きしており、事なきを得るが、流れはやや春日部共栄サイドへ傾き始める。

 迎えた7回裏、春日部共栄はこの回先頭の村田がライト前ヒットを放ち出塁するが、続く石崎聖太郎(2年)の送りバントはキャッチャーの好フィールディングに遭い二塁封殺されると、6番・平岡大典(2年)、7番・丸田輝(2年)は共に捉えた打球をライトへ運ぶが共にライトの正面に飛び無得点に終わる。


春日部共栄vs浦和実 | 高校野球ドットコム
サヨナラのシーン

 これで流れを失った春日部共栄は8回以降三田の前にノーヒットに抑えられる。一方、春日部共栄・村田も相変わらず安定した投球を続け連打を許さず浦和実を無得点に抑え試合は延長へと進む。

 延長では両者共に流れが掴めず試合はタイブレークでの決着となるかと思われた12回裏、春日部共栄に大きなチャンスがやってくる。

 この回先頭の村田がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く石崎に対しベンチの指示はまたしても送りバントであった。だが石崎はうまく送れず追い込まれたのだが、ベンチはここでヒッティングに切り替える。前の回には2番・左打者木村大悟(2年)に対し7球連続インコースを要求し打ち取るなど、この試合を通してとにかく徹底していた浦和実バッテリーは左打者石崎に対しても当然インコースを要求するが、この球が甘く入る。石崎はセンター前ヒット放ち無死一、二塁となる。これでほぼ勝負あった。6番・平田がきっちりと送り一死二、三塁とする。ここで浦和実ベンチは満塁策を取り8番・右打者片平進(2年)との勝負を選ぶかと思われたが、おそらくこの試合を通じて左打者に対し勝算があると踏んだのであろう。

 続くこの日ノーヒットの丸田との勝負を選択する。やはり石崎との勝負でやや怖さが出たのであろう。浦和実バッテリーは丸田に対し内外角バランスよく攻めるが、最後はアウトコースのストレートをセンター前へ運ばれる。春日部共栄がサヨナラで試合を終え3年ぶりの関東大会へ駒を進めた。

 まずは、浦和実だが、この日は自慢の投手陣が強打の春日部共栄を封じ込め総じて浦和実ペースであったが、とにかく1点が遠かった。最後まで村田を打てなかったのが全てであろう。豆田、三田という二枚看板は盤石であるだけに、今後はとにかく打力の向上が全てであろう。旧チームから残っているメンバーが多くいるだけに4番・竹内を中心とし一冬を越えスケールアップした打線が見たい。

 一方の春日部共栄は、秋の関東大会は3年ぶりだが、3年前はあくまで地元開催のための増設枠3位での進出であり、決勝進出となると意外にも8年ぶりとなる。それだけに仕上がりの早い今年の代に対する本多監督の思い入れも強いであろう。この日もよもやの危うい展開となったが、踏み止まれたのはとにかく村田の存在であろう。自慢の打線が沈黙する中、連投であるにもかかわらず、丁寧に投げ12回を投げ切り、結局この日も二けた三振を奪った。

 これで4試合連続二けた三振を奪うなど今大会を通してとにかく安定しており、4番として良い所で打ってきた。だが、関東大会では村田におんぶに抱っこではいけない。村田もある程度の失点は覚悟しないといけないだけに、その他の打者の奮起がより求められる。それだけにこの日の特に左打者の同じような凡打は気になった。春日部共栄打線は左打者5人と決して左偏重打線ではないが、試合中の対応力の部分は今後へ向けての課題となるであろう。

(記事:南 英博

 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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