試合レポート

浦和学院vs作新学院

2011.11.05

浦和学院vs作新学院 | 高校野球ドットコム

先発した伊藤祐貴(浦和学院)

決勝の重みとは??

浦和学院伊藤祐貴
作新学院小林勇介
ともに、今大会初登板となる1年生投手が決勝の先発に抜擢された。

絶対的エースが現状ではいない浦和学院、エース大谷樹弘(2年)に連投の疲労が見えている作新学院。それぞれに事情は異なるが、関東決勝という頂点を決める勝負の場として、試合前は少しさびしいものあった。
私見ではあるが、『甲子園のかかった夏の県大会決勝、または甲子園の決勝でこの投手起用ができるのか?』という感じになってしまった。

しかし、大人の思惑とは別に高校生である選手は、ゲームに入ればスイッチが入る。やはり『負けたくない。勝ちたい!』という気持ちが全面に出ていた。

浦和学院の伊藤は今大会登録変更で入った投手。185センチ80キロと恵まれた体格で、直球を主体に押していくピッチングで、立ち上がりを三者凡退に切って取った。それも全て内野ゴロ。ゲームのリズムを作る上では、三振を取ること以上に最高の入り方だった。
この伊藤を支えたのがキャッチャーの林﨑龍也(2年)。「野手が投手を育てる」(森士監督)というテーマのチームにあって、この林﨑の存在が伊藤に勇気をもたらした。

一方で、作新学院の先発・小林は1回にいきなり連打でピンチを作るが、ダブルプレーで凌ぐ。しっかり守った野手もさることながら、この日存在感を見せたのはエースの大谷だった。
疲労もあり前半はウインドブレーカーを着ていたが、ベンチの最前列で1年生投手に大きな声をかける。チェンジになれば、一番先に飛び出して、仲間を迎えた。
ベンチからではあるが、『頑張っているので1年生を声で少しでも勇気づけたい』という姿勢がにじみ出ていた。


浦和学院vs作新学院 | 高校野球ドットコム

捕手・林﨑(浦和学院)

0行進で立ち上がったゲームは3回に動く。先攻だった作新学院が1死から1番石井一成(2年)がヒット。2死となって3番の髙山良介(2年)が四球で出塁した。
ここで森監督は、伊藤に代えて左サイドハンドの渡邉剛(2年)を送った。渡邉は4番の篠原優太(2年)をセンターフライに打ち取ってピンチを凌いだ。準々決勝以降の3試合でリリーフしてきた経験が、ここで生きた形。エース不在の浦和学院にとって、渡邉投入は勝ちパターンだった。
攻守所を変えたその裏。先頭の9番緑川皐太朗(2年)が内野安打で出塁、1番の竹村春樹(1年)が進塁打を放って1死2塁となった。

打席は2番の林﨑。その初球はボールとなったが、走者の緑川のリードが大きく、キャッチャーの山下勇斗(1年)は二塁に送球した。だがこれがワンバウンドとなりセンターへ逸れる。緑川はその隙をついて三塁まで進んだ。守りでミスがでた作新学院。林﨑は小林の3球目を叩くと、打球はライトの右へ落ちた。

投手を支える為にも、自らのリードが少しでも楽になる為にも取りたかった1点を林﨑自身のバットで手にいれた浦和学院。さらに2死から5番石橋司(2年)が二塁打を放って、このイニングもう1点を加えた。

4回にも林﨑が代わった左腕の鈴木将史(1年)から2点タイムリーを放って4対0。
これで完全にリズムをつかんだ浦和学院。渡邉の特徴を生かした林﨑の巧みなリードが冴え、作新学院打線を三振ではなく、打たせて取っていく。

唯一のピンチとなった6回2死1塁から浴びた長打は、ライト笹川晃平(2年)の好返球で本塁タッチアウト。打たせて取っていたことが、このプレーを呼ぶ引き金にもなった。
9回1死からは、1回戦(東海大相模)と準々決勝(甲府工業)で先発した山口瑠偉(1年)がマウンドへ。四球を一つ出すが、最後の打者をライトフライに打ち取り、ゲームは終わった。


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優勝旗授与 浦和学院・明石飛真主将

「タイプの違う投手をリードするのは、やりがいがある。投手陣みんなで完封できてうれしい」と胸を張った林﨑。4打数4安打3打点の打撃に目が行きがちだが、無失点のことを聞かれた時が、一番うれしそうな表情をしていた。
佐藤拓也(2年)が全試合を投げ切った昨年の優勝とは違う総合力で連覇を果たした浦和学院。森監督は「最近、全国で勝てていない」と神宮大会、その先の春に向けて更なる総合力強化を図る方針を示した。

一方で、決勝では打線が振るわなかった作新学院。ゲーム後すぐにベンチでミーティングを持った小針崇宏監督。その輪で、「関東の決勝じゃない。情けない」と選手を誓った。初めは淡々と聞いていた選手の目は、次第に涙でいっぱいになる。
特に、8回2死から登板し、押し出しの死球でトドメの1点を与えたエース大谷は肩を震わせていた。前日から「肩がかなり張っている」と口にしていた大谷。ベンチからチームを鼓舞し続けたが、肝心のマウンドで足を引っ張った悔しさが身にしみたであろう。

決勝戦という舞台はそれだけ重い。勝ち上がる上で、最後に最高の力が発揮できるように、体力も気力も息を入れるポイントをどこかで作らないと、決勝を勝ちきることはできないのだ。

(文=松倉雄太)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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