試合レポート

十津川vs帝塚山

2011.04.23

本気でめざすベスト8

 奈良県最南端の県立高・十津川が初戦を突破した。「いつもは、投手の四球と守備のミスで負けることが多かったのですが、エースの丸山がしっかり投げて、守備もノーエラーでできたのが良かった」と十津川・勝山監督はほくそ笑んだ。

ここ近年の奮闘ぶりから「十津川の1勝」はそう珍しいものではないとはいえ、彼らの「1勝」には、やはり重みがある。多くのハンディをモロともしない強さが十津川ナインにはあるからだ。

たとえば、地理的な問題がある。
奈良県以外の人にとっては「奈良県最南端」といってもイメージがわかないだろうが、分かりやすく言えば、メーン球場のある[stadium]橿原・佐藤薬品スタジアム[/stadium]までは車で3時間かかるという位置にある。奈良県北部、ほぼ大阪寄りに住んでいる筆者が佐藤薬品スタジアムに行くのに約1時間を要するから、その3倍である。ちなみに、筆者は電車での所要時間だが、十津川からは車でしか来ることができない。

そのため、公式戦は前泊するのが通例で、県内にありながら、いわば「遠征」を強いられている。

部員数においても、恵まれてはいない。3学年を数えれば21人だが、この4月に1年生が入部するまでは13、4人の少数精鋭。「すべての選手が複数のポジションを経験しないと回らないほど。キャッチャーは公式戦以外は、ほとんど他のポジションを守っている」と勝山監督は苦笑する。グラウンドも、陸上部と共用。寮生は8時までに戻らなければならないから、7時には練習が終わる。全体で練習できるのは1時間半程度しかない

部員が多く、設備が整い、また専用グラウンドを持つなどのチームとは同じ「1勝」でも、重みが違うのである。
ただ、勝山監督が、チームの指揮を取るようになって一番苦労したのはそうしたハンディの部分だけではない。むしろ意識の部分だったと勝山監督は力説する。
「どういう目標をもってやるか。甲子園を目指すと言っても、そんなに力はない。どれだけ本気で狙える目標をいえるのかが大事ですから」。


 勝山監督には、郡山高校時代に甲子園に出場した経験がある。だが、だからといって、同じ目線では話をしない。「にやにやした顔をして甲子園を目指しても、本気で目指しているチームに勝てるはずはない、まずは、本気で目指せる目標を立てる」と足元をみつめることから、チームはスタートしているのだ。

この日の試合では、きっちりと果たすべきことをやりきる十津川ナインの姿があった。投手は低目を丹念に突きながら、打たせて取る。守備陣も派手なプレーをするのではなく堅実に守っていく。攻撃面においては、ボールに食らいつき、きっちり犠打で送って、次の塁に進める。得点の機会を増やすというのを徹底していたのだ。

3回裏に、先頭の7番・平瀬が中前安打で出塁し、8番・井藤が犠打で送る。2死後、1番・平林、2番・山下の連続適時打で2点を先取した。4回裏には、丸山、小林、坪井の三連打で1点を追加。守ってもエース丸山は3四球にとどめ、6安打10三振の好投。守備陣も、2つの併殺を決めるなど、好守に徹底力が見えた試合だった。

 今大会の目標は「ベスト8」と勝山監督は教えてくれた。たとえ、それが他人からは無理だと言われても、選手たちが本気で狙っていることに意味がある。多くのハンディをハンディと思わず戦えるのは、彼らには彼らなりの目線で高校野球に向き合うことができているからなのだ。世間一般とは違う、彼ら独自の高校野球がここにはある。
「今大会でベスト8が果たせなかったら、夏にまた目指します。もし、達成できたら…選手たちがどういう目標を立ててくるか、僕から求めることはないです。野球でいい想いをしてきたことのない子たちですから、何とか、最後には彼らに残してやりたいです」と勝山監督は最後を締めてくれた。

この日は、強い雨が降りしきる中で行われたが、試合後は、いつものようにダウンのキャッチボールをこなしていた十津川ナイン。横なぐりの雨すらも、彼らを揺るがしてはいなかった。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.16

【宮城】仙台一、東北、柴田、東陵がコールド発進<春季県大会>

2024.05.16

涙の甲子園デビューから大きくレベルアップ!前橋商の192センチの剛腕・清水大暉は、高速スプリットで群馬県大会19回1失点、22奪三振の快投!<高校野球ドットコム注目選手ファイル・ コム注>

2024.05.16

【2024年春季地区大会最新状況】全道大会は出場校決定、関東と東海は18日に開幕

2024.05.16

【秋田】夏のシードをかけた3回戦がスタート、16日は大館鳳鳴などが挑む<春季大会>

2024.05.16

U-18代表候補・西尾海純(長崎日大)、甲子園で活躍する幼馴染にむき出しのライバル心「髙尾響には負けたくない」

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.14

大阪体育大の新入生に兵庫大会8強の145キロ右腕、金光大阪の1番センター、近大附の4番打者など関西地区の主力が入部!

2024.05.16

【宮城】仙台一、東北、柴田、東陵がコールド発進<春季県大会>

2024.05.12

学法石川の好捕手・大栄利哉が交流戦で復帰! 実力は攻守ともに世代トップクラス!身長200センチ右腕を攻略し、完封勝利!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?