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かつての平安は4回戦敗退で「ようやった!」と落ちるまでに…「平安ファン」の原田英彦監督の軌跡【前編】

2023.03.24

 今や全国を代表する名門である龍谷大平安(京都)は、高校野球の黎明期から強豪として全国で活躍してきた。そんな龍谷大平安も長い低迷があった。そんな低迷を立て直し、安定した実績を残せるまでになったのは原田英彦監督の手腕があるからに違いない。

 今回はそんな原田監督の軌跡を振り返る。

小学校時代から憧れていた平安

かつての平安は4回戦敗退で「ようやった!」と落ちるまでに…「平安ファン」の原田英彦監督の軌跡【前編】 | 高校野球ドットコム
龍谷大平安・原田英彦監督

「重苦しい展開から、エラーで勝ち越された。なんとか流れを変えようと、ふだん出ていない代打の石丸 晟智松井 駿太が本当によく打ってくれました」

 第95回記念選抜高校野球大会、第4日。4年ぶり出場の龍谷大平安は、終盤に長崎日大を逆転し、大会通算勝利数は単独5位の43となった。7回の代打策を見事に的中させたのは、原田英彦監督だ。優勝した14年センバツのお立ち台で、「平安ファンとして、ホント、うれしく思います」と語ったように、根っからの「平安ファン」である。

 今大会が42回目の出場と、全国最多を誇る龍谷大平安中京大中京とともにたった2校だけ、甲子園通算100勝を超え、夏の優勝が3回、センバツも優勝1回の強豪にして古豪、名門だ。原田監督は、1960年生まれ。京都代表といえば平安、という時代に育ち、小学生のころは、Tシャツにマジックで「HEIAN」と書き込み、中学生になると府大会から甲子園まで追っかけで観戦したし、ラジオ放送を録音して繰り返し聞いたというから筋金入りのファンだ。

「小学校時代から平安にあこがれて、中学時代には、平安の選手が利用するスポーツ屋さんで“平安が使こてるのと同じストッキングください”と手に入れて喜んだり、学校の帰りに練習を見学したり。当時エースだった山根(一成)さんの練習ぶりを見たときは、“さすが平安のエースや”と感激しましたね。その山根さんが2年のとき、[stadium]西京極球場[/stadium]に応援に行ったんですが、準々決勝の京都商(現京都学園)戦でリリーフに出て、ホームランを打たれて負けてしまったんです。試合のあと更衣室をのぞいていたら、山根さんが泣いとった。逆に京都商は大喜びで、自分のことのように悔しくて、キョーショー(京都商)が憎かったですね」

 山根は、3年になった74年春夏の甲子園に出場し、春4強、夏8強に導く。だが……翌年からの昭和50年代の平安は、甲子園がすっかり遠くなる。そもそもそれ以前の71年、野球部関係者の不祥事が起こり、半年間の対外試合禁止処分があったし、原田が3年だった78年夏は3回戦で京都商に敗退。80年には、昭和50年代唯一のセンバツ出場を果たすが、翌81年、今度は部員の不祥事で夏の出場を辞退。他校の台頭もあり、出て当たり前だった甲子園への道がすこぶる険しくなっていた。90年、16年ぶりに夏の甲子園に出場したのは、昭和に換算すると65年。つまり、昭和50年代と60年代の平安は、それぞれ1回ずつしか甲子園出場がないわけだ。原田監督が就任したのは、そんな低迷期の93年8月。夏の京都大会準々決勝で、京都西(現京都外大西)に敗れたあとである。

憧れの平安は4回戦敗退で「ようやった」と言われるまでに落ちぶれる

かつての平安は4回戦敗退で「ようやった!」と落ちるまでに…「平安ファン」の原田英彦監督の軌跡【前編】 | 高校野球ドットコム
龍谷大平安・原田英彦監督

 平安から進んだ社会人・日本新薬時代は、31歳で現役を引退するまで、13年間で10回都市対抗に出場した。「営業職がおもしろくなり、迷った」すえに母校の監督に就任したときは33歳で、平安の監督としては、異例の若さだった。だが、いざ就任すると、低迷というのも生ぬるいチーム状況に愕然とする。まず野球の技術以前にユニホームの着こなし、道具への愛着、日常生活。名門のプライドが、なにひとつ感じられない。こりゃ、立て直すのが大変やな……。

「グラウンドがぬかるんでいるとき、ある部員が古びたスパイクを履いていたんです。聞くと、”新品を汚したくないから”(笑い)。ほかにもグラブを磨くとか、当たり前のことだけでも、改善点が60いくつもありました。寂しかったのは94年です。私の初めての夏の大会は4回戦で負けたんですが、それでも観客に”ようやった”と拍手されたんです」

 原田の現役時代最後の78年夏は、京都商に敗れて球場から帰るバスに、ファンが乱入してきた。当時の監督は、バスから引きずりおろされて3時間ほど責められた。かつての平安は、そういうチームだったのだ。それが、4回戦負けで”ようやった”とは……。

 なにしろ「60いくつ」の改善点である。原田は、細かいことまでうるさいくらいに諭し、根気強く鍛えていった。生活態度なんか、野球強うなるのに関係ないやろ……とソッポを向かれても、言葉を尽くして生徒に納得させた。練習も、厳しさを増す。ときにはランニングだけで6、7時間。球を芯で捕る感覚を養うため、古いグラブの網部分を外した”網なしグラブ”でのボール回しは、100周ノーミスじゃないと終わらない。当時のグラウンドは亀岡市の山中にあったが、練習が遅くなるときは送迎バスも帰したから、選手たちはユニホーム姿のまま、最寄りの亀岡駅から電車に乗った。

「監督になって2回目の夏の大会でした。1回戦で負けて球場から帰るとき、ファンにつかまったんです。“1回戦負けとは、どういうこっちゃ。土下座せぇ!”いわれて。だけどこれは、前年の”ようやった”よりうれしかったんです。僕自身が平安ファンですから、“土下座せえ!”ゆう罵声の意味は、ようわかります。もちろん悔しいんですよ。だげと、自分を奮い立たせてくれたんで、ありがたくもありました。“クソったれ、いつか見とけ”というエネルギーになりましたから」

(文=楊 順行

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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