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NPB史上84人目のノーノー達成 恩師が語ったプロ10年目・東浜巨を支える資質

2022.05.18

 5月11日、プロ野球の長い歴史に1人の投手が新たに名を刻んだ。

 ソフトバンクの東浜 巨投手(沖縄尚学出身)だ。
 西武戦でNPB史上84人目、95度目のノーヒットノーランを達成。偉業を成し遂げたことは大きな話題となった。

 多くのメディアが報じる中、沖縄尚学時代の恩師である比嘉公也監督は、テレビの前で偉業達成の瞬間を見届けていた。

自分を知り、考えて取り組める選手だった

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ソフトバンク・東浜 巨

 「偶然テレビで観戦していましたが、凄いと思いました。特に9回投げて100球以内というのは、ストライク先行で抑えたということだと思いますので、本当に凄いです」

 教え子の大偉業の達成に称賛の声を送るのはもちろん、マダックス(100球未満での完封)達成に同じ投手として、改めて東浜の凄さを感じているようだった。

 そのうえで、今回の偉業達成を恩師・比嘉監督は自己分析能力の高さを要因に挙げた。
 「当時からどうすれば成長できるか考えて練習できる選手でした。それを今も続けて勉強しているから、ノーヒットノーランに繋がったんだと思います」

 直球の質はもちろん、いかに直球に似た軌道から変化させるのか。また、どうやってピッチングの中に緩急をつけるのか。今の自分の武器、そして抑えるために必要な球種は何なのか。普段のキャッチボールから「試行錯誤しながら考えて取り組んでいました」と当時の様子を記憶の片隅から思い出しながら話した。

 考えて練習をする姿勢はキャッチボールだけではない。試合やシート打撃での取り組みを振り返っても、東浜は他の投手とは違ったようだ。
 「東浜は、試合が終わっても遠投をしていましたし、シート打撃で納得できない投球ならすぐにブルペンに駆け出して、フォームを確認するために投げ込むような投手でした。それだけ投げることに関しては誰よりもやっている投手だったと思います」

 その様子を見てきて「投げることが好きな選手でした」と懐かしそうに話しつつ「投手は自分の球やリリースポイントを覚えるには、まずは投げないといけないことを学びました」と、指導者ではありながら教え子の練習への取り組み方を通じて、新たな学びもあったという。

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あくなき向上心をもって、さらなる成長を

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比嘉公也監督(沖縄尚学)

 普段から考えて練習に取り組むためにも、まずは自分を知り、やるべきことは明確したうえで、目的意識をもって練習していた東浜。「私たちから指導したわけではなく、入学した時からそうでした」と比嘉監督も話し、あくまで、持って生まれた向上心と、沖縄尚学に入学するまでの自身を取り巻く環境で培われた価値観が合わさったもののおかげだった。

 高校野球になると、自ら考えて自発的に練習をできる選手と、そうでない選手に明確に違いが生まれてくる。東浜のように高い向上心を中学生の時から持つのは簡単ではなく、自ら行動ができない球児もいるのが現実だ。比嘉監督も「そこで差が生まれると思います」とポイントに挙げているほどだ。

 だからこそ、選手が取り組んでいるメニューに違和感を覚えれば「当時のことを話します」と考えを改めさせる意味でもエピソードを話しつつ、選手たちに考えるきっかけを与えている。

 「たとえば紅白戦やシート打撃で制球が乱れていたにもかかわらず、登板後はティー打撃やインナーのトレーニングをしている選手がいた時には『それで次の登板までに、今日の課題は解決できるのか』と問いただします。
 そうしたら『いいえ』と答えてくれるので、『そしたら、その練習をやっているのはどうなの』ともう一度聞いたらネットスローに切り替えるんですが、そうやって自分で考えてやってほしいと思っています」

 東浜投手はNPB入りをして10年目。節目の年を迎えた。常勝軍団・ソフトバンクで長く活躍するのは、容易ではない。毎年レベルの高い選手がドラフト、FA、さらに育成から育ってくるなど、競争激しいチームだが、そうしたなかでも2017年には最多勝のタイトルを獲得するなど、第一線で活躍し続けている。

 恩師である比嘉監督は、今もなお選手層の厚いホークスで活躍できるところにも、向上心の高さがあるからだと分析している。
 「周りには凄い投手、球が速い、強い投手がいるなかでも、今もストレートの強さを求めながら、変化球の精度を高めようとしていると思います。
 周りから見れば『もう少し力を抜けよ』と思ってしまうようなタイプの選手なんけど、妥協を許すことなく、あくなき向上心を貫いて練習できるからだと思います」

 そして5月17日、東浜は地元・沖縄で開催された西武戦に先発登板し、同じ沖縄尚学の後輩である與座 海人投手と投げ合いを演じた。7回104球を投げたところで降板したが、わずか2安打無失点と、ノーヒットノーラン後の登板としては申し分ない内容だった。

 「周りに惑わされずに、これまで通りの取り組みをもって多くの人を喜ばせてほしい」と比嘉監督は最後にメッセージを送っていたが、東浜はこれからどんな投球を見せるのか。自分を知り、あくなき向上心で成長し続ける元センバツ優勝投手の今後が楽しみで仕方ない。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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