オフシーズン中に見直したい!「肩のゆるみ」や「肩の不安感」
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
オフシーズンになると体づくりのためにトレーニングを行うチームが多いと思います。よりスケールの大きなプレーができるように、基礎体力をつけることはもちろんですが、もう一つ意識してもらいたいこととして、ケガや不安部位の克服が挙げられます。次のシーズンには全力でプレーできるように、この時期にしっかりと状態を改善させることが大切です。さて今回はその中でも「肩のゆるみ」「肩の不安感」に関するコンディショニングについて、お話をしたいと思います。
肩関節を支えるインナーマッスル
腕を振り下ろすたびに、肩後方部には大きな牽引力が加わる
肩関節の構造を考えてみると、肩関節は球関節といってさまざまな動きを可能にする、比較的動きの自由度が高い関節です。その分、外力からの衝撃に対して容易に外れてしまったり、不安定な状態になりやすくなったりします。肩関節に安定性をもたらしているのは骨の近くにある腱板筋群(いわゆる肩のインナーマッスル)や靱帯などであり、さらにその上に大きな筋肉(大胸筋、三角筋、広背筋など)が肩関節をカバーしています。靱帯は直接強化することができませんが、筋肉であるインナーマッスルは強化することが可能です。肩関節により近い場所に存在するため、これらの筋肉を強化し、その機能を働かせることで肩の安定性が高まります。大きな筋肉群だけ鍛えても、中心部分にあるインナーマッスルが機能しなければ、肩の深層部分で不安定感が増すことになります。
なぜ肩がゆるいと感じるのか
投球動作は運動連鎖によって地面から足、体幹、上腕、前腕、手指とその力を伝えてボールを投げるのですが、体幹と上腕をつなぐところには肩関節が存在します。投手や捕手は他のポジションに比べて投球動作を繰り返すことが多く、接続部位である肩関節や肘関節などにはより大きな負担がかかりやすいと言えるでしょう。関節部位に負担がかかりにくいフォームを維持することは、投球障害予防に必要不可欠なものですが、投球数が増えてくるにしたがって、筋肉が疲労し正しいフォームを維持できなくなってくることが予想できます。
特にボールをリリースしてから上腕を振り下ろすときには、腕が大きな力で前方に引っ張られるのですが、その牽引力に抵抗し、必死で腕が肩関節から「抜けない」ように抑えているのが肩後方部の腱板筋群(棘下筋、小円筋など)や上腕三頭筋などになります。これらの筋力が低下したり、何らかの原因で損傷してしまうと、「抑え」が効かず、肩のゆるみや不安感を覚えるようになったり、痛みなどを伴ったりするようになります。
さらに守備機会においてボールに飛びついて地面と接触するスライディングキャッチやジャンピングキャッチを試みたり、打者走者などでベースに向かってヘッドスライディングをしたりしたときに、肩関節に直接大きな力が加わって関節内部の組織を傷めてしまうことがあります。このような衝撃が加わるとその後から「肩がゆるい」「肩が抜けそう」といった感覚に悩まされることもあります。できる限りこうしたプレーは避けることが賢明であり、特にヘッドスライディングはケガ予防という観点から考えても避けるようことを強くオススメします。
[page_break:肩のインナーマッスルを鍛える]肩のインナーマッスルを鍛える
野球選手は日頃から肩のコンディショニングを習慣にしよう
肩のゆるみを改善するためには、まず肩関節を支えているインナーマッスルからアプローチすることが基本となります。皆さんもチューブや軽いダンベルなどを用いて行うトレーニング方法を見聞きしたことがあるかもしれません。チューブを使ったトレーニング方法は以前のコラムで解説していますので、ぜひこちらを参考にしてください(参考コラム「正しくインナーマッスルを鍛える」)。
またチューブなどを使わなくてもできる自重トレーニングをご紹介しましょう。うつ伏せになった状態で両手を肩と同じ位置まで挙げ、上から見て「T」の字になるようなポジションをとります。そこから肩甲骨を内側に引き寄せながら腕をほんの数センチ地面から浮かせます。そしてこの状態を20秒キープして腕を下ろします。
同じように今度は腕を斜め下にして「A」のようなポジションや、腕を斜め上に挙げて上から見て「Y」の字になるポジション(いわゆるゼロポジション)、腕と肘をそれぞれ90°曲げて(肩外転90°、肘屈曲90°)腕が「L」の字になるようなポジションでもそれぞれ20秒間キープするようにします。この4種目を1セットとし、1回2〜3セット行うようにしましょう。このトレーニングを続けていると肩のゆるみや痛みなどの改善が期待できます。こちらは動画で紹介しています(参考コラム「肩の安定性を高めるためのエクササイズ」)。
肩関節内部の損傷を確認しよう
このようなトレーニングを行っても改善しない、不安感や痛みなどが増すといった際はなるべく早めに医療機関を受診するようにしましょう。先ほど紹介したものはあくまで肩のインナーマッスルに対するアプローチであり、原因が筋肉にない場合はめざましい改善をすることはむずかしいからです。肩関節を支えているものは筋肉以外にも靱帯であったり、関節唇といって肩甲骨に付着する軟部組織などもあります。
これらが傷んでいると、場合によっては手術をして修復する必要が出てくるからです。特に以前肩関節を脱臼し、何度も繰り返すような場合は「習慣性肩関節脱臼」といい、自分ですぐに整復(肩を元のポジションに戻す)できることがその特徴としてあげられます。このような場合はインナーマッスルの強化だけでは完治がむずかしいと考えられるため、医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。
【肩のゆるみを改善したい】
●肩関節を安定させるものは靱帯や肩のインナーマッスルなどがある
●投球動作を繰り返すと肩後方部に牽引力がかかる
●牽引力に抵抗できるだけの筋力が備わっていないと肩のゆるみなどにつながる
●スライディングキャッチやヘッドスライディングなどの外力によっても肩関節内部を傷めることがある
●まずは肩関節を支えるインナーマッスルを鍛えよう
●状態が改善しない場合や習慣性(クセ)になっているときは早めに医療機関を受診しよう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は12月15日を予定しております。