県立宇都宮北高等学校(栃木)
2005年の宇都宮南以来、公立校の夏の甲子園出場のない栃木県。そんな私学優位の栃木県にあって、近年着実に力をつけている県立校がある。09年春に10年ぶり2度目の関東大会出場を果たした宇都宮北だ。
09年秋、11年秋はともに8強入りして21世紀枠の県推薦校に選出。昨年度も国公立大に74名(野球部員8名)の合格者を出した県内屈指の進学校でもある。自らも国立の宇都宮大出身の福田博之監督の目標は「大学進学も甲子園出場も狙えるチーム」。福田監督就任時は各学年7~8名程度しかいなかった部員が現在は1年22名、2年18名。実績とともに徐々に人気も出てきた新鋭が、栃木に新風を吹き込めるか。
盗塁と実戦を意識した入念なアップ
“県立宇都宮北高等学校 福田博之監督”
月・火・木曜が7時間授業、金曜も特別授業があり7時間。6時間授業の水曜以外は練習が17時開始と練習時間は限られているが、アップの時間は削らない。30分程度時間をかけて行う。
「以前個人アップにしていた時期があるんですが、やっぱり甘えが出るんです。興南高校はアップとトレーニングを兼ねていると聞きますし、参考にしながらやっています」(福田監督)
言葉通り、アップ中のダッシュは、偽装スタートを兼ねた1クロスオーバー→1シャッフル、2シャッフル、投手役をつけての盗塁と実戦をイメージしたもの。短い練習時間を有効に利用しようという意識が見えた。
「毎日の積み重ねですからね。特に今年は走れる子が揃っている(レギュラー9人中50メートル6秒台前半が7人)ので、ああいうかたちでやっています」(福田監督)
事実、秋の県大会では走塁への意識が試合で表れた。2回戦の鹿沼商工戦ではほとんどノーサインで11盗塁。準々決勝の文星芸大付戦で0対0の7回に挙げた先制点も2死二塁からのランエンドヒットだった。3番・捕手としてチームを引っ張る和久基継は言う。
「走塁はひとりひとりが自信を持っています。ベースランニングならとにかく最短距離で、駆け抜けならベースの奥まで行く。(重圧をかけるため)常に偽装スタートもやりますし、一塁までの全力疾走はチームの決まり事になっています」。
体と心のスタミナUP
“宇都宮北弁当(黒尾吉史)”
チームの目標体重は身長マイナス100だが、エースの鈴木健朗が174センチ72キロ、主将の荻原昴平が165センチ62キロ、和久が176センチ74キロと2年生は多くが目標達成間近だ。年末年始は5日間の休日が与えられる予定だが、福田監督は「太ってこいと言っています」。正月のもちやおせち料理も増量のチャンスにする。
冬の体力強化策としてはサーキットトレーニング、軽い負荷でのウエートトレーニングに加え、休日の半日を使っての走り込みがメインになる。学校の近くにある北山霊園はアップダウンが多く、1周2キロとランニングコースには最適。さらに89段の階段もあり、ひたすら走り込む。
“宇都宮北・荻原(左)鈴木(右)”
また、走り込みは別の意味での狙いもある。精神面の強化だ。福田監督が「勝利への執念の差」と言うように、秋の大会は敗れた文星芸大付戦で8安打を放ちながら9残塁で1得点。逆にエースの鈴木は8回2死まで2安打投球を見せながら同点本塁打を浴び、9回に3安打を許してサヨナラ負けを喫した。
「この1点を守らなきゃと思ってしまった。ホームランで取られて、一気に点を取られちゃいけないと思ってしまいました」(鈴木)
打者はここ一番であと一本を出す精神力、投手はピンチで踏ん張れる精神力。精神面のスタミナアップがこの冬の課題だ。
宇都宮北では3~4人1組で行うダッシュがある。1位は前の列に上がり、最下位は後ろの列に下がるのをくりかえして40本。必然的に速い人は前の列、遅い人は後ろの列になるうえ、妥協すればその分も結果として表れる。前回と比べて、ひとつでも前の列になるように走る。自分との戦いだ。
「タイムつきで行うランニングでも『絶対前のタイムを超えるんだ』という気持ちがほしいですよね。超えられなかったら自分でペナルティーを決めて腕立てをやるとか。タイムや結果は野球ノートに書きますから、ノートを見て、苦しいときにこれだけやったんだと思えるようにしてほしいですね」(福田監督)
苦しい場面でどれだけ力を振り絞ることができるか。そこから頑張れる人と妥協してしまう人とでは、重圧のかかる場面での結果はおのずと変わってくる。練習時間が短いだけに、ひとつの練習にどれだけの意識を持って取り組み、意味を持たせることができるか。それがカギになってくる。
「練習時間がないので、取り組む姿勢しかないんです。授業中寝るなとかいった学校生活や私生活をちゃんとやりなさいと」(福田監督)
課題未提出や試験で赤点を取るなどした場合は、監督判断で部活動停止にすることもある。勉強も野球も手を抜かずどれだけできるか。それも精神面を鍛えるひとつの材料だ。
[page_break:打倒・私学強豪!チームとしての高いモチベーション]打倒・私学強豪!チームとしての高いモチベーション
“宇都宮北・濱田(左)和久(右)”
睡眠時間を確保して身体を大きくするため、例年は冬に朝練は行わない。だが、今年は選手たちで話し合ってポール間走10本をやっている。
「勝つんだったらそれぐらいしないと。(選手間の)ミーティングで自然と『やろうぜ』というふうになりました。この他にもみんな自主練が増えましたし、自分自身も去年より走るのが嫌じゃなくなりました。きついけど、そこでやらないと信頼関係も生まれない。『あいつ頑張ってるから、カバーしてやろう』と思われるようにやっています」(鈴木)
“宇都宮北・集合写真”
主軸として期待される濱田匠もこう言う。
「自分1人が頑張るだけではダメだと思います。強豪は9人揃っている。チーム内でライバルを作って、お互いが伸びて、全員の力が高まらないと勝負できない」
チーム全員で決めたことは全員が徹底する。レギュラーと控えの差がなく、学年の差がなくそれができれば、技術以上の力が発揮できるはず。
高い意識で、全員がどれだけやりきることができるか。それを継続することができるか。
「ウチは甘い球が来ても打ち損じる。私立はそれを逃さない。練習試合では以前から『ファーストストライクからいけ。3球で終わってもいい』と言っているんですが、試合だとできない。これは栃木県全体の特徴でもあるんですが……」
福田監督が話す問題点も、徹底力がなく、失敗してもしかたがないとわりきることができないから。勉強もでき、野球でも「進学校なのに頑張っている」と褒められて育ってきている選手たちだけに、何事も失敗できないという意識があるのはぬぐえない。
「例え野球で負けても『オレたちは受験で大学に行ける。何も怖くない』ぐらいの図々しさがほしいですね」(福田監督)
限界に挑戦し、チーム全体で徹底する。決めたことができれば、結果は失敗でもしかたがない。それぐらいの意識でひと冬過ごせれば――。来春、ひと皮むけた新しい宇都宮北ナインに出会えるはずだ。
(文・写真=田尻賢誉)