Interview

もはや美しくもあるフレーミングはなぜできるのか 12球団随一のキャッチング技術を持つ木下拓哉が語ったこだわり

2023.03.14

 近年、野球界は急速に技術革新が進んでいると言っていい。ピッチトンネル理論、バレルゾーン、フライボール革命など、計測機器の充実に伴って、多くの理論と技術が飛び交うようになった。

 その中の一種としてフレーミングを挙げていい。ストライクゾーンの際どい球をストライクに「見せる」高等技術で、メジャーから日本に技術が輸入され、プロはもちろん、アマチュアでも習得しようとする捕手が多い。

勝負どころでフレーミングを使うのが一番

もはや美しくもあるフレーミングはなぜできるのか 12球団随一のキャッチング技術を持つ木下拓哉が語ったこだわり | 高校野球ドットコム
木下拓哉

 まさにトレンドとなっている技術を、中日・木下 拓哉捕手(高知高出身)は高い精度で発揮している選手の1人だ。

 高知高時代には甲子園に2度出場した後、法政大、トヨタ自動車と渡り歩いて2015年のドラフトで中日から3位指名を受けてプロ入り。中日の正捕手として活躍し続け、今年8年目を迎える木下のキャッチングは、あらゆるところで特集が配信されている。

 木下の捕球技術がいかに上手いのか窺い知れるところだが、本人のなかでは「執拗にやる必要はない」と注意を促す。
 「審判も人間ですので、フレーミングをあまり意識しても印象が悪くなります。だから、要所で頑張ればいいと思っています」

 フル出場すれば、捕手は1試合でおよそ150球前後受ける。その150球のなかでも、試合開始の1球目とピンチの場面の1球では、1球の重みが違う。木下が伝えたいのは、後者のような勝負どころでストライクにしてもらうために、フレーミングがあるという考えだ。

 だから「初球から動かして、『こいつは動かす捕手だ』と審判に思われたら損をする」と執拗に使って審判との信頼関係を悪化させることを懸念する。あくまでフレーミングは捕球技術の引き出しとして捉え、「(初球から)頑張りすぎないことが大事になると思います」と拘り過ぎないように話した。

 ただ勝負どころで発揮する木下のフレーミングは美しくもある。本人はどんな感覚で捕球しているのか。
 「普通に捕球すると上から被せるように捕ってしまうので、手のひらをできる限り見せる感じです。捕球面を投手に向け続けるように、できる限り親指が頑張ることですかね」

[page_break:勝敗を握ることにやりがいを感じながら]

勝敗を握ることにやりがいを感じながら

もはや美しくもあるフレーミングはなぜできるのか 12球団随一のキャッチング技術を持つ木下拓哉が語ったこだわり | 高校野球ドットコム
木下拓哉

 あくまで木下の感覚のため全員が当てはまるわけではないが、技術の習得は簡単ではなかった。木下は元投手で、高知高の1年生秋から捕手を始めた。当時は「捕ることで、1試合こなすことだけに必死だった」ということで、技術力向上まで意識を向けることはできなかった。

 ただ法政大時代では3年生の時に三嶋 一輝投手(現DeNA)、さらにトヨタ自動車時代には社会人日本代表に呼ばれ、山岡 泰輔投手、田嶋 大樹投手(ともに現オリックス)とチームメートになるなど、高校卒業からプロ入りまでの6年間で各カテゴリーのトップチームに歩んだことで、必然的に好投手と組むことが増えた。

 中日に入団してからも、好投手と組むのは当たり前で、日々の成長が欠かせない。なかでも「岩瀬(仁紀)さんは受けて、ストレートが凄く動いて上手く捕れなかったので、『どうすれば捕れるんだろう』と思いました」と球界の大ベテランのエピソードを語ると、続けて、「数多く受けて身体で覚えることが、良いキャッチングに繋がるものだと思います」と投手に引っ張られるように技術が高まったこと、そして練習量を積んでいくことの必要性を話した。

 さらに「投手にも捕球に対して評価を聞いて修正すれば、投手からも信頼されるようになりますし、試合に出られると思います」と投手目線のアドバイスで捕球技術を磨くことも方法だとアドバイスを送る。

 捕球に対して強く拘る木下。キャッチャーミットにも、その思いは詰まっている。現在はミズノのキャッチャーミット専用・號シリーズの型を使っている。號シリーズは大きさ、ポケットの深さで3つの型に分けているのが特徴で、木下はサイズが大きくて、ポケットが深い型のB-D型(Big-Deep型)を採用している。

 「投手だけではなく、バックホームだったり、フライだったり、プレーに絡むことが多いので、握り替えよりも捕球に対して安心感が大事なんです。それで深いミットが好きなんですが、ミズノが自分の要望に応えてくれて、他メーカーでは出せないミットを使わせてもらっています」

 最後に球児に向けて、「負けたら終わりの戦いをしていると思うので、毎試合終わったら、クタクタになるくらい頑張ってやってください」とエールを送った。

 チームは2020年を最後にAクラスから離れ、優勝にいたっては2011年が最後だ。12年ぶりの優勝を目指してシーズンを戦っていく。グラウンドの指揮官と評されるだけに、捕手は責任重大なポジションだが、木下は大変だと思いながらも、少し違った考えもある。

 「自分のせいで負けることもあります。ただそれができるのは捕手だけで、勝敗を握っているポジションだからやりがいがあります。勝ったら思い切り喜んで、負けたら悔しいと感じてもらえればと思います」

 高知高、法政大、トヨタ自動車、そして中日とトップクラスの投手たちを受けて、木下は着実に成長してきた。現在のチームは、髙橋 宏斗投手(中京大中京出身)など若手投手が増えてきた。若手投手を成長させるという意味でも、今度は木下が引っ張る番だろう。

 勝負どころで見せるフレーミングで、若手投手やチーム、ファンの気分を乗せて、バンテリンドームナゴヤを沸かせてほしい。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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